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影を喰らうもの

朝の光が王都の通りを照らし、街はいつもの活気を見せていた。

パン屋からは焼きたての香りが漂い、人々の声が石畳に弾む。


ルーク・フレイアスは、王都北区にある静かな住宅街を歩いていた。

目的地は、今日の依頼で共に行動する仲間の家――レイナ・リーヴェルトの家だ。


(昨日はこちらから声をかけたんだ。ちゃんと迎えに行かないと)


玄関前で呼び鈴を鳴らすと、すぐに扉が開いた。


「あ……ルークさん!」


すでに外出の支度を整えたレイナが、明るい表情を見せた。


「おはよう。ちょっと早かったかな」


「いえ、ちょうど出ようと思ってたところです。弟も今日は教会で預かってもらえるので、大丈夫です」


「そっか。それじゃ、一緒に行こう。……廃村の調査依頼。昨日のうちに受けておいた」


「はいっ! よろしくお願いします!」


二人は並んで歩き出す。王都の喧騒は、徐々に背後へと遠ざかっていった。


廃村へ続く林道は、ひんやりとした空気に包まれていた。

陽が差しているはずなのに、どこか陰鬱な気配が残る。


「……空気が重いですね」


レイナがつぶやいたその時だった。


「来る!」


ルークが叫ぶと同時に、影の中から鋭い牙と黒い体毛――《影猟りハウンド》が飛び出してくる。


「《収納》!」


空間の口が開き、飛びかかってきた一体が吸い込まれていく。


その瞬間――


「右から二体来ます!」


レイナの声が飛ぶ。


三体、四体と、影から滑り出すようにハウンドたちが現れ、包囲を狭めてくる。


(展開は一か所……インベントリだけじゃ間に合わない!)


「《フレアライト》!」


レイナの光魔法が弾け、一瞬、影を払う。ハウンドたちが怯んだ隙に――


「収納展開!」


空間が開き、杭と鎖が射出される。ルークはそれを手際よく操り、前脚を拘束、一体を転倒させた。


「もう一体、後ろから来る!」


「こっちだ!」


ルークは収納からネット罠を取り出し、踏み込みざまに投げる。

絡まった個体がもがいたところへ、剣が閃いた。


一体、また一体――的確に数を減らしていく。


(一体ずつなら問題ない。けど……この連携、ただの魔物じゃない)


やがて、五体目のハウンドが地に倒れた。


静寂が戻る。


「ふぅ……これで一通り、片付きましたね」


レイナが額の汗をぬぐう。


「うん。でも、動きが妙に統制されてた……誰かに“命令”されてるような」


そのとき――


「……あれ」


レイナが、倒れた納屋の影を指差した。


瓦礫の裏に、モンスターの死骸がある。中型サイズ、角の形状からして、かつて図鑑で見た《ブレイザーバグ》の亜種らしい。


「……これ、ブレイザーバグですよね? でも、なんでこんな場所に……」


「“偶然”が重なりすぎてますよね。何かが裏で……」


「しかも……見て。筋肉が……膨張してる。まるで破裂寸前みたいな……赤黒い血管も浮いてる」


レイナの声がかすれる。


「……前にも、見たな。森の中で《ダスクフォング》たちの死体を見つけたときと、同じだ」


「はい……皮膚の裂け方も、そっくりです。やっぱり、普通の死に方じゃありません」


「……この種、確か山岳地帯にしか生息しないはずじゃ……」


「はい。おかしいです。 こんな街近くの廃村で死んでるなんて」


ルークは魔法紙を取り出し、異常部位を写し取る。


「この記録、ギルドに提出しよう。今回の依頼より、こっちの方が重要かもしれない」


「……はい」


二人はもう一度、あたりを警戒してから、その場を離れた。


日が傾き始めた頃、二人はギルドに戻った。


受付ではリーナが出迎える。


「ルークさん、レイナさん! おかえりなさい!」


「ただいま戻りました。討伐、完了です」


ルークは《無限インベントリ》を操作し、素材の入った袋を取り出す。


「よし、分解も終わったよ」


「やっぱり便利ですね、インベントリの機能……」


レイナが微笑み、リーナは手早く確認作業を進めた。


「提出内容、すべて問題なしです! 戦闘時間も、負傷もほぼゼロ……文句なしの高評価ですよ!」


「それと、これも……」


ルークは、異常なモンスター死体の記録を差し出した。


「《ブレイザーバグ》の亜種が、明らかに異常な状態で死んでいました。筋肉の膨張、赤黒い血管の浮き出し……以前、森で発見した《ダスクフォング》と同じ症状です」


リーナが受け取ると、表情が少しだけ固くなる。


「わかりました。……この件は、私からギルド長に直接、報告しておきます」


「お願いします。気になる異常なので」


ルークの声に、リーナは真剣に頷いた。


ギルドを後にしたルークとレイナは、しばらく無言のまま歩いていた。


沈む陽の光が、街路を橙に染めていく。


「……ルークさん」


「ん?」


「また、こうして一緒に戦えて……少しずつですけど、自信がついてきました」


「……よかった。僕も、レイナさんがいてくれて助かってる。ありがとう」


レイナはうつむき加減に笑った。


二人の影が、夕陽に伸びていく。


まだ知らない何かが、この王都の近くで、ひそかに動いている。

だが――


それに立ち向かう力を、二人は少しずつ手にし始めていた。

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