14話 映画の後でお仕事 4
「その上映会、僕も行っていいですか?」
「え?」
「キルコさんの話口調がいつもと違うことから、本人の前での反応も変わるのではないかと思って。証明に使える貴重なデータが得られるかもしれません」
皇は、いかにも研究者らしい顔で私を見た。
うっ! いい顔すぎてドキドキしてきた……!
目を逸らしてうつむくと、だんだん、興奮した話し方になってしまったことが恥ずかしくなってきた。なぜなのだろう。話せたことは楽しかったのだが……。
ゆえに、一緒に行くのは躊躇した。自分の恥をさらに晒してしまう気がして億劫になる。そんなことを気にして気持ちや態度を抑え込んでは楽しめないだろう。せっかくの生緋王様を拝める機会だ。存分に楽しみたい。
それに、映画の後、「ひおさんぽ」で訪れた居酒屋に行って緋王様のおすすめしていた日本酒を飲もうと思っていたのだ! 皇がいたら、酒が飲めない……!
「今日は一人で行きます。チケットも事前予約が必要な上、当落がある特殊ものなので、もう入手できないと思いますし」
「チケットは大丈夫です。手に入ると思うので。あ、取れました」
スマホを二、三度触っただけで、とれただと……?
どういう魔術だ。まあ、私もチケットの類は神力を使って用意しているのだが。
「キルコさんの楽しみの邪魔はしません。キルコさんの反応を観察するだけなので」
たしかに、皇はそういう男だ。なぜだろうと思うことはあっても、変とかおかしいとか、そういう見方をしない。自分の印象や価値観に無頓着なのだ。言い換えれば、寛容。さすが推し! 人間的魅力の塊!
それに、私のどんなところも尊重してくれると言ったし……。言葉を信じてチラリズムをさせても、変な目で見なかったし。
恥を晒すなどと思わなくてもいいのかもしれない。
そもそも私が興奮することになんの恥があろう。これが私の愛の形だ。恥じるべきことなど何一つないのだ。一周まわって吹っ切れた。
だが――やはり、日本酒が飲みたい!




