13話 筋肉がお仕事 5
「じゃあ、好きにかかってきてくれていい。僕は護身しかしない。ただし、僕が勝ったら、二度とキルコさんに近づくな」
「人間ごときが俺に勝てるわけねぇだろ。お前は死ぬ。今、ここでな!」
ジャックはブレザーと白いシャツを脱ぎ捨てた。
パンパンに膨らんだ筋肉が太陽の光に照らされる。おえっ、気持ち悪い。
190㎝をゆうに超える屈強な筋肉男に見下ろされる、180㎝の細身の皇。
一見、体格差だけで勝敗が分かるようなビジュアルである。
皇は、メガネを取り、ポケットに入れた。
前髪から透ける目が、鋭く、ジャックを睨んだ。
か…………かっこいい…………っ!
真面目な顔に怖さを加えたような戦闘モードの表情! いいっ……! いつものやわらかい皇とのギャップがたまらない……っ! 萌えっ!!
「死ね!!」
ジャックがこぶしを唸らせ、皇に殴りかかった!
皇は動かない。こぶしが、皇の美しい顔面に迫る。
あと1mmで触れてしまう――と思った、その時。
皇が、体を斜め前に逸らし、ジャックの手首を捉え、ぐるんとジャックを投げ飛ばした!
「…………はっ⁉」
背中を打ちつけられたジャックは、わけが分からないという顔をしていた。
皇は冷たく見下ろしたまま、ジャックから手を離し立ち上がる。
かっこいい……!
「まだだ!」
ジャックがしつこく立ち上がり、皇に殴りかかる。皇は後退しながらすっすっと避けると、一定の間合いになった瞬間、伸びてきたジャックの腕を思い切り蹴り上げた!
美!!!!
「くっ……!! まだだこの野郎!!」
掴み掛かろうと迫るジャックの胸ぐらが皇の細い手に掴まれる。さっと足が払われて、ジャックの背筋は再びコンクリートの地面に打ちつけられた。
「……かっ………………! な、なんだ、てめぇ……! ひょろひょろのくせに、な、なんで……!」
やはり。この馬鹿のことだ。資料を最後まで読んでいないだろうと思っていたが、その通りだった。
「合気道、空手、柔道、少林寺拳法、剣道、弓道。大体の武道はできますので」
『襲いかかる刺客たちをそれらの武道で倒してしまうため、接近戦は不可。』
そう資料に書いてあったのに。
本当に脳みそのない馬鹿な男。反吐が出る。
「それと、それらを完璧にこなすためにある程度の筋肉量は必要だから」
皇が、ネクタイをとった。
静かに、シャツのボタンを外す。
「ちゃんと、筋肉はある」
皇がシャツをめくる。
中が、見えた。
控えめながらも確かに存在する、引き締まった、美しき筋肉……!!
あ……あ……あ………………。
あぁ――――――――――――ッ!?!?!?
叫びそうになる寸前で、咄嗟に両手で口を覆った。
す、すすすすすすす、皇の、体!!
はっ、はっ、はっ、はっ……!!
心臓がドクドクと鳴り響いて息が上がる。
よよよ、よすぎる……! 最高すぎる!
好きすぎる――――――――ッ!!
「うるせぇ! 筋肉は、俺の方が上だ――ッ!」
ジャックが腕を振り上げ、再び皇に襲いかかった。皇は、さっと体を翻してこぶしを避けると、そのまま一回転し、思い切り、しかし華麗に飛び蹴りをした!
ジャックのみぞおちにクリティカルヒット! ジャックは宙を舞ったかと思うと、ばたりとコンクリートの床に転がった。
ウィナー、皇!
ジャパニーズ・武道、最高――!
「僕の勝ちだ」
キャ――――――! 萌え――――――――――!!




