13話 筋肉がお仕事 4
昼休みのはじめに文化祭関連の集まりがあるとかで、私は先に屋上に向かった。
フェンスから下を眺めながら、今日はどうやって皇を殺そうかと、ぼんやり思案を巡らせる。
「よぉ、キリィ!」
背後からの声に驚き振り向く。我が校の制服を纏ったジャックが眼に映る。
ガシャン!
ジャックの両手が、私の逃げ場をなくすように、乱暴にフェンスを掴む。
ジャパニーズ・壁ドン、両手バージョンだ……。
なんてことだ……。日本の素晴らしきサブカル文化から生まれた萌えシチュエーションのはずなのに……!
萌えない! まったく萌えない! 嫌悪感しかない!! 心臓の奥がゾワゾワする!
「離れて、気持ち悪い!」
足で蹴り飛ばしてやりたかったが、こいつの分厚い筋肉に効くはずがない。靴が汚れるのもいやだ。
「そう言うなって。お前の仕事、手伝いに来たんだぜ?
皇 秀英。あいつ、標的なんだろ?」
私のいない間に私の部屋に入って資料を盗み見たのか。
「必要ない」
「東洋支部の死神たちが十年間逃し続けた標的、だっけか? さすがのキリィでも手こずってんだろ? 仕事を受けた日から三ヶ月も経ってるじゃねぇか。いつものキリィなら、一瞬でかたをつけるのによぉ。キリィ一人じゃ難しいってことだろ?
俺があいつを引き付けておいてやる。その隙に魂を回収しろ。俺が手伝ったことは報告しなければいい。手柄は全部キリィのものにすればいい。俺はお前のためならなんでもできるぜ。愛してるからな」
「結構。私一人でできる。余計な手出ししないで」
「いいから一回やってみようぜ? 絶対うまくやってやるからよ。
あーキリィの体がやわらかくて、やるやる言ってたらムラムラしてきたぜ……
なぁ、絶対うまくやってやるから、先に一発ヤらせろよ。断り続けてきたことを後悔するくらい、めちゃくちゃに愛してやるぜ、キリィ」
舐め腐って。
体の底から、怒りの雷が湧き上がる。
黒焦げにしてやる――!
と、思ったその時だった。
「キルコさんから、離れろ」
皇の手が、ジャックの肩を掴んでいた。
「来たな」
ジャックはフェンスから手を離すと、肩にある手を振り払い、皇と向き合った。
「制服を着て侵入してきたのか」
「黙れ人間。俺と、決闘しろ!」
決闘?
それが「引きつけておく」の意味だったのか?
馬鹿すぎる……。
皇は、表情一つ変えず、蔑むような目でジャックを見ていた。
「理由を端的にどうぞ」
「人間ごときが俺に指図するな。キリィのためにお前を殺す。それだけだ!」
皇は首を傾げた。だが、話が通じないと察して諦めたのだろう。
冷静にジャックを見据えた。




