12話 文化祭で推し事 7
外には、部活動ごとの屋台やイベントのテントがずらりと並んでいた。
部活動の屋台も、面白いものがたくさんあった。
焼きそば、たこ焼きせんべい、鈴カステラ、タピオカドリンク。
皇と両手いっぱいに食べ物を抱えていたのに、野球部の坊主たちからケバブをもらってしまった。献上するかわりにか、「俺の名前覚えてください!」などと言われたが、全員丸刈りで、顔と名前も全員同じにしか思えず、すぐに忘れてしまった。
「袋かなにかを持ってくればよかったですね。ひとまず、どこかに座って食べましょうか」
そうしようと、頷こうとした時だった。
背後から、屈強な腕が私の体を抱きしめた。
反動で、鈴カステラが散らばる。タピオカドリンクが地面に落ちる。
「見つけたぜ、キリィ!」
――ジャック……⁉
どうしてここに。
そう言う前に、ジャックは私の頬に頬をこすりつけた……!
「ああ、キリィ! こんなにお前に触れるなんて夢みたいだぜ! いつもと違う可愛いカッコも最高にそそるぜ! あぁ、やわらけぇ……! いいにおいだぜぇ……」
胸が揉まれる。太ももが触られる。頭が吸われる。
気持ち悪い……!
鳥肌が立ち、声を出すことさえできなくなった。
雷を出して蹴散らしたかったが、皇や周りの目がある。迂闊に行動して人間ではないとバレるのもまずい。
どうするかと思案しようとした時、皇の手から、たこせんべいが落ちた。
そして、私の胸を揉むジャックの手首を、ぐっと掴んだ。
「離してください」
「黙れ人間。キリィは俺の女だ。近づいたら、殺すぞ」
皇が、目を見開く。
ジャックは皇の手を払うと、「行こうぜ、キリィ」と私を抱きしめたまま皇に背を向け、私の肩を掴んで歩きだした。40㎝近く差のある屈強な大男に抵抗しようもない。足が勝手に、ジャックについていってしまう。
「離して。気持ち悪い。死んで」
「そんなこと言うなよぉ。キリィの欲しかったもんが手に入ったからすぐに届けてやりたくなってよ! カラスに聞いたらここだっていうから、飛んできてやったんだぜ?」
欲しいもの?
ま、まさか……。
「ほらよ」
ジャックが差し出した、手のひらサイズの小さな白い箱を受け取る。
中にあったのは――。
スマホ! しかも、日本製!
や、やった……! これで皇を撮りまくれる……! 嬉しい……!
「じゃあ、礼をもらうぜ、キリィ」
歓喜に酔う私を、ジャックはぐいっと、強引に壁に押し当てた。顎を掴まれた。好みじゃなさすぎるいやらしい顔と、強制的に見つめ合わせられる。怒りが湧き、嬉しさが一気に掻き消えた。
「触らないで。死んで」
「お前をこんなにたくさん触れんのに、我慢できるわけねぇだろ? 2000年我慢させられたんだ! 唇も体も、俺のモノにしてやる!」
ジャックの顔が近づいてくる。
ブチッと、頭の中で音がする。
私のストレスは限界値を迎えていた。
——もう、周りなど知るか!
これまでに溜まっていたストレスの分も、まとめて全部爆発した!
「死ね!!!!」
バリバリバリバリッ!!!!
「ヅァアアアアアア――――ッ!!!!」
10万ボルトの雷が、私の体から解き放たれた。
ジャックの手が私から離れた。
その時。ジャックの手首を、美しい手が捕えた。
――皇。
「この男です」
その言葉を合図に、何人もの警備員がジャックの体を取り押さえた。ジャックは雷で痺れたせいで抵抗できない。
「うぅ……キリィ……」と情けない声をこぼしながら、ずるずると引きずられていった。




