12話 文化祭で推し事 6
ひととおり教室棟をまわりきったので、武道場の謎解きホラー脱出ゲームに向かった。あまり興味はなかったが、催し物のラインナップの中で、唯一、チャンスがありそうなところだったからだ。
二週間の準備期間の中で、私は皇がなぜこんなにも気配に敏感で反射神経がいいのか、さりげなく聞いてみた。皇は、幼い時から銃撃を受けたり、誘拐しようとしてくるやつらに襲われたりしているために、襲ってくる者の気配に敏感なのだと話した。これが、直接的物理攻撃が効かない理由だったのだ。
だが、真っ暗闇の中であれば、攻撃に気付かれても、止められることはないだろう。皇の姿も見えないから、私が容赦することもない。
今までで最大のチャンスとなるだろう。
推しをこの手で葬ることはこの上なく悔しく、恐れ多く、大変悲しいことではあるが……。私の悠々自適な生活を守るためには仕方ない。
私は常に覚悟していた。今も覚悟は固まっている。
皇のグッズはある程度手に入れた。ファンサもたくさんしてもらった。
もはや、一片の悔いもな……いやある。あるが、やらねば!
迷路に入る。真っ暗で行き止まりの小さな部屋だった。皇が、入り口でもらった小さな懐中電灯を照らしながらあたりを見る。血糊でつけたらしい血飛沫や手形の模様が一面にある。壁の血まみれ模様のボードに、のクロスワードパズルようなものが書かれていた。
私は、死神姿に変わった。大きな鎌を手に宿す。
そして、皇の背中に向かって、思い切り振り下ろした!
「あった、扉」
「キエーーーッ!」
「ひっ⁉」
皇が謎を解いて扉を開き、足元からよく分からぬ血まみれのコスプレ女が飛び出し、私が思わず鎌を振り上げ退く――その間、約一秒であった。
その後も、同じようなことが繰り返された。0.3秒で皇が謎を解いて次の部屋の扉を見つけ、想像以上の速さに慌てて出てきたお化け役のコスプレたちに私が驚き――あるいは「見つけました」とちょうどいいタイミングで動いて鎌を回避する。
結果、五分とかからず脱出してしまった。
皇は、一度も驚かなかった。お化け役と壁に飾られていた血まみれの日本人形たちが可哀想である……。
千載一遇のチャンスもだめだったか。だが、暗いところが有効か否かの確認は取れていない。気配に気付いていない様子だったし、また違う機会を狙おう。
「次は外の屋台ですね。行きましょう」
差し伸べられた手を握る。
今日の仕事は終わった。
あとはもう、楽しむだけだ。




