12話 文化祭で推し事 5
廊下の先を見ると、いつもと違う学校の風景にワクワクした。普段は学校に入れぬ一般人、プラカードを持って練り歩くコスプレたち、教室の壁にごってりと貼られた手製の装飾。まさに、ザ・文化祭!
この学校は、特進理系が二クラス、特進文系が二クラス、一般理系が四クラス、一般文系が四クラス。特進理系は三学年ともAクラスはサイエンスショー、Bクラスは実験体験会だった。面倒くさがっているのか伝統なのか、とりあえず三年間同じことをするしきたりのようだ。
だが、その他のクラスは完全に自由。演劇、映画、三Dアート、お化け屋敷、迷路、ジェットコースター、カフェなど思い思いの催しをしていた。
中でも私が一番気になったのが、三年特進文系Aクラスの文豪カフェ……!
行ってみると、文豪のコスプレをした男たちが給仕をしていた。すごい。着物も髪型もメイクも、写真そっくりだ……!
メニューも文豪の作品をモチーフにしたものが並んでいる。太宰治「斜陽」のスープ、宮沢賢治「注文の多い料理店」の肉料理……。
「私はこれにします」
「じゃあ、谷崎潤一郎『美食倶楽部』の中華セット二つで。
好きなんですか? 谷崎潤一郎」
「はい。文豪の中で一番好きです。女性の描写が好みです」
「あまり文学に興味がなく、どれもタイトルとあらすじくらいしか分からないのですが、読んでみます。おすすめがあれば教えてください」
普通のチャーハンとしゅうまいだったが、気分だけを味わって、谷崎潤一郎のコスプレ男と握手して店を出た。コスプレ男は、私との握手に喜んでいて、「やばいやばい!」と呟いていたのが残念だった。谷崎潤一郎はそんなこと言わない。
ついでに、ざっと三年生の教室も見て周り、もう一つの目的地である一年一般文系Dクラスの縁日に向かった。
ジャパニーズ・縁日……! 祭りと同義とはいえ、この響きがいい。
教室前に、デカデカと「一D神社」と書かれた赤い鳥居が飾られていた。
射的、輪投げ、水風船掬い。皇はすべてを計算によって攻略し、私は神力によって支配した。
景品はたいしたことがなかったのでもらわずに、水風船を二つだけもらって歩きだす。
途中でたい焼きを買って食べながら、校舎を練り歩いた。




