12話 文化祭で推し事 4
一部が終わった。あとは時間いっぱいジャパニーズ・文化祭を楽しむのみ!
窮屈でいやだったので、まだ着ていなかったコスプレ衣装に着替えた。
黒いワンピースに、白い襟とフリフリのエプロン。白い網ニーハイ。
着姿を見て、メイド服だと分かった。まさか、ジャパニーズ・メイドコスプレをする日が来ようとは……!
しかも、胸元が猫の形に空いており、スカートには白い尻尾のようなものがついている。猫耳メイドというやつのようだ。衣装の山を探ると、猫耳と鈴のついたチョーカーを見つけた。
リン、と鳴らして廊下に出る。廊下の椅子に座り、パソコンを開いていた皇が、顔を上げた。
「あ、キルコさ…………」
「おかえりなさいませ、ご主人様。です」
猫耳カチューシャの後ろで結んだツインテールが揺れた。
皇は、微動だにしなかった。前髪とメガネのせいで顔がまったく見えなかった。
私は、すっとメガネを取った。
が、なぜか両手で顔を覆い隠してしまった。はぁ、と長いため息をつき、うつむく。
皇が、その美しい顔をやっと上げた。
皇の顔は、紅潮していた。瞳が潤み、唇が歪んでいる。
も……萌え萌え、キュ――――――ン!!
そして、なんたる色気!!
緋王様の落ち着いた色気ではない、湿っぽい色気……!
色気を通り越してエロい! いいっ!
皇は、小さな声で「座ってください……」と呟き、自分の隣に私を招いた。
膝の上のパソコンのキーボードを、震える指でそっと押す。プレゼンテーションが表示された。
皇は、この後の動きについて、A〜Gのプランを提案してきた。私が一番ワクワクするのは、日本文化らしいところ。それがより楽しめる出店を選んでくれていたようだった。ステージ発表は興味がないので、そこに行かないFのプランで回ることにした。
「では、行きましょう」
「あ、その前に」
皇が、鞄から白い時計を出し、私に差し出した。
「脈拍計です。今日一日、僕といる時の脈を測っていただけたらと思います。証明の資料にしますので」
画面を見ると、十一時十二分とあった。時計の機能もあるらしい。ひとまず右手首につけてみた。
「分かりました。では、私のお願いも聞いてください」
「なんでしょう」
握手――それは今少し物足りない。
私は、欲張る!
「一日、手をつないでいてください」
皇は、大きな瞳をこれでもかというほどに見開くと、
「……わ、分かりました」
と消えそうな声で言った。
「では、いきましょう」
手が、差し伸べられる。キュンキュンしながら、皇の手に触れると、胸の音がドキドキに変わった。




