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死女神キルコの推しごと  作者: 鈴奈
第7話 ウィルスでお仕事
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12話 文化祭で推し事 3

そんなこんなをしていたら文化祭がスタートした。

 私は四部あるうちの一部目で仕事をすることになっていた。皇のパフォーマンスのサポート係だ。隣で道具を渡してやるだけなので、簡単。

 だから、隙を見て鎌を振り下ろし、魂を奪ってやろうと思い、準備期間、練習のたびに鎌を握っていたが、結局殺せずじまいだった。光を取り扱うからと言ってメガネ姿でいたために、鎌を振り下ろす私の手に躊躇はなかった。ただ、皇の反射神経に勝てないのだ。どうやっても、さらりと避けられる。豚どもに鎌を持たせて襲撃を試みたが、結果は同じだった。

 そうしてハデスにネチネチと言われ続けたこの二週間、ストレスの蓄積は半端でなかった。

 その上、ジャックも頻繁に顔を出す始末。日本酒を届けるのはいいが、いつまでもスマホは持ってこないし、暑苦しいし鬱陶しいし、緋王様を拝むという私の唯一のストレス解消の時間は潰されるし……!

 私はいい加減、ストレスで爆発しそうだった。

 とはいえ、この時間を耐えれば、ジャパニーズ・文化祭を巡ることができる……!

 楽しみなことができれば、きっとストレスは解消しよう。

 パフォーマンスなんぞ、早く終われ。


 教室には、座りきれないほどの観客が集まってきていた。文化祭テーマの「未来を創造する」に関連付けて、子ども向けにつくっていることもあり、一番前の席には小さな子どもたちが座っていた。

 拍手が鳴り響き、ストーリー仕立ての演目が開幕した。

 題目は「女神の素顔」。

 本物の女神である私を女神役で出演させるなど、なんという贅沢ものたちだろう。まあ、女神は女神でも、死女神だが。


「皆さんにとって、美しいものはなんですか」


「宝石!」

「お花〜!」

「お姫様〜!」


「そうですね。僕もどれも美しいと思います。

 ですが、この世界で一番美しい女神様がいるんです」


 レースで顔を隠した私が登場し、皇の横に並んだ。


「わあ~綺麗~!」

「お顔見えないけど、綺麗~!」

「お顔見たい~! 見せて見せて~!」


 子どもたちが見せて見せてとコールする。

 やかましい、愚か者どもが。身分をわきまえられず、常にうるさい無礼な存在どもめ。ああ、いやだ。だから子どもは好まないのだ。


「女神様は、美しいものをプレゼントすると、お顔を見せてくれるといいます。

 女神様にとって、美しいものはなんですか?」


「花が美しいと思います」


 本心ではない。私にとって最も美しいものは、推しである!


「ですが、どの花も見飽きてしまいました。この世でただ一つしかない花をくだされば、顔を見せてあげましょう」


「この世でただ一つしかない花……。どこに咲いているのでしょう。

 分からないので、つくってしまいましょう」


 四つ折りにしたティッシュペーパーを取り付けた棒を渡す。

 皇はそこに水を吹きかけ、鉄の粉を振りかけた。

 幼い声が、「魔法の粉?」と言ったのが聞こえてきた。

 照明が落ちた。皇が、ティッシュペーパーに炎を吹きかける。炎の飛沫がぶわっと上がり、火花が咲いた。ワッと歓声が起こった。


「いかがでしょう」


「素敵です。でも、一番美しい色にしてください」

 

「お好きな色を言ってください。何色にも変えられます」

 

 霧吹きを吹きかける。赤色に変わる。また、観客が沸いた。


「何色がいいでしょう。皆さん、教えてください」


 幼い声が次々と色を言うのに合わせて、水を吹きかけ、色を変える。黄緑、紫、青、橙。

 最後にピンク色に変えたとき、「わあ、ピンク! 恋の色だぁ!」と、小さな少女が嬉しそうに言った。

 私は、「この色がいいです」と言った。


「皆さん、ありがとうございます。おかげで、一番美しい色が分かりました。これなら、女神様がお顔を見せてくださるでしょう。

 さあ、これをどうぞ、女神様」


「まあ、美しい」


 皇が、私に花火を差し出した。

 私はレースをとって、受け取った。

 私の顔が光に浮かび上がったのか、はぁ……と感嘆の息が観客たちから漏れた。

 泡のような拍手が起こる。しばらくすると教室は、割れんばかりの拍手でいっぱいになっていた。

 

 その後の皇のマシンガンのような解説がなければ、最高のショーとなっただろう。



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