12話 文化祭で推し事 3
そんなこんなをしていたら文化祭がスタートした。
私は四部あるうちの一部目で仕事をすることになっていた。皇のパフォーマンスのサポート係だ。隣で道具を渡してやるだけなので、簡単。
だから、隙を見て鎌を振り下ろし、魂を奪ってやろうと思い、準備期間、練習のたびに鎌を握っていたが、結局殺せずじまいだった。光を取り扱うからと言ってメガネ姿でいたために、鎌を振り下ろす私の手に躊躇はなかった。ただ、皇の反射神経に勝てないのだ。どうやっても、さらりと避けられる。豚どもに鎌を持たせて襲撃を試みたが、結果は同じだった。
そうしてハデスにネチネチと言われ続けたこの二週間、ストレスの蓄積は半端でなかった。
その上、ジャックも頻繁に顔を出す始末。日本酒を届けるのはいいが、いつまでもスマホは持ってこないし、暑苦しいし鬱陶しいし、緋王様を拝むという私の唯一のストレス解消の時間は潰されるし……!
私はいい加減、ストレスで爆発しそうだった。
とはいえ、この時間を耐えれば、ジャパニーズ・文化祭を巡ることができる……!
楽しみなことができれば、きっとストレスは解消しよう。
パフォーマンスなんぞ、早く終われ。
教室には、座りきれないほどの観客が集まってきていた。文化祭テーマの「未来を創造する」に関連付けて、子ども向けにつくっていることもあり、一番前の席には小さな子どもたちが座っていた。
拍手が鳴り響き、ストーリー仕立ての演目が開幕した。
題目は「女神の素顔」。
本物の女神である私を女神役で出演させるなど、なんという贅沢ものたちだろう。まあ、女神は女神でも、死女神だが。
「皆さんにとって、美しいものはなんですか」
「宝石!」
「お花〜!」
「お姫様〜!」
「そうですね。僕もどれも美しいと思います。
ですが、この世界で一番美しい女神様がいるんです」
レースで顔を隠した私が登場し、皇の横に並んだ。
「わあ~綺麗~!」
「お顔見えないけど、綺麗~!」
「お顔見たい~! 見せて見せて~!」
子どもたちが見せて見せてとコールする。
やかましい、愚か者どもが。身分をわきまえられず、常にうるさい無礼な存在どもめ。ああ、いやだ。だから子どもは好まないのだ。
「女神様は、美しいものをプレゼントすると、お顔を見せてくれるといいます。
女神様にとって、美しいものはなんですか?」
「花が美しいと思います」
本心ではない。私にとって最も美しいものは、推しである!
「ですが、どの花も見飽きてしまいました。この世でただ一つしかない花をくだされば、顔を見せてあげましょう」
「この世でただ一つしかない花……。どこに咲いているのでしょう。
分からないので、つくってしまいましょう」
四つ折りにしたティッシュペーパーを取り付けた棒を渡す。
皇はそこに水を吹きかけ、鉄の粉を振りかけた。
幼い声が、「魔法の粉?」と言ったのが聞こえてきた。
照明が落ちた。皇が、ティッシュペーパーに炎を吹きかける。炎の飛沫がぶわっと上がり、火花が咲いた。ワッと歓声が起こった。
「いかがでしょう」
「素敵です。でも、一番美しい色にしてください」
「お好きな色を言ってください。何色にも変えられます」
霧吹きを吹きかける。赤色に変わる。また、観客が沸いた。
「何色がいいでしょう。皆さん、教えてください」
幼い声が次々と色を言うのに合わせて、水を吹きかけ、色を変える。黄緑、紫、青、橙。
最後にピンク色に変えたとき、「わあ、ピンク! 恋の色だぁ!」と、小さな少女が嬉しそうに言った。
私は、「この色がいいです」と言った。
「皆さん、ありがとうございます。おかげで、一番美しい色が分かりました。これなら、女神様がお顔を見せてくださるでしょう。
さあ、これをどうぞ、女神様」
「まあ、美しい」
皇が、私に花火を差し出した。
私はレースをとって、受け取った。
私の顔が光に浮かび上がったのか、はぁ……と感嘆の息が観客たちから漏れた。
泡のような拍手が起こる。しばらくすると教室は、割れんばかりの拍手でいっぱいになっていた。
その後の皇のマシンガンのような解説がなければ、最高のショーとなっただろう。




