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死女神キルコの推しごと  作者: 鈴奈
第7話 ウィルスでお仕事
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11話 文化祭準備でお仕事 5


 放課後。サイエンスショーの打ち合わせは「小実験室」というところでやるとのことで、皇に連れられ、そこに向かった。皇は、前髪は無造作に分けていたものの、メガネのままだった。「外してください」と言ったが、「薬品を扱うので、このままで許してください」と断られた。なんという男だ。私の願いを断るとは……。


 実験室の扉を開けると――。


「エルデさーん!!」

「皇ぃ! お前にばっかりエルデさんを独り占めさせねぇぞ!」

「お前がエルデさんに手出ししないか、俺たちが見張ってやる!!」


 五匹の豚どもがいた。くさい。


「部活は?」


「今日は休みだ」


「そっか。じゃあ手伝ってよ」


 皇は豚どもに指示を出し、器具や物の準備をはじめた。ビーカーやフラスコ、電流系、薬品、化学物質が並ぶ。

 私は豚の用意した椅子に座り眺めていた。

 パフォーマンスは、四部に分けて行う。演目はそれぞれ別のものを行う。


「キルコさんは、どれが一番見応えがあるか教えてください」


 正直、科学に興味がないからどれでもいいのだが。

 それより、皇と一緒に支度をする豚どもが使えるか、試してみるか。

 私は羽の髪飾りに力を込め、皇の隣にいる目の小さな白豚のポケットにそれを飛ばした。


「まずは、火のパフォーマンスから行きましょう。準備できた。電気、お願い」


 パチリと電気が消えた。窓は黒いカーテンで閉ざされ、研究室はすっかり暗くなった。皇がなにかをピンセットで掴み、そこに薬品を吹きかけているのがうっすらと見える。

 皇が集中している、暗がりの中――。

 そのチャンスを、私の羽は逃さなかった。実験を手伝っていた豚の白いポケットからふわりと漂い、豚の手に近づくと、鎌の形に変わった。そして豚の意識を乗っ取った。

 豚は、ふらりと半歩後ろに下がった。

 皇は「よし」とピンセットでなにかを掴んだ。すっかり集中しているのか、背後に注意を向ける様子はない。

 ――今だ。

 豚の手の鎌が、皇の背後を襲った!


 ――パシッ。


 鎌が皇の背中に突き刺さろうとした瞬間。

 皇が、豚の手を掴んだ。後ろ手のまま、豚を見ることもせず。


「どうした?」


「……ん? あれ? 俺、なんかしたか?」


「実験中は腕を振りまわさないこと」


「すまん」


 豚の意識も戻ってしまい、結局、私の実験は失敗に終わった。まあ、皇のことだから、こうなるだろうとは思っていたが。

 やはり一番油断していたのは身内、または私か……。とはいえ、この豚が無能だっただけで、チャンスがあるかもしれない。数日はこの作戦で粘ってみるか。


「点火します」


 皇の声の直後、暗闇の中に、激しい火飛沫が浮かび上がった。

 とても美しい橙の光。

 まるで、ジャパニーズ・花火……。たしか、手で持つタイプの花火がこんなふうだった。

 皇が火に、霧吹きのようなものでなにかを吹きかける。花火の色が変わった。美しい黄緑色。なぜ? 魔法のようだ……。すぐにまた、霧吹きによって色が変わった。赤。どうなっているのだ……!


「花火の原理を使ったパフォーマンスです。日本文化の一つなので、キルコさんが好きかと思って」


 電気がつく。

 皇の唇が、やわらかく微笑んでいた。

 

 ――私が、好きだと思って……?

 キュン、と胸が鳴る。

 

 私のために、なんて……。

 なんて最高なファンサ!!

 

 メガネをかけていても、前髪で顔が隠れていても、推しからの供給はすべて幸福!

 ああ、ますます推しになる……!

 

 推し事、最高! 推し事、楽しい――っ!



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