11話 文化祭準備でお仕事 4
「では、あと三問は、キルコさんの僕への気持ちが推しではないことを証明するための質問をさせてもらいます。
一問目です。キルコさんの推しの定義を教えてください」
皇は、真剣そのものだった。鋭い眼光、かっこいい……。
とろけそうになる心を、お茶を飲んで元に戻した。
定義、か……。ちょうどこの前、緋王様と皇を比較して、推しとはなにかを考えたばかりだ。それを少しばかり整理してみると、ちょうど定義らしくなった。
「推しとは、外見が最も好きか、内面が尊敬するほど好きか、応援したい気持ちがあるかといった項目にあてはまる存在であると考えています」
皇は、唇に人差し指を添え、目を伏せた。
考える人のポーズ! 知的でいいっ!
「二問目です。僕の外見以外の部分で、どういった点がキルコさんの推しの定義にあてはまるかを教えてください」
「人間的魅力の塊である点です。私のファンサのために努力してくれますし。何より、銃撃を受けた後、自分の怪我を差し置いて私や襲撃犯の怪我を心配したり、ずっと1人で誰かを巻き込まないようにしてきたりしたという底知れぬやさしさは感動しました。私を守ると約束し、それを必ず達成しようとする誠実さ、礼儀正しさなど、人間的魅力である点も大変推せます」
皇が、「ありがとうございます……」とお辞儀をした。耳の先が赤いのが、細い髪から覗いて見える。
なんだ⁉ 照れているのか⁉ 喜んでいるのか⁉ くっ……! 可愛い……尊い…………っ!
「では、最後です。僕に対して、推しの定義にあてはまるもの以外の感情はありますか?」
「どうでしょう……」
今度は私が考える人のポーズをとった。あるような、でも、定義に入るような……。
「では、後日また教えていただいていいですか? これをお渡ししておくので、記入してください」
「推しの定義以外にあてはまる皇 秀英への感情一覧」という題だけが書かれた紙を手渡された。
「質問以外の協力、ですね。では、私のお願いも叶えてください」
「はい。どうぞ」
「握手してください」
皇はきょとんとしたが、「はい……」と、左手を出した。
ふおぉっ……! 綺麗な手……! ……ごくり。
ドキドキしながら、皇の手に右手を近づける。
かすかに触れた時、力を感じないほどやさしく、皇の手が私の手を握った。
わぁ――――! あ、握手――――!!
推しと握手――――! う、嬉しい…………っ!
でも、土曜日に手をつないだ時の方が幸福感が高かった。
でも、満足だ。触れただけでも嬉しい。緋王様はもう握手会をしていないから、一生触れないのだし……。それを考えれば、この上ない贅沢だ。
「ありがとうございました」と手を離すと、皇が「こちらこそ、ありがとうございました」と礼をした。
「明日から昼休みも文化祭に関する集まりや準備が詰まってしまい、なかなか質問の時間がつくれないんです。なので、今日の放課後も少し時間をいただいてもいいですか? はじめにサイエンスショーの演目を一緒に決め、それが終わったら、午後の授業で顔を見せた分の質問をさせてください」
文化祭の準備……。幸い私は皇と同じ、全体をプロデュースする係になった。今日の放課後に演目を決めてしまえば、あとは豚どもがきちんと働くよう、ムチを叩きに行くだけである。つまり、今日の放課後で二人での仕事は終わり。あとはくさい豚どもが必ず付きまとう。最悪すぎる。
だが、もしかすると、魂を狩るチャンスになるかもしれない。
クラスメイトと過ごす時間が増えるということは、やつらのうちの誰かに鎌を持たせれば、いけるかもしれない。
前回は同担仲間に同情してしまったが、豚どもには心を馳せることはない。成功の確率は、以前より高い。
正直やつらに私の愛用の鎌を持たせるのはいやだが、背に腹はかえられない。
豚どもを使ってみよう。




