11話 文化祭準備でお仕事 3
昼休み。
皇が大きな弁当を広げ、私に赤い箸を渡した。
皇の弁当をつまみながら話をすることが続いたからか、皇の弁当には二人分のおかずがぎっしり詰まっていた。
「先ほどの、あのうちわは一体……。いえ、それよりも、土曜日はありがとうございました。母も大変喜んでいました。お茶、どうぞ」
取っ手のない湯呑みを受け取ると、指先が触れた。
どきりと胸が鳴った。嬉しい……! これだけでこんなにドキドキするのに、あの時手をつないだなんて……。ああ、最高のファンサだった!
どうにかまた触れられないだろうか……。
熟考しながら茶をすする。
今日の茶はとても濃い真緑色の煎茶だった。一口飲んでみると、思ったより渋みがなく、すっきりとしていた。
「あの時お話ししましたが、今後僕は、キルコさんの僕への気持ちが推しではないことを証明していきたいと思っています。それができるような質問をする予定です。またいろいろとデータ収集や検証にお付き合いいただくと思いますので、ご協力お願いします」
皇は礼儀正しく頭を下げた。
顔を上げ、私を上目で見上げた皇は、いつもの三割増しで美しかった……。
推しじゃないことを検証しようなんて……と少し不満に思っていた私だったが、その気持ちもすっかり消え失せ、もう好きにして……と思ったのであった。完全なる敗北。もはや悔しくもない。
だが、ただホイホイと聞いてやるだけでは神の威厳に関わる。日本の神のように、賽銭はもらわねば。
「では、質問以外で協力することができたら、その都度、私のお願いを一つ叶えてください」
「分かりました」
やった。握手券ゲット……!
「それで、今日の質問なのですが、はじめに、検証したいこととは違うことを質問させてください。
文化祭の日ですが、キルコさんは、誰かとまわる予定はありますか」
「いいえ」
豚どもがこぞって誘って来たが、ことごとく無視した。
「もし、一緒にまわりたい方がいなければ、僕とまわりませんか?」
この顔に誘われて断る方がおかしい。
私は、「はい」と頷いた。皇が、ほっと小さな息を吐いた。
それにしても、ジャパニーズ・文化祭……!
ジャックが持ってきた青春映画に文化祭のシーンがあったから知っている。ジャパニーズ・夏祭りなどとはまた違う雰囲気で、学生の手作り感が可愛らしいイベントだ。参加できるなんて、嬉しすぎる!
「ザ・文化祭なものが見たいし、食べたいです」
「文化祭らしいもの……。調べて、当日のプランをいくつか考えておきますね」
楽しみだ。
私はウキウキした気持ちでジャパニーズ・唐揚げを頬張った。醤油と生姜の風味が日本らしく、恍惚とした。
ああ、日本酒をくいっと飲みたい。




