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死女神キルコの推しごと  作者: 鈴奈
第7話 ウィルスでお仕事
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11話 文化祭準備でお仕事 1

「推す」ということ。

 それは、最も深く、確かな愛である。

 何をしていても尊く思える、無償の愛である。

 この世界で一番確かな愛。愛することで幸福になる愛。

 私がこの世で一番信じられる愛である。


         ✦ ✦ ✦


 白百合と黒百合が浮かぶ風呂に浸かりながら、私はぼんやり物思いに浸っていた。

 

 ……推しじゃない。

 皇が……。


 そんなことがあるだろうか。

 こんなに尊く思っているのに……。

 

 それにしても……。

 今日のビジュ、よすぎた……! 着物、前髪センター分け……好みの真ん中に突き刺さっている。

 しかも、手までつないでしまった……。緋王様の握手会の握手だってたった三秒くらいだと聞いたのに!

 ああ、推しに触れる幸せ……プライスレス。

 また触れられたらいいが。


「よぉ、キリィ!」

 

 真後ろから、暑苦しく、いやらしい顔が私を覗き込んできた。

 おえっ。

 はぐれ死神のジャックだ。約2000年間、私にアプローチし続けてくるしつこい男。


「死んでなかったの?」


「しばらく来られなかったからって怒るなよぉ! お前を悦ばせるための筋肉をつけるのに夢中になっててよぉ。どうだ? たくましいだろ? 抱かれたいだろ⁉」


 ジャックは服を開いて胸を見せ、ひくひくと筋肉を動かした。

おえっ! 気持ち悪い!


「死んで」


「素直じゃねぇなぁ。本当は抱かれたいくせによぉ!

 鍛えてる間も、キリィのことを考えない日はなかったぜ?

 あぁ、今日も百合の花より綺麗だぜ、キリィ!」


 胸ポケットから取り出したくしゃくしゃの野花を差し伸べられる。くさい言葉と不潔な花にイラッとした。

 東洋支部にも西洋支部にも属さないはぐれ死神は、はぐれ死神を処刑する役割の死神に追われている。自分勝手に人々に死をもたらし、死の秩序を乱す存在だからだ。

 こいつは西洋支部に所属していたが、はぐれ死神に堕ち、2000年近くも逃げ延びている。こんな筋肉馬鹿を捕えられない無能な追手たちには、呆れのため息しか出ない。


「出ていって。それか死んで」


「そう言うなよぉ。今日もキリィの好きなもん、持ってきてやったんだぜ?

 ジャジャーン! 日本酒100本! ニッポンDANJI最新アルバムの初回限定緋王グッズ付き! 細心の日本観光パンフレット10冊! キリィが好きそうな日本文学と日本漫画ざっと100冊! 最新日本映画のDVD20枚!」


「遅い。もう自分で調達した」


「は? どうやって?」


「日本で仕事してるから」


「マジかよ! じゃあ、日本デートしようぜ、キリィ!」


「死んで」


「ま、それはおいおい頷かせるとして……。

 調達してきてやったんだ。礼はしてくれるよなぁ?」


 いらないものでもないし、やむを得ないか。

 私は、湯船から右足のつま先を出した。


「ほら」


 ジャックは、餌を見た大型犬のように舌を出して喜ぶと、私の足に飛びついた。しっぽのような金の一つ髷が、パタンと揺れる。

 私のつま先に、やつの唇が触れる。


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