(番外編)10話 皇 秀英の重要会議 4
徹底的な準備と、数字と定義。それこそが確かな結果を手に入れる鍵だ。
だから僕は、常にそれらを重視してきた。
キルコさんと出会い、キルコさんと最期まで一緒にいたいという感情を抱いた時も、僕はまず、自分の感情を分析するところからはじめた。そしてその感情に最も近いものが何かをインターネットで検索し、「恋愛感情」であると仮定した。そこで複数の心理学の論文を読んで恋愛の定義を見出し、それらを整理して、次の6つの項目を導き出した。
1.相手の外見や内面に魅力を感じる
2.相手に性的接触を求める
3.相手と二人でいたい、独占したいという気持ちがある(独占欲、または共依存)
4.相手を幸せにしたいという気持ちがある
5.相手と一緒にいることで強い幸福感や高揚を感じる(心拍数の上昇、セロトニン量の変化)
6.相手と一緒にいられないと考えると、自分自身の一部が抜け落ちたような感覚になる(アイデンティティの融合)
そして、それぞれの項目が何パーセントかを数値化した。
初日は6つの項目のうち、「1.相手の外見や内面に魅力を感じる」「4.相手を幸せにしたいという気持ちがある」が80%を超えていたが、他の項目は検証が必要であるという結果となった。
翌日から50%以下の項目があてはまるかどうかを検討しながら、キルコさんと一緒にいるときの心拍数、セロトニン量を調べた。心拍数とセロトニン量の研究から、「5.相手と一緒にいることで強い幸福感や高揚を感じる」は100%だということがすぐに分かった。
「2.相手に性的接触を求める」は、キルコさんと間接キスをすることになった際に意識が高まり、89%まで上がった。
「3.相手と二人でいたい、独占したいという気持ちがある」は、秋葉原で一緒に過ごした際、もしキルコさんと遊ぶ相手が他の男性だったらとふと考えてみたら、たちまち92%まで上がった。
「6.相手と一緒にいられないと考えると、自分自身の一部が抜け落ちたような感覚になる」だけはいまだ0%であるが、そのほかの項目はじわじわと上がり続けており、秋葉原から帰ってきた時点で6項目中5つの項目が90%を超えたため、その時点で、これは恋愛感情での好きであると定義づけたのである。
そうした定義づけの作業を行う一方で、僕は毎日ずっと、キルコさんのことを考えていた。キルコさんのことを考えているとキルコさんについて知りたいことが湧いてきて、はじめ27個だった質問事項は、消化してはまた増えを繰り返し、48個になっていた。
だから、僕がキルコさんを恋愛的に好きだと定義づけた際、まずはこの質問事項を全部聞いて、彼女のことをもっと深く知るという準備の段階を踏んでから、彼女と恋愛的な関係になれる方法を考えようと思っていた。
だけど、「好き」だと言われて、僕は一刻も早く、彼女の「好き」がどういう「好き」なのかを知りたくなった。
そうして、一刻も早く、彼女とお付き合いをしたいと思っていた。
そうでなければ彼女はするりと、僕の隣から飛び去ってしまうような気がした。楽しいことをみつけるのが得意で、自由で、本当に質量がないのではと思うほど軽やかな人だから。
捕まえておきたい。彼女を、手に入れたい。永遠に、僕のものにしたい。
僕は強く、そう求めていた。これまで美しいものをみても、そう思うことはなかったのに。
僕らしくない焦燥と所有欲が、僕の心を支配していた。




