(番外編)10話 皇 秀英の重要会議 2
19時半。我が家の大会議室に、母と8人の家政婦さんたちが集まった。
「なぁに、秀ちゃん。みんなを集めて、重要な会議って」
「坊ちゃんがこんな大々的な会議を開くなんてはじめてよね」
「そもそも、坊ちゃんが私たちに話なんて」
「いつもは私たちにも奥様にも挨拶だけなのに」
「私たちの命に関わる大実験をするとか?」
「未曽有の大災害の予告をするとか?」
僕は大画面に、帰宅してから42分で作成したプレゼンテーション資料の一枚目を映した。
「今週の土曜日に、同じクラスのエルデ キルコさんを我が家に招待することになったので、この中で一番いいプランを、皆さんに検討してほしいと思います。女性視点でのご意見をお願いします」
『キルコさん来訪プラン検討会』と書かれた白い画面を見つめたまま、9人の女性たちは沈黙した。
「生まれてこの方、お友達を呼んだこともない坊ちゃんが、人を呼ぶ……?」
「しかも、女の子?」
「坊ちゃん。そもそも、キルコさんって、どんな方なんです?」
「この前秀ちゃんがウィルスに罹った時に呼んでいたお名前よね!? 秀ちゃんの……なに!? も、もしかして、彼女!?」
僕はスライドの2枚目を表示した。この前一緒に撮ったプリクラの写真が提示される。母が、「オッフ!」と口を覆い、家政婦さんたちも感嘆の声を漏らした。
「あら、美しい!」
「外人さんかしら」
「美男美女……! と、尊い……」
「プリクラの補正機能で顔が補正されていますが僕の隣に写っているのがエルデ キルコさんです。4月から、僕のクラスに転入してきました。以前はフランスに住んでいらっしゃったとのことですが、ご両親ともフランスの方なのかそれとも別の国籍の方なのか、家族構成や現在のお住まい、なぜ日本に来たのかなどはまだお聞きできていません。
現代国語等の授業に興味をお持ちの様子であることや、日本文化に強い興味があるところ、そのほか様々な言動から、文系寄りに思えますが、特進Aに進学できるほど理系の成績もよく、満遍なく、なんでもこなしてしまう印象です。さらに、成績優秀なだけでなく、運動神経も並外れています」
「お話中すみません。坊ちゃんがその方をどう思ってるか、そこを教えてもらえます?」
「一言で、簡単に」
彼女をどう思うか――。一言――。
これまでの分析結果から導き出した結論を口にした。
「恋愛対象として、好きです」
「オッホ!」
母が顔を覆って天を仰ぎ、ずるずると椅子からずり落ちた。




