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死女神キルコの推しごと  作者: 鈴奈
第7話 ウィルスでお仕事
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9話 お呼ばれでお仕事 8

 中は、畳六つ分の部屋だった。ジャパニーズ・掛け軸がかかっていた。その下に、一輪の小さな白い花が渋いツボに入っている。皇の母が、「山芍薬よ」と教えてくれた。部屋の外では、家政婦たちが何やら支度をしてくれているようだった。

 私は部屋の右端に座るように促された。皇が私の前にお菓子を出した。緑の葉で巻かれた白いお餅――ジャパニーズ・柏餅だ。

 皇の母が、作法を耳打ちしてくれたので、言われた通りにした。懐紙に乗った柏餅の葉を開き、小さな竹で半分に割り、パクリと食べる。

 ジャパニーズ・あんこ、ジャパニーズ・もち……!

 なんで上品な甘み……! ふわりと香る、さわやかな葉の風味……!

 思わず、恍惚とした声がでかかった。しかし厳かな雰囲気を崩すわけにはいかない。私は餅とともに声を飲み込んだ。

 懐紙を畳んで懐に入れると、皇が奥の部屋から茶道具を持ってきた。小さな炉の前に座り、それらを並べる。帯から下げていた赤い布を畳み、小さな茶道具を拭く。これぞジャパニーズ! と思うような竹の柄杓でお椀に湯を入れ、茶道の象徴、茶筅をひたす。

 お湯が捨てられ、いよいよ、抹茶の粉が茶碗に入った。お湯を注ぎ、皇が、茶筅を回した。


 華麗……!

 というか、茶をたてる皇、美しすぎないか……!?


 筋ばった大きな手が激しく動いているだけでも色気があるのに、伏目に見える顔の角度も涼やかな座り姿も、何もかもが美しい。いつもよりいっそう、皇が端正に見える。

 やばい。こんな美しい男がたてた茶を体に流し込めるなんて、幸せすぎる――!


 皇が、できた茶を私の前に置いた。茶碗を覗くと、やわらかな緑色の泡がこんもりと立っていて、ひかえめな可愛さを感じた。

 私は皇の母が耳打ちしてくれる通りに動いた。

 一礼し、茶碗を手に取り、「失礼します」と皇に一礼する。

 そして、憧れていた茶碗まわし! 90度に2回回す。ほのかな感動とともに、器に唇をつけた。

 口に入れると、まろやかな泡と思いの外さわやかな抹茶の風味がほわんとした。

 

「結構なお手前で」


 言えた! 憧れていた茶道ワード!

 皇は、ふっとやさしく微笑んだ。

 胸に、ドキュンと何かが突き刺さった。ドクドクと体中が振動する。

 推しの微笑は攻撃力が高すぎる。


 一連の流れが終わった。皇に誘われて、茶をたててみた。思いの外簡単に茶筅を回せて楽しかった。

 

 12時、昼食会場へ向かった。皇と向かい合って座ると、家政婦たちがお膳を二つ持ってきて、私たちの前にそれぞれ置いた。

 こ、これは……ジャパニーズ・懐石料理!


「懐石料理も茶道の一部なんです。今日は茶道体験がメインだったので、母たちが張り切ってつくりました」


 料理はすべてで9つあった。刺身や煮物、焼き魚や一口大のお洒落な料理が少しずつ並んでいる。だか、一つ一つ上質な味で美味しかった。


「お口に合ってよかったです。母たちも喜びます」


「そういえば、お母様はどちらへ?」


「厨房かと。別の場所で食べて、13時にまた合流するとのことです。

 というか、すみません。母が隣にいて、嫌じゃないですか?」


「いえ。大変助かります」


「そうですか……」


 それにしても、一緒に食べるのははじめてじゃないのに――向かい合わせがはじめてだからだろうか、なんだか新鮮な感じがする。美味しい料理を堪能したいのに、扉が開放されていて中庭も観れるのに、目の前の皇から一瞬たりとも目を離したくない。

 もぐもぐと口を動かしながら、見つめ合う。静かな沈黙が続いた。

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