表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死女神キルコの推しごと  作者: 鈴奈
第1話 サクラでお仕事
6/120

1話 サクラでお仕事 6

「怪我はありませんか?」


 ――え?

 ……まさか……。

 この状況で、生きているなんて……。かすり傷は見えるが、飄々としている。


「ど、どうして……」


「体重はないとおっしゃっていましたが、身長や肉質から40キロ前後であると想定しました。その見立てにかけて、少し遠くに投げるようにエルデさんの体を桜の方に押し出して、その反動で僕の体も桜の中で一番太く質量があるこの枝に着地するよう計算して、その通りにしてみたまでです」


 そうじゃない。

 死んでもいいと思うように、確実に洗脳したはずだ。なのに、なぜ……!

 動揺する私に、皇が手を差し伸べた。


「満足したら、降りましょう」


 はっとした。屋上ほどではないが、ここも高さは十分ある。

 私は、彼の手に手を伸ばすふりをして、彼の体に飛び込んだ。私の指先が、彼の肩をトンと押す。彼の体がぐらりとバランスを崩す。

 しめた。今度こそ、このまま落ちてしまえば――!


 ズサササササササッ!


 幹をこすり、細かな枝を折った音が響いた。

 私の胸の下には、地面に背中を打ちつけた皇の胸が重なっていた。


「大丈夫ですか」


「……なんで、生きて……」


「2mほどの高さでしたから、途中途中の枝を折りながら衝撃をある程度軽減させ、背中から落ちれば、僕の筋肉量であれば、骨を折ることなく着地できる計算でしたから。多少の痛みはありますが、命にかかわる怪我はありません」


 皇秀英は、理系的思考と物理計算によって、10年間、あらゆる死の危機を回避してきた男だ。

 洗脳すれば計算ができなくなると思ったのに……。

 まさか、本当に、この私の洗脳が効かなかった……?


 ――いや、考える必要はない。

 私は前髪に刺していた黒い羽のピンを抜いた。短い鎌に形が変わる。

 これは、人間の魂を狩るための武器――しかも人間にはその形が見えない。

 通常は死因によって気絶している状況下で魂を狩るのだが、そうでない場合に狩ったとしても、「心臓突然死」として処理される。実に便利な代物だ。

 皇は私の真下にいる。この鎌から逃れることは決してできない。

 私は、鎌を振りかぶった!


「あれ、髪飾りがなくなって……。あ、これ、でしょうか……」


 皇の手が、私の前髪に触れた。

 何か細いものが、耳と髪の間に挿しこまれた。


「すみません、違いました。

 でも……美しいです」


 皇が、ほほ笑んだ。

 前髪がわずかに流れ、メガネの下の甘い瞳が見える。

 涼やかで整ったきれいな顔が、ちらりと見えた……。


 ――どきっ!


 胸が、バクバク鳴る。顔が、頭のてっぺんが熱くなる。

 鎌を持った手が、動かない……!?


 こ、これは……。


 萌え……っ!


 つまらなくて根暗なブ男であるとみせかけて、きれいな顔と微笑、甘い声で胸きゅんワードを繰り出す――!

 まさに、ジャパニーズ・ギャップ萌え……っ!


 そんな……!

 相手を萌えさせて死を免れる術まで持っているだなんて……!


 

 ――できない……!

 萌える相手を手にかけるなど、できない…………っ!


 ……くぅ……………………っ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] まさかの自力とは
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ