9話 お呼ばれでお仕事 7
中庭に向かう。晴天の下の柳のような木の枝が、風を受けてそよそよと靡いていた。
皇の母が、私に耳打ちした。
「あれ、枝垂れ桜なんだけど、もう葉桜になっちゃったの。また来年、ね」
草履を穿いて、庭に出た。胸に抱いていた運命写真機を、先に出ていた皇に向ける。
皇も私にスマホを向けていた。
「撮らせてください。私が先に撮りたいと言ったので」
「はい……」
皇はスマホを帯に挟め、気をつけをした。
「硬い! もうちょっとキメたポーズとって! こう、こう、体を斜めに向けて、顎の向きを、こう!」
「何度くらいか指定して」
「知らないわよ、数字なんて! とりあえずカッコつけちゃえばいいじゃない! ああ、もう! はい、力抜いて! こう、こう、こう! どう? よくない!?」
皇の母が皇の体の向きを手動で調整してくれたら、かなりよくなった……! う……よすぎる、ちょっと困った顔も、むしろセクシーに見える!
確実に、持ってる中で一番いい写真だ。
最高のブロマイド、ゲット……!
ホクホクしていると、「次は僕が撮ります」と皇が言った。
「僕のスマホで撮って、あとで送ります」
「私、スマホは持っていません」
「えっ、そうなんですか」
「じゃあ、撮ったの、印刷してあげるわ」
池の脇に立って、さっき皇がやったのと同じ角度に体を向けた。カシャ。体の向きを変えると、また、カシャッと鳴った。少し表情をかえると、それもまたカシャッと撮られた。
いいな、スマホ。私の写真機は一日一枚しか撮れない。こんなに連続でカシャカシャと撮れたら、四六時中萌え放題じゃないか……。
「じゃあ、次、ツーショット!」
皇が私の横に並んだ。見上げると……か、カッコよかった。至近距離の着物皇、尊すぎる……!
皇が私の視線に気付いたのか、私を見下ろした。
ひっ! し、し、至近距離で、好きすぎる顔に、見つめられている……っ!! しししし、心臓が、バクバクする……っ!
カシャッ。
「キルコさん! これは撮影会よ! 好きなリクエストしていいのよ! 手をつないだり、腕組んだり!」
撮影会……! 昔、ニッポンDANJIのファンクラブ限定イベントだったものだ。ファンクラブ加入者のうち、抽選で当たった数名が時々招待される推しのメンバーと一緒に写真が撮れる機会だ。今はもうあまりの人気にやめてしまったが。
だが、たしかに推しとツーショットを撮れるというのは、そのくらい貴重な機会なのである。そんないい機会を逃すわけにはいかない。
リクエスト……。何があるだろう。皇と――推しと二人でしたいポーズ……。
「指ハートをお願いします。一緒に」
カシャッ!
いい……。推しの決めポーズを一緒にする感じ!
推してます! って感じがする! 推し事をしている感じがする!
ギャルピと2人でハートをつくるポーズをとって、撮影会は終わりになった。
「ありがとうございました」
「こちらこそ、ありがとうございました」
お互いにお辞儀をしあい、離れの茶室に向かった。




