9話 お呼ばれでお仕事 4
一室分ありそうな玄関を通ると、まずは居間のようなところに通された。畳の上に小さないすと机が並んでいる。
タイツ越しに、つま先で畳を触る。
「ジャパニーズ・畳……」
つやつや、でこぼこして気持ちがいい。ああ、裸足で来ればよかった。
椅子に座ると、家政婦がお茶を出してくれた。
温かい薄めの緑茶にほっと一息つくと、目の前の大きな画面に、「本日の日程について」という字が映し出された。
「これから、本日の日程について、プレゼンテーションおよび検討会をさせていただきます」
皇が、テレビの横に立っていた。リモコンをテーブル上に置かれたままのパソコンに向けると、画面が切り替わった。皇の母は、私の右隣のソファに座って背筋をピンと伸ばし、皇を見つめていた。
「まず、A案です。まず、午前のはじめに、着物に着替えていただきます。着物は、母のものから好きなものをお選びください。その後茶室にて、茶道体験を行います。昼食は12時に小和室に用意いたします。なにかアレルギーや苦手なものがありましたらおっしゃってください。午後は13時から、次のうち好きなものを選んで体験していただこうと思います」
画面が切り替わった。
花道、書道、香道、琴。
憧れの日本文化とその画像が並んでいる。
「ぜ、全部できるのですか」
「はい。ただ、時間が限られていますので、お好きなものを二つほど選んでいただけたらと思っています」
全部やりたいところだが……!
ここは、緋王様の得意とする書道をぜひとも選びたい!
もう一つをどうしようか考えはじめたところで、画面が切り替わった。
「なお、おかえりはお夕食前の16時半を予定しています。お夕食もご一緒できるようであれば、ご用意します。
次に、B案です。まずはじめに、先ほどお見せした物のどれかを体験していただきます。12時に昼食をとり、13時からもう一つ選択いただいた体験をしていただきます。その後、着物に着替えていただき、茶道体験を行います。
A案ははじめに着物を着るパターン、B案は終わり頃に着るパターンです。着物を着るのがはじめてとのことでしたので、着物を着たまま食事をとるのが不安であればB案がおすすめです。ただ、今日は基本的に母がついているということですので、苦しければいつでも着替えられます。なので、A案を選んでいただいても構いません」
考えるまでもない。
「すぐに着物を着たいです。A案で」
「分かりました」
「午後は、書道と、もう一つはお任せします。ただ、二つ、入れてほしい内容があります。
一つは、写真を撮ることです。皇さんの」
機会を逃してまだ撮っていなかったのだ。
「もう一つは、お庭を見ることです。午前午後どちらでも構いませんので、予定に入れてください」
この豪邸には、立派なジャパニーズ・庭園が広がっていた。真ん中の池にいた鯉たちもじっくり見てみたい。
「盲点でした。では、それは午後にいれます。16時半までの予定だと茶道、書道以外の体験を入れるのが難しい可能性がありますが、帰宅時間は延長されますか」
「とりあえず大丈夫です。写真が撮れれば、かなり満足ですので」
「決まりね! じゃあ早速、着替えに行きましょう!」
皇の母が、明るい声で話を割った。
「写真を撮るにしても、2人並んで撮った方が記念になるし。ささっ、行きましょう」




