9話 お呼ばれでお仕事 2
そう決めて数日。なるべく顔が見えるように運命写真を撮り、一日一度はきちんと魂回収のために画策した。皇の体調が回復し、今日は久しぶりに授業中にファンサをもらうことができた。不思議なことに、これまでよりいっそう日々が潤ったように思えた。推しは偉大。
推しだと自覚したために、自分の手で命を狩りたくないという感情が湧いたが、むしろよかった。
いいアイディアを思いついたのだ。
私以外の存在に、死神の鎌を持たせ、魂を狩らせる。
実は日本で心中が流行した時、半分以上の遊女が東洋支部の死神長であるイザナミ様によってこの術にかかり、魂を狩ったのだとか。
本来人間が認識しない死神の鎌を持たせるので、暗示よりも強い力を注がねばならず、普通の死神には難しいが、私ならその程度の芸当はできよう。
あとは、誰にやらせるかを決めるだけである。標的の身近な存在がベストだが、皇はあまり特定の人といるわけではないから難しい。
昼休み、皇が持ってきたお茶をほっこりと飲んで、私はどうしようかとのんびり考えていた。
「お茶、どうですか」
「美味しいです。いつもより、味に深みがあります。ジャパニーズ・抹茶に近いですか?」
「そうなんです。抹茶の風味をより感じられる美味しいお茶を考えたくて、品種改良や他の茶葉との調合を試している最中で……。
あ、本物の抹茶を飲んだことはありますか?」
「本物はないです。抹茶味のお菓子を数回食べたくらいです」
「そうですか。
ところで、今日の一つ目の質問をさせてください。
キルコさんは日本文化がお好きですが、特に興味のある日本文化はなんですか? やりたいことなどがあれば、教えてください」
「なんでもやりたいです。一番は日本の名所の観光ですが、日本文化の体験もしてみたいです。さっき話に出た、抹茶を立てたり……。たしか、ジャパニーズ・茶道といいましたか。道のつくものは少しでもやってみたいです。あと、着物や浴衣も着たいです」
「できますよ」
皇が、私をするどく見つめた。
「うちに、全部あります。茶室もあります。着物も、母がたくさん持っているので、お貸しできます。母は着付けもできます。
もしよければ、今度、テストが終わったら、うちに来ませんか」
……皇の、家に…………。
あの大豪邸を思い出す。そして、浴衣姿の皇を思い出す。
いい! 浴衣姿の皇を再び拝んで、写真を撮りたい!
私は「ぜひ!」と頷いた。




