8話 銃撃でお仕事 5
終会が終わるとすぐ、私は屋上にワープし、死神の姿に変わった。
玄関から歩いていく皇の姿を見下ろす。
また様々な部活から声を掛けられているが、あまり声が出ないのだろう、「ごめん」というジェスチャーをして断っていた。
皇は豪邸住まいの大金持ちだが、登下校に車は使わない。電車もバスも使わない。
40分かけて徒歩で登下校しているのだと、引継ぎの資料に書かれていた。
私は、皇の跡をつけた。人のたくさんいるところに出たら姿を見せてみようかと思ったが、全然、人気のあるところに出る気配がない。ずっと人も猫もカラスもいない閑散とした裏道を歩いている。
あるところで右に曲がって、私は、はっとした。
ジャパニーズ・居酒屋……!
日本酒と、ジャパニーズ・つまみの宝庫……!
あ、この店のメニューに書いてある日本酒、この前の「ひおさんぽ」で緋王様がおすすめしていた銘柄では?
おつまみに、牛筋の煮込みもある! ほかほかの煮込み、食べてみたかったのだ……。
緋王様の「ひおさんぽ」で巡っていたところではないが、この仕事が終わったら帰りに寄って……。
「キルコさん?」
はっと皇の方を見る。
皇が、振り返っていた。
はっきりと私の方を見ているわけではなかった。
だが、きょろきょろとあたりを見ながら、私の方に近づいてきた。
しゃがんで店の看板を眺めていた私は、とっさに看板の後ろに隠れた。皇が、ゆっくり前を通過していく。
見えていない? だが、やはり何かに気付いていた様子だった。
確かめるなら、今か。
私は、JK姿に変わった。
「皇さん」
「キルコさん。やっぱり。どうしたんですか? こんなところで」
「ちょっと用事があって。それより、どうして私がいるって気付いたんですか?」
「準静電界です」
人が発する微弱な電流――つまり、気配を察する、ということらしい。
え? 私、神だが? 神にも準静電界があるのだろうか?
おそるべし、科学。おそるべし、皇の察知能力。
「でも、どうして私だと?」
「僕もまだ準静電界について十分な研究ができておらず、はっきりとしたことは言えないのですが……なんとなく、キルコさんのことは分かるんです」
なぜ……?
しかし、皇にも分からないなら、これ以上追求しようがない。
諦めよう。
「ところで、用事とはなんですか?」
「もう済みました」
「そうですか。それなら、この先の道は危ないので行かない方がいいです。戻って、右に曲がると安全に駅の方に行けます。送りたいのですが、この道だと、僕が一緒にいる方が危険なので、せめて見送らせてください」
皇が道に手を伸ばし、帰るように促す。




