8話 銃撃でお仕事 3
リン、と電話の音が聞こえた。
ハデスめ。いい気分の時に……。しかも、こんな朝っぱらに!
だが、出ないわけにもいかない。またここに来られては余計面倒だ。
仕方ない、仕事モードに切り替えるか……。
10回目のベルで、ようやく私はワインの瓶の中から黒電話を引き上げ、受話器を取った。
「おはようございます、ハデス」
『おはよう、キル・リ・エルデ。昨晩、標的の魂を届け忘れなかった? この後来られそう?』
相変わらず意地の悪い……。湧き上がる怒りを飲み込んで、えほんと咳ばらいをした。
「本日も誠心誠意努めてまいります。必ずお届けしますので、お待ちください」
『毎日頑張るね。それでも狩れないのには、何か理由があるのかな?』
「特にありません。しばしお待ちください」
受話器を置こうとして、はたとした。
「……一つお伺いしたいのですが。死神を見ることができる人間の存在に、前例はありましたか」
『西洋でも東洋でも聞いたことがないよ。そんな存在がいたら大問題だ。一秒でも早く魂を狩らないと』
「分かりました、ありがとうございます」
今度こそ受話器を置いて、私はため息をついた。
ウィルスに罹った皇の元へ行ったとき、皇は、本来目にできるはずのない死神姿の私を見つめた。
本当に見えていたのか? 見えていたとしたら、なぜ?
それを知れば、資料にあった「死神の姿で遠距離から仕掛けた攻撃も回避した」という理由も分かるだろう。
皇が学校に来次第、調べてみるか。




