8話 銃撃でお仕事 1
緋王様が走る。どこぞの知らない女の手を取り、降りしきる弾丸を避けながら。
暗い路地に入り、緋王様は黒いスーツから短銃を取り出した。
『私のことはいいから、逃げて!』
女の言う通りだ! そうしてください緋王様!
「逃げない! 君のことは絶対、俺が守るから!」
キャ――――――――――!!!!
よすぎる! かっこよすぎる! 好きすぎる!! 緋王様が2回目に主演を務めた映画、「刑事とお嬢」のクライマックスシーン!
真面目なまなざしと甘い台詞! やすやすと甘い台詞を言ってしまう他の安いメンバーたちと違い、歌詞でしか甘い台詞を言わない緋王様の、伝説的胸きゅん台詞――――!!
巻き戻して、もう一回! もう一回! もう一回! もう一回! ……
30回繰り返し、満足した私は、一時停止してソファに寄りかかり、天を仰いだ。
はあ……。
緋王様は素晴らしい。普段の姿は涼やかで穏やかな京都人なのに、俳優として演じるとたちまち美しい登場人物になってしまう。アクションもスタントマンなしでするするとこなしてしまうのも、もはや天才としか言いようがない。今演じていたスーツ姿の刑事役もよかったが、冬から国民的時代劇に出演することが決まった。ジャパニーズ・ちょんまげ姿も絶対似合う! 楽しみだ。
停止ボタンを押して、映画を終わらせる。
このシーンの直後に命を落としてしまうから、ここで見終わると決めているのだ。緋王様には、永遠であってほしいから。
そして、スペシャルコンテンツの「完成披露試写会イベント」を再生した。
美しいスーツ姿の緋王様が登壇する! スタイル、良~~~~っ!
緋王様が小さな段差でさっと振り向き、後ろにいたハイヒールとドレスで登壇した女優にやさしく手を差し伸べた。「大丈夫ですか」と小さく口が動いたのが見える。きゅん……っ!
「刑事とお嬢」は、私がはじめて緋王様を観た記念すべき映画。そして、映画で好みすぎる美しい顔と演技力とを見て心惹かれた流れでこのイベント映像を再生し、この自然なやさしい所作に思いっきり心を掴まれたのである! その後、次々と緋王様の動画を見漁り、「推し」という言葉を知って、緋王様が「推し」だと自覚したのだ。
つまりこの映画のイベントが、私が緋王様推しになったきっかけなのである。




