7話 ウィルスでお仕事 4
……その前に。
「脱いで!」……ってファンサ要求、しても、いいい、いいだろうか……!
浴衣がはだけて、うっすらと胸板が覗いていて――もちろん緋王様に比べたら貧相なものに違いなかろうが……!
この世には、顔のいい男の上裸からしか得られない萌えがあるのだ……。
それに、何でもすると言ったわけだし……?
ごくり。
皇の横に膝をつく。
鎌を置いて、そっと、皇の襟をつまむ。
「……う………。………キルコ、さん…………?」
――え?
どう、して……。
うっすらと開いたうるんだ皇の瞳——そのまなざしの先には、確かに私の瞳があった。
だが、おかしい。私は今、人間に見えない死神の姿。死に至る寸前の、生と死のはざまにいる人間でも、死神を視認することはできない。それなのに、どうして……。
皇の手が、私の手の上に乗った。ひどく熱かった。
「……嬉しい……会えて……。
もう、死んでもいい……」
皇が、溶けるように笑った。
……も…………萌え――――っ!!!!
かかかか、可愛いっ! 可愛すぎる! いや色っぽい! いやでもかわ……色気と可愛さのマリアージュ!!!!
だが、ダメ! 死んだら! 死んだら――!
「だめです坊ちゃん!」
「お気を確かに!」
バーン! と横扉が開き、白装束の人間たちが十数名ほど入ってきた。
顔をガスマスクのようなもので覆っていて、男女もわからない。
一人の白装束が、私の横に座り、皇の手を握った。
「秀ちゃん! もう大丈夫よ!」
「キ……キルコ、さん……」
「秀英さんのおっしゃる通りに調合した薬ができました! これで前例のないウィルスの撃退ができます!」
……え?
白装束たちがぞろぞろと皇を取り囲み、医療器具を手にする。
注射をし、点滴を打ち、氷枕を変え、額のタオルを変え、二枚の毛布で体をぐるぐるに包まれた皇は、白装束たちが去ることろには、すうすうといつもの白い顔で眠っていた。
皇に病気が効かない理由は、これか……。皇の薬の調合力と、それを速攻実現できる財力……。
ウィルス以外の病気も、おそらく完治させられるだろう。
だが、「もう死んでもいい」という言葉……。
重い病気を患えば、「死んだら悔しい」という気持ちも削ぐことができる、ということがわかった。
そうであるなら、今回のように、意識がもうろうとするほどの症状がでるウィルスを忍び込ませ、薬が調合される前に鎌を振り下ろせば……。
いや。
だめだ。きっとまた可愛くも色気たっぷりなとろけ顔になる!
何だあの笑顔は! 今まで見たどんな顔のいい存在の笑顔より魅力的じゃないか!!
萌え! 萌えすぎる! あんな萌えの塊を手にかけるなんてできるわけがない!!
くっ……。
皇 秀英……。なぜ、こんなに私好みの顔に生まれてしまったんだ……。
もっと見ていたいと――死んでほしくないと、思ってしまったではないか……。




