6話 ファンサで推し事 5
皇のメガネを取りあげる。適当に、膝の上にのっけた。
「私といるときは、顔を見せてください」
「……はい」
前髪をかき上げ、私を見る。
はぁ……顔、いい……。
涼やかな目線と口元のほくろの色気に、恍惚とする。
「では、一つ目の質問をおねがいします。
どの学問に一番興味がありますか? 複合化学とか、電子工学とか、生物化学とか」
「特には」
「では、なぜこのクラスを志望したんですか?」
「試験結果で」
「キルコさんは文系寄りではありませんか。日本文化に興味があると言っていましたし、これまでの思考や言動から、文系に近いのではないかと思っていました」
「さあ、苦手なことはないので」
ほぅ……とため息をついて、皇は、「ありがとうございました」と恭しく一礼をした。皇の顔に見惚れながら適当な回答ができた自分を褒め称えたい。
「あの、38の質問に入らないものなので質問させてもらうのですが、今日のあの、『指ハートして』というのは、僕の謝罪の一部という解釈で大丈夫ですか?」
あの、「なんでもさせてもらいます」という言葉のことか。
「いえ。ノートを見せているうちに、ファンサのようだと思い、やってみたまでです」
皇は「ファンサ……」とつぶやき、スマホで調べた。
「キルコさんは、アイドルが好きなのですか?」
「はい」
「なるほど。どんなファンサがあるか調べておきます。キルコさんの好きなものも、あれば教えてください。練習しておきます」
好きなファンサ……。と言われても、ファンサはポーズを要求するもの、ということしかわからなかった。ライブ映像ではファンのうちわは少ししか映らないし、どんなポーズを誰に応えているかまではわからないのだ。
頼るべきは、インターネット。だが、我が家は動画を見ることができても、検索する媒体がない。
「今、調べてください。私も知りたいので」
皇のスマホを覗き込む。「ファンサ一覧」のページを開くと、素晴らしいアイディアがズラリと並んでいた。
「ピースして」「指差して」「バーンして」「ガオーってして」「うさみみして」などといったポーズ系の他に、表情を指定するものもあった。
「あざとい顔して」「ウインクして」「変顔して」……。
ひとつひとつ、皇の顔で妄想してみる。
なんだろう。今ひとつ似合わないのは。
画面ばかり見ていたためか、妄想上の皇のファンサがどれもこれも萌えないためか、私の高揚した気持ちは次第に鎮まってきていた。
あるファンサを見て、妄想して――ないな。
そう思った少し後、ん? となった。
このファンサ……魂を狩るチャンスを作れるのではないか?
教室内のような離れた場所でなく、すぐそばにいる今なら……。




