6話 ファンサで推し事 4
屋上には誰もいなかった。
ベンチに座ると、真正面にサクラが見えた。先週見た時よりわずかにあからみ、ところどころ葉が咲いている。終わりに近づいているようだ。
「キルコさん、お弁当は……。いつも学食だから、持ってきていませんでしたか」
私は神だ。空腹になどならない。食は愉しみのために摂るもの。普段は、ジャパニーズ・学食を愉しむために学食に行っている。ちなみに、豚どもが私に食事を献上したいとブヒブヒ言うので、会計は全部豚ども持ちにしている。
「大丈夫です、食べなくて」
「だめです。午後も長いですし、エネルギー補給をしないと、パフォーマンスが下がります。もしよければ、好きなものをどうぞ」
皇が、私との間においた弁当袋から玉手箱のような正方形の弁当箱を取り出した。一段目に、ジャパニーズ・おにぎり、二段目に色とりどりの和風なおかずがぎっしり詰まっていた。
ああ、これぞ、理想的なジャパニーズ・弁当……!
花見の時に、こんな理想的な弁当をつまみながら酒を飲む――そんな緋王様の真似をするのが夢だったのだ。それに、日本食の代表格、おにぎり! なんて可愛いフォルム……! 丸みを帯びた三角形は、まさに芸術だ。
おにぎりを手に取ると、皇は水筒からプラスチックのコップに茶を注ぎ、「これももしよれけば」と私に差し出した。
おにぎりをひとくち食べた。おいしい。
ご飯と同じはずなのに、ほのかな塩けとじんわりと広がる甘みが格段に違う。ほろりと解けるような米たちがまた美味しい。もうひとくち食べると、ほろほろのシャケが出てきた。柔らかくなった海苔と合う。
茶を口に入れると、また、おいしくて感動した。
ジャパニーズ・緑茶。しかし、かつて飲んだ時のような渋みが一切ない。柔らかな甘味と爽やかさ、鼻から抜ける若葉の強い風味。美味いところだけをぎゅっと絞ったかのような緑茶だった。
「お口に合ってよかったです。このお茶の茶葉は、僕が品種改良をして作ったんです。乾燥方法、抽出方法含め、現時点で今飲んでいただいているものが、世界一美味しい緑茶です。おにぎりも、もう一つ食べてください。それと、おかずを一つずつ食べていただければ、午後からのエネルギー量はちょうどいいかと」
言われた通りに弁当のおかずを一つずつ食べる。どれも、美味しかった。最も感動したのは、ジャパニーズ・だし巻き卵! 噛んだらじゅわりとだし汁が染み出してきて、口いっぱいに広がった。
「改めて、昨日はすみませんでした。許していただきありがとうございます」
別に怒っても許してもいないが。まあいいか。
「今日の質問をさせてもらってもいいでしょうか」
皇はそういうと、ポケットから小さなメモ帳を取り出した。ちら、と覗くと、私への質問事項がずらりと並んでいた。一つ一つに番号がふってあったのだが、一番最後が「38」だった。地道に増えているのはなぜなのだろう。
「今日は3つですね。では、一つ目を質問させてください」
「待ってください」




