(番外編)16話 皇 秀英の感情パーセンテージ 6
「はっ…………! そうだ。キリィがお前を好きなんて、絶対ありえねぇ! キリィの嫌いなタイプそのまんっまなんだからな!」
「キルコさんの嫌いなタイプ?」
「ねっとりした口説き言葉を使ってくる軽薄な男、暑苦しく頭の悪い男、真面目でつまらない男、根暗でもそもそしたダサくて醜い男。真面目でつまらない、根暗でダサい! まさにお前だ!」
軽薄、暑苦しい、頭が悪いに自分が該当するとは考えなかったんだろうか。
でも、これが本当なら、僕のその印象が、証明が失敗した理由なのかもしれない。
いや、そうだとしたら推しにすらならないのでは? ひとまず、印象を左右する身だしなみには気を付ける必要がありそうだけど。
「お前と恋人になったのは、キリィの作戦だ! キリィは、お前なんかと本気で付き合っちゃいねぇ! だから、調子に乗って触んじゃねぇぞ? まぁ、あいつはプライドが高いから、お前なんか、指一本触らせねぇと思うけどな!」
作戦? また意味の分からないことを。
なにか算段があるとしたら、はじめに断ったりなんかしなかったはずだ。
そう思ったら、キルコさんがあの時抱きしめ返してくれたのは、僕のことを好きな気持ちがあった証なのだと思えてきた。
嬉しい気持ちが不安感を上塗りし、89%に膨らんだ。
……そろそろいいか。情報は十分に集まった。
真っ向勝負をするとしよう。
「どう思おうと、僕とキルコさんが恋人になった事実は変わらない。だからもう諦めて、キルコさんから手を引け。いやだと言うなら、ここで一対一で決着をつけよう。
それと、僕はすでに手をつないだし、抱きしめもした」
「は?
……はっ! お、俺もこの前抱きしめたし? 俺なんか、いっつもつま先にキスさせてもらってるし?」
「つま先だけだとすれば、僕の方が触れている面積は広い。あと、そちらはあの時、無理矢理一回だけ抱きしめていたかもしれないけど、僕の場合はお誘いしたらキルコさんから腕の中に来てくれたし、手についてはキルコさんからつなぎたいと言ってくれた。触れ合った時間数も僕の方が勝ってる」
「は……、はっ! うっせぇ童貞! お前なんか、キリィの裸も見たことないくせに!」
「は?」
「童貞野郎が、キリィを悦ばせられると思うなよ! キリィのファーストキスも、処女も、全部俺のものだ! そのために俺は2000年――」
バァン!
あ。
しまった。思わず額の真ん中を撃ってしまった。
あまりの下品な言葉に、こんな下品な男がキルコさんのことを汚らわしく話しているのがいやでたまらなくなり、不快感のパーセンテージが100%を越えてしまい、消し去りたい気持ちのままに手が動いてしまった。
驚いた。自分がこんな衝動的に動くなんて思いもよらなかった。
でも、よく分かった。キルコさんは、こういう下品な男が嫌いなのだ。僕は絶対に、こんな理性のない下品な野獣になんてならない。
そう決意したところで、額の穴から煙を昇らせる男が、「はっ」と笑った。
――なぜ。この拳銃は本物だ。そして確実にやつの額を貫通した。やつのかたわらに銃弾が転がっているから間違いない。
それなのに、なぜこの男は、僕を見て笑っているんだ……?
「人間のオモチャで俺が死ぬかよ」
額の穴がふさがっていく。なぜ。
僕が唖然としているうちに、やつは「次は殺す!」と吐き捨てると、煙のように姿を消した。
人間に起こり得る現象ではない。
もしかして、人間じゃない……? いや、明らかに姿は人間と同じ……。
いや、姿形が人間と同じであるからといって人間であるとは限らない。
さっきやつが気を失っている隙に採取した髪の毛の鑑定をしてみよう。




