15話 恋愛証明でお仕事 7
レストランを出ると、皇の足が、私の足と逆の方向に進んだ。
「行かないんですか、最上階」
「……そうでした。行きましょう」
エレベーターに乗り込むと、100階も上なのに、わずか50秒でついてしまった。
素晴らしいジャパニーズ・テクノロジー。ただただ感心する。
もう遅い時間だからか、人はまばらだった。
キラキラと光る窓の外の景色に吸い込まれるようにガラスに近づく。
あ、あれは、東京タワー!
ただの夜景も、東京タワーが見えるだけで日本という感じがして、見ていて嬉しい気持ちになった。
これだけ高くから日本を眺めるのはいいものだ。日本のすべてが手に入ったような気分になる。
愛おしくて、嬉しい。
東京タワーの上に、稲光がうねった。
「3、2、1……」
ゴロゴロゴロ……。
なぜ分かった?
じっと見ると、ぼんやりしていた皇が、はっとした。
「つい、癖で……。稲光が見えると、雷鳴までの時間を数えてしまって」
計算で分かるものなのか。
また、ぴかりと光った。
「次はいつ鳴りますか?」
「え? あ……鳴ります」
ゴロゴロゴロゴロ……。
面白い。
私は稲光をつくり、「次は?」と催促した。どれも全部ぴたりと当たる。
「まるで、神のようですね」
そう言って皇を見ると、久しぶりに目が合った。
けれど皇は、唇をきゅっと噛みしめて、すぐに窓の外に目を戻した。
それからは、何も言葉を交わさずに、ゆっくり歩いて景色を眺めた。
半歩後ろを歩く皇の存在が、ゆらめいているように感じる。
東京タワーの見える窓に戻ってくると、皇がぽつりと、「帰りましょうか」と言った。
二人きりでエレベーターに乗り込む。すごい速度で、どんどん下に降りていく。
心の中で三つ数える。
3、2、1――。
ふっと光が消えた。
直後、ガクンと落ちる感覚がはじまった。
私の力で、エレベーターを落としたのだ。
降りている途中だったから、地上300mほどのところからぷつりと落ちたことになる。
凄まじい速さと、圧迫感。床に這いつくばることしかできないこの状況で、もはや助かることなどできまい。
皇をちらりと見る。
皇は――静かにしゃがんでいた。
いつものようになにかを考えている様子でもない。
助かろうという気持ちさえも感じない。
証明が終わったら精神面は落ち着くだろうと踏んでいたが……。
――生きたいという気持ちが、消えている……?
「……体をすべて、床につけてください」
皇が、私をやさしく押し倒した。
肩が、床に押しつけられる。
「体重が分散するので、助かります。しっかり脚を伸ばして、仰向けになってください」
そう言いながら、皇は動かない。
ただ、私を見つめている。悲しそうに、眉間に皺を寄せ、目を細めて。
私も、皇を見つめた。
私の人生で最も好きなこの顔が、見納めになってしまうと、そう察したから――。
あと少しで、地面にぶつかる。
その時だった。
「…………っ」
皇の顔が泣いてしまいそうに歪んだ。
そして、がばりと私を抱きしめた。




