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死女神キルコの推しごと  作者: 鈴奈
第7話 ウィルスでお仕事
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15話 恋愛証明でお仕事 1

 木曜、金曜は仕事を休んだ。

 とはいっても、学校には行く。皇に萌えるためだ。ファンサをもらって、とりとめのない質問をされて帰る。それだけの二日間だった。

 金曜日の帰り際、皇から手紙を渡された。


『キルコさんへ


 明日はよろしくお願いします。

 夕方十七時に駅に車を向かわせます。いつものナンバーの車に乗り込んでください。

 終了時刻は二十時以降を予定しています。遅い時間となりますが、帰りもお送りしますので安心してください。

 楽しみにしています。

 

 皇 秀英』


 とうとう、私の気持ちが推しではないことの証明をされるらしい。

 なぜ私の気持ちが推しでないということを証明するのだろう。そして、それになんの意味があるのだろう。やけに真剣だったし……。この証明の先に目標があるとも言っていた。

 ファンサと萌えに夢中なあまり意識せずにいたが、直前になったからなのか、ようやく疑問が湧いてきた。


「おはよう、キル・リ・エルデ。何を読んでるの?」


 ソファの後ろから、ハデスが覗き込んできた。

 またか。不法侵入上司が。


「おはようございます。本日の仕事に必要な資料です。ところで、どうしてここに?」


「君の進捗状況を聞きにきたのと、ジャックの痕跡を探しにね」


「てっきりもう捕まったかと。しばらく来ていなかったので」


「まあ、時間の問題だけどね。部下どもに、ジャックを捕えたら君が求婚に応じてくれるからと言ったら、血眼になって仕事をするようになったからね。使えないやつらだが、あの勢いならなんとかやりきるだろう」


 またか……! 毎度毎度、私を餌にしてけしかけやがって……! 

 ハデスのこういう、部下を道具としか思っていないところが憎らしくてならない。この私が、こんなやつに道具と思われ、雑に使われているという事実が死ぬほどいやだ。

 ああ、仕事、辞めたい。


「おや? これは何?」


 ハデスが皇コーナーの前にしゃがみ込んだ。


「まさか、好きになった……とか、ないよね?」


 ――推しです。

 と答えそうになったのをぐっと噛みしめ、私は笑顔をつくった。


「仕事への意識を保つためのものです」


「これ、ツーショット?」


「距離感を縮め、いつでも隙をつけるようにしているのです」


「ふぅん?」


 ハデスの蛇のような目が、じろりと私を睨んだ。

 私も、変わらぬ表情で見据え返す。

 ハデスは、ふっと頬を緩めた。


「そうだよね? 2000年、あらゆる男を振り続けてきた君が、人間――あまつさえ、標的の男に堕ちるなんて。そんなプライドとアイデンティティを捨てるようなこと、まさかしないよね?」


「信じていただけましたか?」


「君のことは信じているよ。君は優秀で、何よりもキャリアの優先する死神だ。絶対に失敗はしないし、落ちぶれるようなこともしない。

 だけど、かなり時間がかかっているし、念には念を押しておく。標的に恋愛感情をもったから殺せないなんていうことは、許されないよ」


 ヒュッと、私の喉元にハデスの鎌の切っ先が触れた。

 私のものとは違う、不気味に光る鎌――西洋支部長のハデスと東洋支部のイザナミ様だけが持つ、死神殺しの鎌だ。


「当たり前です」


「そうだね」


 ハデスの鎌がふっと消えた。


「じゃあ、引き続き頑張って。いい知らせを待っているよ」


「そちらも、ジャックの件、頑張ってくださいね」


 ハデスは返事をせずに消えた。

 ふん。舐められたものだ。

 私の感情は推し! 恋愛感情などという浅ましいものでは断じてない。

 そして私は、推しという最大で最高の愛情を抱いているにも関わらず、仕事を遂行している。仕事を放棄するなどという愚行を、どうして心配されなければならないのだ!

 美しく、完璧に仕事をこなすことこそ、私のプライドとアイデンティティ。私は推しを愛するとともに、私自身を愛している。

 

 だから、仕事は放棄しない。

 皇の証明が終わったら、再び鎌を握るのだ。


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