14話 映画の後でお仕事 8
ぐすぐすと鼻を鳴らしていると、「お待たせいたしました。それでは、キャストと監督が登壇いたします!」と司会者が言った。
キャアアアアアアア!! と黄色い歓声が沸き、目を上げる。
ひ、緋王様が……来たぁあ————っ!!!!
「あああああああっ! ほほほほ、ほんもの!! ほんもの!! ちかっちかっちかいっ!!!!」
私はハンカチとうちわを膝に落とし、なにかを握りしめた。
生緋王様! 黒スーツ緋王様!! かかかかか、かっこよぉおおお~~~~っ!! 二列目だから最高に近い! この前のライブより近い気がする! 心なしか、いいにおいがするっ! ああぁっ……! 嬉しい……!
「――では、主演の緋王さん。最初に一言、ご挨拶をお願いします」
「皆さん、こんばんはぁ」
キャアアアアアアア!!!!! しゃべったあああああ!!!!
目の前の緋王様が、しゃしゃしゃしゃ、しゃべってる! ほほほ、ほん、ほんもの……!!
「この度はこのような遅い時間に、劇場まで足を運んでいただき、本当にありがとうございます。お仕事終わりの方、学校終わりの方、いろいろな方がいらっしゃると思いますが、作品一つみるのは、心の力がいるものやと思います。お疲れのところ、この作品のために心の力と時間を割いてくださった皆さんに、心から感謝します」
ひっ…………! な、なんて美しい礼のお心……。尊い……。
感動して、涙がじわりと滲み出た。
――その時だった。
緋王様がこちらを向いた……!
…………⁉
目が合っているかは分からない……!
だが、確実にこちらを見ている! 私を見ている!!
私は声にならない声を出しながら、「わわわわわわわ……!」とわけの分からぬ声を漏らしながらぐいぐい皇を引っ張り、やがてうちわの存在を思い出した。だが、うちわに書いてあるのは「こっちみて!」と緋王様の名前である。もうこっちを見てくれているし、意味がない!
くっ……! 「大好き!」のうちわをつくってくればよかった……!
もだもだしていると、緋王様の視線が離れてしまった。
ああ……。
残念ではあったが、その後の質問のお答えもすべて素晴らしかった。緋王様イズ崇高…………。
「それでは、最後に一言お願いします」
あっという間に時間になってしまった。緋王様がマイクを握る。
「今日は、本当に長い時間お付き合いいただきありがとうございました。上映開始は二週間後になりますので、ぜひお友達や職場の人たちに広めてもろたら嬉しいです。暗いので、気ぃつけてかえってくださいね。
――僕に、殺されないように」
キャアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!
最後の、最後の台詞!!!!
萌え!! 萌え!! やばい!! 萌え!!
しかも、私の方を見たっ!!!! 絶対見た!! 嬉しすぎる!!!!
あああ! 緋王様になら殺されてもいいっ!!
むしろ後ろから襲ってほしい!!
私は神なので死なないが!!




