14話 映画の後でお仕事 7
終会が終わって一時間後の十七時。新宿の映画館で待ち合わせた。
皇は、白いシャツの上に黒い薄手のカーディガン、黒いパンツという格好だった。スタイルがいいだけに、メガネと長い前髪で顔が隠れているのがもったいない。
「メガネを……」
と手を伸ばしたが、メガネを押さえられた。暗い中なのでメガネを外すといっそう周りが見えなくなるらしい。
まぁ、この時間は緋王様がメインだからいいか。
せっかくなら、私服皇を写真に納めたかったのだが。
準備していたスマホを鞄に戻すと、指先が運命写真機に触れた。
そういえば、今日はまだ撮っていなかった。
パシャリと皇を撮る。スマホで撮られ慣れているからか、突然の撮影にも皇は何も言わない。
出てきた運命写真をみて、ため息をついた。
今日は緋王様に浸ろうと思っていた矢先に……。
まあいい。一日一仕事は決めていたことだ。
今日はこのチャンスを使う。
だが、まずは緋王様に集中する。
劇場に入ると、緋王様のファンらしき少女たちが和気藹々としていた。皆、きらきらしたうちわを持ってキャッキャと話し合っている。微笑ましい。
のほほんとした気持ちで皇についていく。前から二番目の席だった。
ち、近い……! 映画後の登壇が楽しみで仕方ない!
映画は、最高だった。
ミッションだけを淡々とこなす、冷酷な殺し屋……。
ミッションのためにとある少年を殺すことになるのだが、それは自分の弟だった――という物語。
わけあって親に捨てられた緋王様は、弟とは顔を合わせたことがなかったが、ふとしたタイミングで弟と交流し、心を通わせてしまう。
憂いのある表情で錆びたビルの屋上から汚い街を見下ろすシーンの儚さたるや……。
緋王様が映るたびに美しくて惚れ惚れした。
しかし、映画が終わり、私は沈鬱な気持ちでボロボロに泣いていた。
「大丈夫ですか」
「うっ………………うぅ……………………」
皇が差し出したハンカチに顔を埋めて泣く。
また、緋王様が死んでしまった……。
緋王様が死んでしまう映画はこれで二作目だ。ひどい。なぜ緋王様を殺すのか。私は悲しくて、許せない気持ちでいっぱいだった。
しかも、最期の言葉が「愛してる……」。助けた弟に向けた言葉だったが、カメラ目線で画面いっぱいに映った緋王様が美しかっただけに、死んでしまったことへの悲しみが深くてならない。
「本当に死んだわけではないです。この後、登壇しますから」
「そうだとしても、いやなんです……。推しを失うなんて、世界の終わりです…………。推しには、永遠に生きていてほしいんです…………」
「…………永遠に…………」




