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どうやら私は騎士爵夫人らしい。  作者: 中谷 獏天
誰が彼女を殺そうとしたのか。
8/22

8 どうやら尊いらしい。

『おはようヴァイオレット』


「おはようございます」

『僕には君を愛する価値も無いのかも知れない』


 急に、何故。


「あの、何故急に?」

『考えてみて欲しい、何故なのか』


「あ、はい」

『答えが出るまでハグをさせ続けて欲しい』


「お妾さんの事は」

『白紙撤回だ、メアリーと僕で何とかメイソンに理解して貰えた、けれど課題は製作中だから待っていて欲しい』


「なら抱き付くのはど」

『君が僕をどう思おうとも僕は君が好きだ、だから慣れて欲しい』

《チッ》


「メアリー、舌打ちが上手」

《すみません、親が舌打ちする者で、失礼致しました》


『僕は君が思うよりも姑息だし、清廉潔白でも聖人でも無い、要は君と僕は同じ生き物なんだ』


「もしかして、既に外に愛人が」

『居ないけれど、そこまで僕が情欲に飢えている様に見えるんだろうか』


「あの、このお顔に耄碌してらっしゃるかと」

『顔、とは』


「実は前に、肖像画を見てしまいまして」

『あぁ、その事はもう片付いたんだ。そうだ、肖像画を一緒に燃やそうか』


「勿体無い」

『なら君に書き換えさせるのは?どちらかだ、焼くか書き換えるか、因みに書き換えるのは最初から描く値段の半分にも満たない、下手をすれば菓子が買える金額だよ』


「あの、片付いた、とは」

『生きているらしい、しかも僕は二股されていて捨てられた、メイソンや家族が僕の為にと事実を隠してくれていてね。メイソンは君を諦めさせるつもりが、僕には逆効果だった、聞いても何とも思わなかったんだよ』


「それは、生きてらっしゃるからでは」

『当時に知っていたら殺すか悲嘆に暮れるかしていたけれど、時間が経っているし、もう今は君が。顔は切っ掛けに過ぎない些末な事、勿論こうなったからこそ君を好きになったのは有るけれど、僕は打算と情愛に悩む普通の生き物だよ』


「誂って遊んでらっしゃるのでは」


『ぁあ、前世で君を騙した男は貴族なのかな』

「それに準ずる名家で、華族と呼ばれる制度の者でした」


 君の様に真面目で勤勉な者は魂が美しい、好きだ、惚れた。

 身分が違うと言うと、駆け落ちをしよう、待っていると。


 最初は遊びだろうと思いました、でも彼は時間を掛け、贈り物も手紙も頂きました。


 そして私は置手紙をして家を出て待ちました、雨の中を1日、眠くてもそこで待ちました。


 そこに彼は友人と共に現れ、全てを教えてくれました。

 1日中近くの茶屋で見ていた、最高に楽しかった、手紙は代筆だから証拠として出しても無駄だ。


 恋心と家を同時に失い、お寺に荷物を置いて川に飛び込みました。

 でも死ねずに、流れ着いた先で日雇いの仕事をして、でも病気になって物乞いになり。


 それからやっと、死ねました。


『僕達はもう夫婦なんだよ?』

「子がいなければ離縁は成立しますよね。それに情愛について本で学びました、何年か過ごせば熱が冷めると、抱かれれば飽きて下さるなら抱かれますが子は無理です。愚かさは移り、時に血筋に影響します、私の血は残すべきでは」

《私の楽しみを奪わないで下さい、どんなに愚かな子でも嫁がせられる私を、信じては下さいませんか?》




 今まさに、僕が舌打ちをしたい。

 今までもヴァイオレットを支えてきたメアリーに、どうしても勝てない。


 良い場面は全てメアリーに持っていかれてしまう。

 まさか侍女と妻を奪い合う事になるなんて。


 いや、だから僕は捨てられたんだろうか。


「メアリーは信じてるわ、けど」

『ヴァイオレット、先ずは肖像画の事を良いかな?』


「あ、その、はい。ただ離縁になった場合は買い取らせて下さい、そうした物を残すのは、お邪魔になるでしょうから」

『そもそも処分すべきだった、すまない』


「いえ、お陰で婚姻歴に箔が付きましたので、ありがとうござ」

『僕に愛する資格が無いかも知れない理由を、考えて欲しいのだけれど』


「あ、すみません、はい」

『朝から色々と考えさせてすまないね、ありがとうヴァイオレット』

《旦那様、そろそろご出勤の時間かと》


 メイソンの次はメアリー。

 それとヴァイオレットを狙ったかも知れない、屋敷の者。


 居ないのが1番なんだが。

 居るかも知れない、居ない証明をしなければ、ヴァイオレットとは。


『僕に愛する資格が無いかも知れない理由について答えが出たら、僕に書いて寄越しておくれね、行ってくるよ』

「はい、行ってらっしゃいませ」


 先ずは何処から調べるべきか。




《えっ、マジでケガしちゃってたんですか?》

『家の中でだ、ただ向こうの家に疑われている、屋敷内の者に狙われたのではと』

「上司様は色男ですからね、分かる」


『薬は飲んだか?』

「ふぇぇ、上司様の気遣い逆に痛い」

《先ずは女性陣から疑うべきですけど、殆どいらっしゃらないんですよね?》


『子供の頃からの者ばかりで、片手で余る程、今では閉経して楽になったと堂々と言う者だけだ』


 となると。


《じゃあ男で独身の者ですかね》


『何故』

《叶わない思いだからこそ、自分の理想通りの相手とくっついて欲しいそうですよ》


「えっ、君、ソッチ?」

《の方に言われました、僕の理想通りの相手と結婚してくれないなら僕のモノになれ、と》

『それで君は、どうしたんだ』


《その理想通りの女性が居るなら紹介してくれと言ったんですけど、まだ見付からないみたいで、音沙汰が無いんですよね》


「君、それ期待して待ってるの?」

《はい。だって美人だけども可愛らしい人で胸がデカくて、なのに貞淑で一途だけど俺を満たせる女子ですよ?待ってるだけで良いなら最高の相手じゃないですか》


『その、期限は決めて有るんだろうか』

《来年の春までの予定なんですよ、けど上司様と争うとなると困るんで、離縁は僕が相手を見付けた後でお願いしますね》


『どうして離縁すると』

《だってお嫁様は殺されそうになったかも知れないんですよね、なら誰に殺されそうになったと思うか、賢い方なら先ずは伴侶だと考えると思うんですけど。そうした話し合いをして無さそうなので、離縁も有り得るかな、と》

「君怖いモノ知らず過ぎて俺が怖いわ」


《でも大概の犯行は身内なんですよ?上司様のお嫁様なら思い当たって然るべきでは?》


『見回りに行ってくる、君達はいつも通り巡回を頼む』

《畏まりー》


 犯人に思い当たる節が有ったのか、お嫁様とお話し合いか。


「君さぁ」

《あ、お薬飲みました?》


「飲んだ、ありがとう」


 それか、証拠隠滅に向かったんですかね、上司様。




「あ、の」

『僕も愚かだった、部下に言われて想定が抜けていた事に今さっき気付いた』


「夫様、何の事か」

『君は、僕が君を殺そうと思ったかも知れないと、思った事は無いだろうか』


 あ、ココ驚くべきですよね、そう想定してないなら驚かないと。

 どうしよう、どうすれば。


「あの」

『すまない、思い至れ無かった』


 あ、私が疑っていたとは思ってらっしゃらない?


 いや、寧ろ思い至れなかった事が問題ですよね。

 やっぱり、愚かさが移ってしまったのでは。


「やっぱり、私の愚かさが」

『いや、コレは君への情愛故にだ。君のせいでは無い、僕の問題だ』


「お、王族は王妃を寵愛し過ぎてはいけないそうで」

『生憎と僕は王族では無いし、こんな僕には君だけでも十分過ぎると思っている』


 急いで来たから汗が。

 汗を流す姿すら尊いのに。


「あ、夫様、お水を」

『いや、もう戻る、すまなかった』


「いえ、お気を付けて」


 お仕事用の口調も素敵。


 なのに、勿体無い。

 自分には勿体無いだなんて、優しくて真面目な方なのに、私にこそ勿体無いのに。


《お嬢様、先ずはすべき事と考えるべき事を片付けましょう》


「うん」




 本気で焦って家に帰るとか。

 本当にお嫁様が好き過ぎですよ、ウチの上司様。


「上司様、どうでしたか?」

『様子見に行ってみたが、分からなかった、男からの嫉妬や殺意は感じなかったが。君なら気付けるんだろうか』

《いやー、俺も本人から言われるまでは。ただ、兆候は有ったんだなと後から気付きました。男は男を露骨に牽制するんですよ、件の事を友人に言ったら、やっぱりなって言われたんで》


『なら、君を連れて行けば』

《引っ掛かるかも知れませんね、俺ってそう言うのに好かれ易いらしいんで》

「まだ他に逸話があんの?」


《その牽制されたってヤツも、俺を愛人にと狙ってたらしくて、ソイツの結婚式の後で愛人にならないか誘われた》

「分からん、全く分からない世界だわ」


《良いみたいですよ、突っ込まれるの》

「ひぇ、痔は死ねるなぁ」

『治しておけ、仕事に響くぞ』


「いや俺は別に」

《穴痔ですか、大変だ》

『お前はまた病院へ行け、ウムトは今夜ウチに来てくれ、頼む』


《やったー、健康の勝利》

「マジで俺のケツは平気なんすけど?」

『なら次に頼む』


「ウッス」


 マジで大好きじゃないですか、お嫁様の事。

 でも良いんすかね、上司様とは違う種類のイケメンを連れてって。




「眼福」


 お嬢様は仏教が元来でらっしゃるらしく、セバスチャン様がお連れになった方に影ながら手を合わせ。

 後で報告して差し上げましょう、セバスチャン様に。


《お嬢様、ご挨拶は快気祝いの時で、お食事にしましょう》


「ぅん、はぃ」

《今まで使って頂いたお金は稼げば良いんです、そして仕立て屋が大成功せずとも、潰れなければ宜しいんです。それこそがご恩返しとなるとは思いませんか?》


「そんな程度で」

《他にも案は有りますが、先ずは1つ1つです》


「うん、はい」


 一生、お守り致しますよ、お嬢様。




《お嫁様に会いたかったなぁ》

『快気祝いまでには体調を整えられる予定だ、すまない、私用に巻き込んでしまって』


《いえ、タダ飯美味しかったですし》

「あの、夫様」

『ヴァイオレット、どうしたんだい』


「ベール越しですが、やはりご挨拶をと思いまして」

《部下のウムトです、いつもお世話になってます》


「ヴァイオレットと申します、病を移してはと、この様な装いで失礼します」

《ご配慮頂きありがとう御座います、どうぞご自愛下さい、次に部下が来てもご無理をなさらず。と言うか無視して構いませんよ、どうせアイツは性病持ちだし》


「あら、ぁあ、それで快気祝いを」

《だから敢えて無視してやって下さい、僕の事も、お嫁様のお体の具合が最優先ですから》


「ふふ、ありがとうございます、では失礼致します」

《はい、ありがとうございました》


 泣きたい。

 部下には気を許して、どうして僕には。


『どうして君には気を』

《僕が敵じゃないと分かって頂いてるからでは、と言うか何ですかあの侍女、全く足音が無かったんですけど》


 僕が、ヴァイオレットの敵。

 そう見せた事は。


 いや、以前の記憶も蘇っていると聞いている。

 しかも最悪は死んでくれないかと確かに僕は思っていた、だが、いや。


『アレはヴァイオレットの生家からの侍女だ』

《へー、あ、事故の日の事、時系列で書き出しました?》


『あぁ、既にあの侍女が記録していてくれて、コレだ』


 確かにウチの使用人だけがヴァイオレットに関わっていたが、それでもかなり限られている。


《んー、名前と容姿が合致しないのでアレなんですけど》

『この者は……』


 筆頭執事のメイソン。

 執事補佐のジェイソンとスティーブン。


 メイド長のアンナ。

 メイドのマリー。

 そしてメアリーだけ、なんだが。


《ジェイソンかスティーブンって》

『そうした噂は全く、ただマリーがスティーブンを気に入っていた時期は有るが、息子としてだろう。今は特に接触している素振りは無い』


《んー、分かんないっすねぇ》

『あぁ、僕もだ』




 余計な事だったかしら。

 メイソンにも確認してから、ご挨拶をしたけど。


《大丈夫ですよお嬢様、メイソンが許可した事を私も確認しておりますし》

「でもメイソンが許可したからと言って、夫様に得になったかどうか、最終的な判断は夫様の」


 あらノック、誰かしら。


《何用ですかメイソン》

《ヴァイオレット様がお悩みでしたら、どうかお伝え下さい、ご挨拶は正解でしたと》


「メイソン、本当に?」

《お話しが弾んでらっしゃいますし、義理堅い方だと褒めてらっしゃいましたよ》


「ありがとうメイソン、ごめんなさい、セバスチャン様の興味を削ぐ事が出来無くて」

《いえ、あのお願いは時期尚早、過ちでした》


「いえ、メイソンは間違って無いわ、だって私より賢いんですもの。だから、きっと夫様が気を使って下さったのね、ごめんなさい、ありがとう。もう良いの、ありがとうメイソン」


《いえ、コレは、私が》

「良いの、ありがとう、ご苦労様です」

《ではメイソン、ご機嫌よう》


「メイソンにまで迷惑を掛けてしまったわね、やっぱりもっと自重しないと」

《ですが刺繍入りのハンカチは贈りませんと、最低限、夫婦ならば既に持っているべきですから》


「部下の方にもお渡しするのは」

《それでしたら快気祝いに、日頃のお礼としてお渡しするのが良いかと》


「そう、なら選んで貰える様に色々と柄を刺繍しないと」

《そうですね、図案を選びましょう》


 それからメイソンにも、謝罪の意味を込めた図案を。

 色も、紺で、メイソンの言う通りにしますと伝えないと。

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