表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
どうやら私は騎士爵夫人らしい。  作者: 中谷 獏天
誰が彼女を殺そうとしたのか。
7/22

7 どうやら本気らしい。

 夫様の部下の方の快気祝いを、私を交えて本館で、と。


「困ります、ただでさえ愚、前の婚約者様に私は似てるんですし、離縁予定なんですし」

『僕の何がダメなんだろうか?』


「私の愚かさが既に移ってらっしゃるのかと」

『メイソン、もし君の孫娘がこんな事を言っていても、見定める時間を必要とはしなかったと言い切るんだろうか』


 あぁ、早口で止める間が。


「あの、実際に愚かでしたし」

『なら変化した時点から改めて見定めるべきだった筈、現に僕はそうした、それは愚行だったんだろうかメイソン』


「あの、まだ課題を」

『作っているから待っていておくれね、メイソンにも納得して貰える筈の課題だ、けれどもどう評価するか』

《早まった事は謝罪致しますが、ご結婚の継続については課題の後に評価させて頂きたいと思います》


「是非そうして下さい夫様、私に有用性は殆ど」

『それを決めるのは僕だけれど、ヴァイオレットの言葉も聞くよ。メイソンを、どう有用だと思う?』


 また、私を試そうと。

 けどメアリーにも嘘は良くないと言われた、この場合の偽りは裏切りで不義理だと、嘘を言うなら課題だけ。


 でも、夫様の目が曇ってるかもで。


 そうか、なら目を覚まさせるべき。

 ココは正直に。


「代々の家の事を、内外の事にも精通してらっしゃいます。そもそも代わりが無いのです、教え込むにしても時間が掛かりますし、そのお時間を、既に教え込まれた方がいらっしゃるなら、メイソンにミスは無いと思いますが、当主選び同様に時間を掛けて見定めるべき、かと」

『コレで愚者なら僕も愚者な筈が、どうしてメイソンは認めてくれないんだろうか?』


「私が情に縋っているも同義だからです、泣いてしまったり痩せてしまったり」

『我儘で、なら貴族失格だ。けれども生死を彷徨い追い詰められた者が、図太くも堂々としている方が、僕は逆に怖いよ。家を乗っ取られる心配をするなら図太い者の方だけれど。メイソンはどちらかな』


《どちらでも無い方を選ぶべ》

『どちらかと聞いているんだよ、それとも正解が有るなら教えてくれ、頼む』


「あの、私は下がって」

『あぁ、ダメだよ、今は僕と君の時間なのだから。答えを聞くまいと気遣ってくれたんだね、ありがとう』


「あ、メイソン、書いて下さい、私は見えない様にしま」

『ヴァイオレットは愚かじゃない、賢い子だ、良い子だね』


 昨今急激にスキンシップが激化して。


 勿体無い。

 私には勿体無い、このご尊顔が私に向けられるのは勿体無い、美丈夫の無駄遣い。


 消えたい。


 死にたい。


《私としては、ご当主様の前では気丈に振る舞い、涙は侍女にのみ》

『それメイソンの好みってだけじゃないかな、それとも父上のかお祖父様の好みか。それが絶対的に正解だとする論拠と根拠を』

「夫様、例え平民でも貴族でも家の主人に迷惑を掛けないのは当たり前です、ご心配を掛ける等は以てのほかです」


『けれども誠実さをも大切な筈、涙を隠すのは、隠す事は不誠実だと僕は思うけれど。ヴァイオレットは泣き顔を見られるのは嫌なのかな』


「情に縋る事は情けない事です、品位を欠く行為です、感情や情動は抑えるべきです」

『誰にでも泣き顔を見せろと言ってるワケじゃない、僕にだけ見せて欲しい』


 勿体無い。

 こんな優しさは私には勿体無い。


 あぁ、私の愚かさが移ってしまったんだ。


 死にたい。


「消えたぃ」




 こんな筈じゃ無かったのに、どうして。


『ヴァイオレット』

「すみません、私の、愚かさが、移ってしまって、私が」


『メイソン出てくれ』

《はい》

「メイソンは、悪く、ないんです、だから」

《お嬢様、セバスチャン様には伝わっていますよ、大丈夫です。だから先ずはゆっくり、息を吐きましょう》


 本当に泣いて欲しかったワケじゃない。

 メイソンにもヴァイオレットにも、ただ分かって欲しいだけなのに。


『君も私も愚かじゃない、メイソンも、だからきっと分かってくれる筈だ、大丈夫』


 こんな風に抱き締めたかったワケでは無いのに、どうして。


「馬鹿は、移るって、だから」

『僕は君が思うより愚か者の耐性が有るんだ、それに君は愚かじゃない、移る事は無いよ』

《そうですよ、ウチの旦那様が愚か者に嫁がせるワケが無いんです、何なら愚か者慣れしてらっしゃるからこそですよ》


 コレは初耳だけれど、嬉しい様な、ヴァイオレットの父上の底が知れないと言うか。


「けど」

《セバスチャン様がお優しいのは勿論ですが、もし愚かさが移っているなら、とっくにメイソンを追い出しているのでは?》


「でも、遠ざける覚悟で、キツい事も、仰ってますよね」

『メイソンなら誤解は解けると信じているからね、君が自分自身を愚かだと誤解している事も解けると信じているよ、事実だからね』


「でも、この」

『好きだよ、君が好きだ』


「ダメです、やっぱり、勿体無いですぅ」


 気持ちを伝えて泣かれるなんて、本当に思ってもいなかった。




『メイソン、好きだと言ったら泣かれたよ、満足かい』


《私を共通の敵と》

『違う、本当に理解して欲しいんだ。アレすらも作戦だったとしても僕は彼女を手放す気は全く無い、何年掛かっても彼女と幸せになる。頼む、分かってくれないか』


《本当に、危険な情報をお持ちでは無いと言い切れますか》

『僕が何が危険かを教える、僕が抑える、けれどもそれだけで完璧だとは言い切れない。だからメイソンにも理解して欲しい、彼女の優しさも賢さも本物だ』


 今までお坊ちゃまには内密にしていた事を、今、言うべきなのかも知れません。


《元婚約者様の事も、そうして信じてらっしゃいましたね》


『何が言いたい』

《彼女は亡くなってはおりません、女性と共に修道院へと駆け落ちをしたのです。亡くなったとしたのは、ご両家の配慮です、お坊ちゃまは二股を掛けられていたのですよ》


 私達も最初は耳を疑いました。

 ですが書き置きに全てが書かれ、女性を愛してしまったと、その家の侍女と共に。


『メイソンはガッカリするかも知れないが、もう僕はヴァイオレットの事で心がいっぱいらしい、寧ろ彼女には生きててくれて嬉しいと思う。受け取るかは別だけれど手紙を書くよ、僕の事は気にせず幸せになってくれ、と』


《お坊ちゃま》

『隠していてくれてありがとう、当時の僕なら今のヴァイオレットのようになるか、殺していたかも知れない。ありがとうメイソン』


 あんなにも危険な人物を、お坊ちゃまは本気で。




《失礼します、メアリーですが》

『入ってくれ』


《失礼します、お嬢様はグッスリお眠りになられました》

『どうしたら僕は君に勝てるんだろうか』


《チ◯コを捥いでメイド服を着れば宜しいかと》

『それは無理だね、情欲も含んでの情愛だから』


《殆どの女性は妊娠します、どんなに抵抗しても、種を植え付けられれば子を宿してしまう。そして出産は命がけです、ですから時に男性に怯える少女が居るのです、本能的に生命の危機を覚えてしまうのです》


『性欲を抑えて接しろと?』

《ご尊顔が強烈過ぎるのです、存在からしても、尊い存在で自分には勿体無いと仰ってるんですよメイソン。聞いてますかメイソン、セバスチャン様を尊いとまで仰るお嬢様の何が信じられないのか、じっくり教えて下さい》


《危険視しているのは知恵、知識です。当たり前故に見逃されがちな知識や知恵を、決して外部の者に漏らしてはならない、漏れ出て悪用されては家ごと潰されてしまう可能性を危険視しているのです》

《無い証明、悪魔の証明をしろと仰いますか。なら先ずはアナタがヴァイオレット様を昏睡状態にしたのでは無い証拠をご提示下さい、メイソン》


 老害が、コチラは既に何年も考えて出した結論なのですよ。

 転生者ならば持つ知恵を探り、知り、もし危険だと分かれば。


 けれども私は情報を隠しているワケでは無い。

 本当にお嬢様には危険視すべき知識も知恵も無い、ただ不憫で幼い前世を持つ少女、それだけ。


『まさか』

《いえ、ですが転生者である以上》

《では拷問しますか薬物を使用しますか、良いですよ、ウチの旦那様からはお嬢様に実行しても構わない、と既に許可を頂いております。そうやってコッチは何年も掛けて考え吟味して来たんです、本当に何も出なかったらアンタはどう責任を取るのですかね、メイソン》


『メアリー、君は、ヴァイオレットを殺すつも』

《いえ、意地でも生かす、記憶を操作しても何をしても生かすのが旦那様との約束です。ですが徒労に終わったのです、既に王宮に伝え、既存の知識しか無く安全な分類だとされています》


《では何故その事を》

《叡智の結晶を守るに足るのか、ココの方達が何処まで賢いんでらっしゃるかをコチラが見定めて、何か問題でも?と言うか先ずはどう責任を取るつもりだったのかを教えて下さい、メイソン》


《私は、それでも》

《魔女狩りが何故無くならないのかご存知ですか、自分に不都合な者を追い詰め、処分するのに都合が良いからなんです。悪しき者で無いなら水に沈む、悪魔の印らしき何かを針で刺しても痛みは無い筈だ、やはりスペイン生まれは》

『すまなかったメアリー』


《彼の事も分かった上、でしたが老いとは怖いモノですね、ココまで耄碌しますか》

『メイソン、こうなる前に理解して欲しかった、突き詰めれば信じるか殺すしか無い。だからこそ、聞かせて欲しい、君はヴァイオレットに』

《誘導も手出しもしておりませんが、そうですね、私も同じ事をしていた。疑い、信じず、見定めを放棄した。覚悟が足りない愚か者は私の方でした、申し訳御座いません》


《引退はさせませんよ、しっかりお嬢様を認め謝罪し、引き継ぎを行ってからです》

『あぁ、僕もそうして欲しい』

《はい、承知致しました》


『メイソン、今日はもう下がってくれ』


《はい、失礼致します》


《コレで容疑者は1人だけ、消えましたが》

『全く検討も付かない、ヴァイオレットの単なる事故じゃ無いかと、未だに疑っているんだが』


《事故の証明が不可能なら他に嫁がせます、今の彼女なら引く手数多でしょうから》

『頼むからもう少しだけ待ってくれないだろうか、今の今で僕も困惑しているんだ』


《無難に離縁出来るまで、凡そ1年、ですが彼女が死ねばどうなるか。多分、本気で国に消されますよ、知恵や知識だけが重要では無いからこその叡智の結晶なのですから》


 重要視されるのは知恵や知識、だけでは無い。

 それは経験、進んだ時代の得難くも貴重な経験を持つ者を殺したとなれば、愚者として劇か寓話で永遠に語り継がれるでしょうね。


『言われ無くても、彼女の経験は得難く貴重だ。けれども僕が欲しいのはそこじゃない、違うのに』


 情愛故に、冷静さに欠けてしまっている。

 けれどもそれは罪では無い、誰にも害が無ければ許される、神々が愛するとされる良き人間らしさ。


《本気で惚れて下さってるなら、助言を差し上げても良いんですが、それでもダメな場合はキッパリと手を引いて下さい》


『いや、手を引く事が前提ならギリギリまで止めておく。ただ、どうしたら前の様に笑ってくれるのか、教えて欲しい』

《また頭を打って貰うか薬物でも使って記憶を消せば、可能かも知れませんが。無知の知を知ってしまったんです、もう無垢な笑顔を取り戻すのは不可能かと。この家の重要人物メイソンに拒絶されましたからね、彼は転生者は危険だ、と彼女に烙印を押した。もう少し私達を信じて下さっていたら、あの笑顔が失われる事は無かったでしょう》


『もう、無理なのか』


《なら諦めますか》

『いや、まだ何もしていないのに、僕らこそ償うべきなのに、諦めるも何も無い』


《では償いが終わったら》

『そんなに僕がダメなら教えて欲しい、どうしたら良い、どう変われば良い』


 必死に、本気でお嬢様を欲しがってらっしゃる。

 良いでしょう、善人ですし、お嬢様も好いているのですし。


《愚か者と言われ続けた者の気持ちになり、良くお考え下さい。では、失礼致します》


 ヒントを与え過ぎてしまいましたかね。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ