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23 ヴァイオレットに花束を。

《ちわー、開店祝いのお届け物でーす》

「お邪魔しまーす」

「あ、いらっしゃいませウムトさん、ケビンさん」


『ヴァイオレット』

「いらっしゃいませ、セバスチャン様」


 もう、こんな超両想いの分際で、偶に暗い顔をしてたんすよね上司様。

 最初は寂しいだけかなって思ってたんすけど、相変わらずウムトがズバッと聞いて、どう償えば良いんだろうって。


 好き過ぎ真面目過ぎ、つか気にし過ぎだって言ったんすけどね、ダメで。


 全部、良い方向に行って、ラブラブでヴァイオレット様が何も気にして無いなら別に良いんじゃないのかって。

 つか、コッチが気にしてない事を気にされる方がウザい、ってバッサリとウムトが切って。


 それからはまぁ、徐々に元気になって。


 けどまた落ち込んで、何かと思えば忙しくて構って貰えないって。

 流石に惚気代を貰いましたね、ヴァイオレット様のお菓子で手打ちにしたんすけど、パイ生地のチーズとハーブ入りがもう美味くて美味くて。


 まぁ、要するに大好き過ぎって感じで、俺らが何とかしてやんないとダメな上司様にジョブチェンジしちゃったんすけど。


 仕方が無いっすよね。

 優しくて可愛くてピュアで、超愛されてるんですもん、逆に不安になるのも分かるっすよ。


《ラブラブ》

「つかクソお洒落っすね、このお店」


 店名はV・B、ヴァイオレット・バタフライって店名で、敢えてアールバート家の名前は一切無し。

 丁度、庶民街と貴族街の境なんすけど、店も丁度両方って感じ。


 安い品物は店内に入って直ぐの場所に、奥には高級品が有って、応接室まで有る。

 しかも、裏には共用っすけど小さい庭も。


 刺繡用の庭らしいんすけど、凄い整備されてんの。


「もう、凄い贅沢な気がするんですが」

《そこはもう上司様に稼いで貰って、ココは少しずつですよ、貴族って敢えて飛び付かない高飛車も多いですから》

「そうそう、探り合いの果てに良い店だって知ったらやっと食い付くらしいっすよ、大丈夫ですってココ良い具合っすよ」

『もっと豪勢にしても良かったんだけれど、抑えた方だからね。成功したら他にも店を出そう、ヴァイオレット』


 お嫁様の胸には、紫色の真珠のネックレス。

 成程、だから装飾品を紫色に変えたワケなんすね、ヴァイオレット様に合わせての事。


 誰も、こんなヤバそうな人の妻なんて取らないと思うんすけど、もっとヤバいのは平気で手を出そうとしますし。

 ニコニコして可愛いっすもんね、お嫁様。


 良いなぁ、俺も結婚したいなやっぱ。


《素敵なネックレスですねぇ》

「はい、頂いたんです、ふふふ、セバスチャン様とお揃いなんですよね」

「急に変えたと思ったらそう言う事だったんすね」

『ヴァイオレットを守りたくてね』


 アメジストのブローチ、高そう。


「あ、お客さんっすね」

《庭に引っ込んでますね、頑張って下さいヴァイオレット様》

「はい、ありがとうございます」


 良いなぁ、結婚。




「で、現れたの?仲人」


《性格が悪過ぎて返品した、他は完璧だから一瞬だけ悩んだんだけど、返品した》

「勿体無い」


《いや重要でしょうよ性格、しかもお嫁様を見ちゃってるからもう、本当に無理だったわぁ》


 豊満で可愛くて綺麗。

 でも、性格が凄く悪い。


 どうやって私を幸せにしてくれるの?

 って言われて、鳥肌が立っちゃったんだよねぇ。


「あー、無いわぁ」


《もうさ、庶民の方が逆に良いんじゃないかって、アレ、警備隊の本部の目の前の店》

「あー、アレ、中央の近衛の侍従とこの前結婚したらしいじゃん」


《は?》

「あ、知らなかったの?ダッサ」


《はぁ、意外と居ないよねぇ、良い女》

「上司様の見ちゃうとねぇ、特に居ない様に思えるよなぁ」


 貴族らしくないけれど、貴族としては振る舞える。

 確かに少し幼いけど、愚かだったなんて到底思えない。


 多分、上司様の嘘だったのかなとも思ってる。


 あのお嫁様が害されたとか、殺そうと思ったとか、全部が嘘だったら良いなって。

 だって、あんなに愛し合ってるんだし、罪悪感から上司様がお嫁様を愛するとか何かムカつくし。


 だからまぁ、全部、僕らを楽しませる為の嘘だって思う事にした。

 ほら、憧れは継続させておきたいし。


《はぁ、何処に食べに行こうか》

「折角だし、偶には西地区に行ってみようや、良い出会いが有るかもだしさ」


《じゃあ東で、君の運は凄い悪いんだしね》

「そこは大丈夫っしょ、お守り貰ったんだもん」


《だとしてもだ、東へ行くぞー》

「おー」


 お嫁様の店、繁盛すると良いなぁ。




《大変、申し訳御座いませんでした》


 息子にと思って拾った男が、息子の妻を害するとはな。


「おう、どうして反省する気になった、坊主」

『私も気になる、答えなさいスティーブン』

《お子様を幸せそうに抱いてらっしゃるお姿を拝見させて頂き、僕は、本当に間違っていたのだと分かりました》


 息子に懸想するだけならまだ良い、だが妻を害するのは当主を害するも同義。

 メイソンに育てさせ、学園にも通わせたんだが、愚かに育ってしまった。


 やはり教育は外部に任せるべきだな。


『だそうですが、どうしますか』

「いや、ヴァイオレットが幸せになり、もうコイツの事すら気にしていないだろう。ウチは関与はしない」


『ありがとうございます』

「いや、全てはヴァイオレットの為、孫の為だ」


 彼は今でも恨んでいるからこそ、特大の嫌味を言い続けている。

 だが、それだけで済ませてくれるのだから、どれだけ器が大きいのだろうか。


 私なら、ひっそりと殺すが。


 コレが、彼なりの処世術なのだろう。

 幾ばくかは、ウチも見習うべきだろうな。


『精々反省し、以降に生かすんだな』

《はい、胸に刻ませて頂きます》


『下がれ』

《はい》


「怖いなぁアンタは」

『私にはアナタの方が怖いですよ、嫌味だけで済ませる器なのか、と』


「アレの道は暗い、愛を求めながらも誰にも愛されぬ事程、苦痛は無いだろうからな」


 男の相手でもさせるかと思ったが、人は与えられたモノには慣れてしまう。

 だが湧き出るモノには、決して慣れる事は無い。


『だけで宜しいんですか』

「おう、それより孫だ孫、俺に似ていると思わんか?」


『いや、セバスチャンの幼い頃にそっくりだ、アレは優秀な騎士になる』

「いやウチの家系だね、文官にさせる」

『はいはい、お2人方、文武両道こそ至高。じゃれないで下さい、そろそろ陛下が来られますよ』


「マリア女史、見ただろう?ウチの子を」

『寧ろ立ち会いましたが、お2人に似てらっしゃいますよ、蝶とアメジストに良く似てらっしゃいます』


 ウチの息子が得た宝が、まさか叡智の結晶だと知ったのは、婚姻を果たした後。

 陛下に告げられ、最悪の想定をしていた中、あの愚か者が最悪の手段に出た。


 だが、陛下は見守る様に、と。

 ウチの息子に期待して下さったのか、神のお導きが有ってか、今は丸く収まったが。


 やはり、アレには償いをさせるべきだろう。

 このままでは、全く私の腹の虫がおさまらないのだから。


「おう、お前達、コレから仕事を頼むぞ」

「はっ」

『はい』

『畏まりました』


 私の息子に幸福と子を齎して下さった陛下に、忠誠を。




《ふふふ、乳母は不要でしたわね、溺れてますもの》

「本当に良く出てくれるのは有り難いんですが、まさか溺れるとは思いませんでした」

『マリア女史やメアリーのお陰だね、ありがとうメアリー』

《勿論です、それにお嬢様の日頃の行いと私とマリア様のお陰、男は指を咥えて馬車馬の様に働いて下さいませ》


《ふふふ、侍女にもご家族にも恵まれましたわね、ヴァイオレットお姉様》

「それに旦那様にも、旦那様のご家族にも、ありがとうメアリー、マーガレット様」


 お嬢様は、やっと幸福を掴まれました。

 天国か夢か、そう呟いていた小さな子が、小さなお子様をお産みになりました。


 出来るなら私の分まで産んで頂きたいのですが、お体に障っては困りますし、程々が1番ですので。


『本当にありがとう、ヴァイオレット』


 罪悪感に苛まれてらっしゃるだろう事は、分かっておりましたが、敢えて無視させて頂きました。

 そんなモノをお嬢様は望まれない、愛が有れば良いのですが、この若者はまだまだ青いので。


 もう、勝手に悩ませていたのですが。

 優秀な部下のお陰で立ち直り、罪悪感はかなり減っております。


 もう良いでしょう。

 私も、コレはコレで幸せなのだと思っております。


 ただ、あのお嬢様も、私は好きでした。

 不器用で夢見がち、それを許さない世が悪いのです、少し前は常識だったにも関わらず。


 人が人を不幸にする、堕とすのです。


「ふふふ、沢山作りましょうね」


 どうか、お嬢様に幸福を。

 どうか世界に平和を。




「そうそう、そうっすよ、良いっすねぇ」

《はいはい、集中して下さいよ、じゃないと怪我をしちゃいますからね》


 今も尚、セバスチャン様の部下でらっしゃるケビンさんとウムトさんに、ウチの息子達は鍛えて頂いています。

 セバスチャン様のお父様に、教育には外部からも人を招きなさいと言われ、真っ先に思い立ったのがお2人でして。


 本当に、私は恵まれています。

 今世は特に、まるで前世の分まで恵まれている様に思います。


 それ程、私は今、とても幸せです。


『んー』

「あ、糸が絡んでしまったんですね、大丈夫、針の背でゆっくり解せば大丈夫ですよ。ほら、こう」


『して下さい』

「大丈夫、アナタなら出来るから大丈夫、さ、針を持ち換えて。そう、そうです」


 ケビンさんとウムトさんは其々にご結婚なさって、其々に娘さんがお生まれになりました。

 そこまで仲が良いのかと、セバスチャン様が、なので私もつい笑ってしまって。


 同時に、寂しさと羨ましさが湧きました。

 私には今でも友人が居ない。


 いえ、マーガレット様は親戚で友人ですね。

 ご結婚なさっても、相変わらず方々へ行ってらっしゃってるのですが。


 今年は、ご出産が有るのでココに滞在して頂ける事に。


「ちょっ」

《ほらほらケンカする前に練習、ケンカしても強くなれないよ》


 私、あの家の静けさが怖かったのだと、今なら分かります。

 前世が騒々しかったものですから、静かだからこそ怖くて、天国か夢なのかと自身を誤魔化していたのではと。


 流石に、あまりに幼い頃は思い出せないのですが。

 今、この喧騒が堪らなく落ち着くので、そうなのではと。


《すみませんお嬢様、どうにも寝付かず》

「ありがとうメアリー、交代しましょうね」


 男の子が2人、そしてこの子は女の子。


 今は、ですね。

 もう少し体調が落ち着いたら、また、産ませて頂ければと思っています。


 大好きなセバスチャン様に似て可愛い子、素直な子で、本当に愛おしい。


『すまない、遅くなった』

「お帰りなさいませ、セバスチャン様」


『ただいま、ヴァイオレット』


 愚かな私も、今の私も、そして前世の私も愛して下さるセバスチャン様。

 私の夫様、私の家族。


 アナタのお陰で私は、とてもとても幸せです。

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