19 どうやら筋肉痛らしい。
《もー、本当に、手加減なさって下さいませと言ったのに》
お兄様とヴァイオレット様は、王宮を後にしてから先ずはメイソンのお見舞いに、それから仲良しなさったそうなんですが。
ヴァイオレット様は、起き上がれなくなってしまい。
『加減したんだが、すまない』
「いえ、すみません、体力とお肉がまだまだで」
《お兄様、どの位、抑えたのですか》
『大体、半分』
「半分?!アレで?!」
《何が、とはお尋ねしませんが、あんまりでしたらやはり離縁を検討すべきですわね》
『いや、それはダメだ、無理だ、嫌だ』
子供の様に首を振って。
大人の筈ですわよね、しかもヴァイオレット様の4つ上。
「夫様、結構、子供っぽいのですね」
《あぁ、それで同族嫌悪でしたのね、全く面倒な方で。ヴァイオレット様、筋肉痛だけでらっしゃいますの?本当に大丈夫ですのね?》
「はい、少ししたら私も鍛えますね夫様」
『あぁ、うん、ゆっくり鍛えていこうね』
《主に性的な意味で、ですわね、もう。ヴァイオレット様、お肉を食べる量を増やしましょう、医食同源ですわ》
「はい」
こうして、ムチムチなヴァイオレット様になるまでご一緒したかったのですが。
私、次に縁を繋ぐべき方のお知らせを父から頂き。
《お騒がせ致しました》
「またお越し下さいね、マーガレット様」
《勿論ですわよ、お兄様の加減が下手なままなら離縁案件ですし》
『善処は、している』
《はいはい。どうぞご自愛下さいヴァイオレット様、増量したお姿を楽しみにしておりますわ》
「はい、マーガレット様もお元気で」
《えぇ、元気が1番ですもの。では、ご機嫌よう!》
いや本当、一時はどうなるかと。
ウムトも誂えない程に憔悴して、と言うかもう、本当に死ぬんじゃないかと。
《おはようございます上司様、やーっと生き返りましたね、とうとうしましたか》
わぁ、図星だ。
顔を抑えて真っ赤に。
買おうかな、写真機。
「もう今ので、惚気代貰わないと」
《今のは流石にね、貰わないと》
『君達には調査書を渡した筈だが』
《アレは相談代、コレは別です》
「けどまぁお元気になって下さったんですし、今回だけは特別にタダで聞きますよ」
『いや、結構だ』
《またまたぁ、ちゃんと上手く出来たんですか?》
ウムト君、凄いな。
「マジですか」
『いや、僕の方の、加減の問題で』
《大きさと回数の事ならマジで有料ですよ》
『ぐっ』
「マジですかぁ」
《はー、言い触らして大混乱を巻き起こしたいなぁ》
『それは本当に勘弁してくれ』
「はー、もうマジで小さくなる呪いを掛けておきますね」
《回数も、お嫁様が絶倫になる様にお祈りしておきます》
『頼んだ』
はー、結婚してぇ。
《やっぱり元気な上司様が1番だよねぇ》
「それな、あ、お前の男はどうなったん?」
《まだ音沙汰無し、っていうか語弊しか無いからその言い方は止めてくんない?》
「じゃあ何て言えば良いんだよ?」
《俺の、仲人?》
「予定な、つかお前は結婚したいか?」
《したくない男が居るなら俺の、いや、面倒が起こりそうだから止めとく、却下で》
「あー、マジで洒落に」
洒落になんないのはケビンの方だった、俺の目の前で刺された。
たった1回の浮気位、大目に見てくれても良いじゃない、って元婚約者に刺された。
うん、やっぱり恋愛すっ飛ばして結婚からだな。
で、結婚してから上司様みたいに恋愛すんの、最高でしょ。
《医者を頼みまーす!》
夫様の部下の方が、痴情の縺れからの刃傷沙汰に。
有るんですね、実際、こんな平和な世界でも。
「もー、マジでビックリでしたよ、曲がり角でドーンって。もう痛いって言うか熱くて、あ、こう言うの大丈夫ですか?」
「はい、今は痛みは大丈夫なんですか?」
「何とか、ちょっと痛いんですけど、痛くないと無茶しちゃうんで」
《踏ん張って傷口開くとかもう、ひひっ》
「あらあら、気を付け、成程、だから少し痛いんですね」
「まぁ、眠る時は眠れる程度にしてくれるんで、かなり楽ですよ」
《マジで相棒に輸血とか有るんだって感じですよね、だからそう組み合わせられてるんすけど》
「成程、素晴らしい案ですね」
《けどコイツ性病になったからなぁ》
「もう今は綺麗な体だもん」
「ふふふふ、モテモテの勲章も付きましたし、完璧ですね」
「確かに」
《コレでモテ始めたら面白いのになぁ》
「祈っておきますね、ウチの夫様の分までモテます様に」
《それ逆に勲章が増えちゃいそう》
「勲章だけ増えるのは困るぅ」
『ヴァイオレット』
「あ、もう良いんですか?」
『あぁ、メイソンの回復は順調だそうだ、退院予定日が決まってね、1週間後だ』
「あ、俺のって、どんな感じですかね?」
『傷口次第だそうだが、早ければ1ヶ月は掛からないらしい』
「あー、長い様な短い様な」
《あ、無理せず動けってさ、ジッとし過ぎると良くないんだって》
「マジかぁ」
『また見舞いに来る、程々に頑張れ』
「ですね、何事も程々が1番ですから」
《性的な意味でも》
『ウムト』
「何かご不満を?」
《いやんぐっ》
「不満じゃなくて、心配だって相談だったんで大丈夫ですよ」
『加減の事だ、後で話そう』
「はい」
『ウムト、お前も早く帰った方が良い、無理をするな』
《はーい》
「では、失礼しますね」
「はい、ありがとうございましたー」
加減の事。
加減って、男性は大きさを自在に操れるんですかね。
なら女性も、何とかならないんでしょうか。
《狭める事は可能だとは聞きますが、もし痛みが有るのでしたら》
「あ、いえ、違うの、そうじゃないの」
お嬢様から、こうしたご相談を受ける日が来るとは。
もう、私も引退でしょうか、流石に乳を出すのは不可能ですし。
《お嬢様、ご相談が御座います》
「うん、はい」
《お子様の事が決まりましたら乳母を、乳の出も千差万別で御座いますので》
「え、もう?」
《既に軽い調査は致してはいますが、本格的にとなれば今からでも遅くは無いかと、健康に問題の無い方を選ばなくてはなりませんから》
「あぁ、そうよね、うん。少し乳母について調べて、考えてみるわ」
《はい。それと、あまりご無理をなさらないで下さいね、性欲を多少は我慢しても死なないんですから》
「ぁあ、うん」
まぁ、乳母を雇っても私が引退する事は無いんですけどね。
『乳母、気が早くは、無いか、確かに選ぶべきだね』
「でも、若い女性を入れるのが、少し不安で。信用していないワケでは無いんですけど、そう、そうした事も有ると聞きますので」
『前世でも?』
「はぃ、すみません。父が手を出してました」
『良いんだよ、そう心配するのも無理は無い、それにジェイソン達も居るからね、考えて然るべきだよ』
幸福な人生を送った転生者は、そう来ないのだろうか。
コチラと流れが随分と違うそうで、今頃町中は糞尿にまみれ、臭いが漂い続けているらしい。
そして病が流行り、人が大勢亡くなる。
魔女狩りに各国を巻き込んだ戦争、身分差、差別。
どうして王族に高度な教育が必要なのか、それは転移転生者の話を理解する為のモノでも有るのだ、と。
確かに、いきなり僕がヴァイオレットの話を聞いても、先ずは疑っただろう。
そうした見極めも含め、王族が。
「あの、それでも乳母は必要なので、勉強してから、また考えようかと」
『そうだね』
「今日は、では、コレで」
『一緒に眠るのは難しいかな?』
「お、落ち着かないので」
『なら慣れて、今日は何もしないから』
「本当ですか?」
『うん。さ、はい、おいで』
「はぃ」
『おやすみヴァイオレット』
今日は、ね。
「今日は、って屁理屈ですからね?」
早く寝たので、使用人が起きる頃に私も夫様も起き。
こう、そのまま。
『ヴァイオレット、休みの日は怠惰に過ごさないと魔王におヘソを取られちゃうよ、おいで』
「ぅう」
『もう嫌になったのかな?』
「いえ、けど不安なんです、何か変じゃないか、ご満足頂けてるのかと」
『満足してるけど足りないから、何回もするんだよ?』
「寧ろご満足頂けないので回数が多いのでは?」
『何と比べてるのかな?』
「尿意」
『ふふっ、違うよ、全然別物だから大丈夫』
「出る場所が同じでは?」
『まぁ、でも全く違うからね、満たされない事は。うん、美味しくてずっと食べていたい、食べていられる状態に近いね』
分かるんですけど、私とは全然違って。
「あの、誤解なさらないで頂きたいんですが。私は、直ぐにお腹いっぱいに、直ぐに満たされてしまう感じなのですが」
『女性の場合は、何故だか食欲が若干満たされるらしいね』
「あぁ、そうなんですね」
『本当に嫌なら、無理ならいつでも言っておくれね、その時はきちんと止めるから』
嫌じゃないんです、全然。
でも前世の記憶が邪魔して。
「メアリー」
《はい、とうとう離縁ですか?》
「違うの、はしたない事の相談なの」
《どうぞ、ご遠慮なさらないで下さい》
普通、他の貴族令嬢であれば情報交換をなさって多少は知ってらっしゃる事も、お嬢様は知らない事が多い。
その分は私が補えば良いのですが。
「何回もと求める事って、本当に、はしたなくないの?」
《ご当主様は何と?》
「嬉しい、とか、はしたなくないからもっと言って欲しいって。けど、前の記憶が邪魔していて、父が罵ってたの、何回も求めた淫売がって」
《回数に応じられず恥だと思ったのでしょう、と言うか下手な事に薄々気付きながらの逆ギレ、ですね》
「やっぱり上手い下手が有るのね」
《そこは乗馬と同じで御座いますよ、天才以外は普通は練習致します、回数をこなしてこそですよ》
「でも何事にもコツが有るじゃない?それから基礎とかも」
《ココは1つ、お茶会を》
「お茶会で、他の方から知れるの?」
《そこは女王陛下とのお茶会です、もしかすれば秘儀を教えて下さるかも知れませよ》
「流石メアリーね」
王宮には叡智の結晶の塊、知恵の宝石箱が有ると聞いておりますし。
女王陛下もプロと言えばプロなのですから、若人にご助言の1つ位はして下さるでしょう。
「コツ、ですか」
「はい、無知でして、何かご助言を頂ければ、と」
あぁ、あの侍女の入れ知恵ですか。
いやまぁ、この位なら良いんですが。
いや、確かにコレは問題となる。
こうした問題の正解を、どう広めるべきか。
「では交換条件です、知恵を授けますから、そうした知恵を広める方法を出しなさい」
字だけでは難しいだろう、下手な挿し絵は誤解を招く、しかも違う目的で広まっても困る。
ならば。
「あの、見世物小屋はご存知ですか?」
成程、劇と言うか舞台で見せる、成程。
「聞いた事が有る気がしますが、調べさせますから詳しく」
「はい、基本的には各地を巡業してらっしゃって……」
最高位とは叡智の結晶の管理者でもある。
時に転移転生者の知識を集め管理し、状況を見定め適切な時に適切な情報を流し、時に悪しき知恵者を消す役目も負っている。
どうにか役割を分担したいけれど、まだまだ先かね。
いや、何処かでは秘密結社なる集団が関わっていると聞くし。
あぁ、この子にさせてみるかね。
全く、良い手駒だよ本当に。
「成程、そうか、なら先ずはお茶会を催し情報を得なさい。あぁ、コツはだな、何が良いかしっかり聞き出し実行する事だよ」
「はい、ありがとうございます」
容姿が美しい者より、私はこうした善人が増えてくれた方が助かるんだけどねぇ。
 




