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どうやら私は騎士爵夫人らしい。  作者: 中谷 獏天
誰が彼女を殺そうとしたのか。
14/22

14 どうやら結果は良いらしい。

『では課題の結果ですが、王族レベルですので王家に使える事を推奨させて頂きます』

「おう、妥当だな」


 次期筆頭執事はジェイソンとなり、私とお嬢様と旦那様。

 それからセバスチャン様とジェイソンだけが、この結果を聞く事に。


「お父様、何か、手を回したワケでは?」

「無い、誰の為にもならんから何もしてはいない」

『そしてこの結果が残り、公表される事も避ける為、口頭なのですよ』


「ぁあ、でも、彼らの事は」

『この家の事ですし、全てを表に出し悪しき見本とするのは愚策です、協力は致しますが率先して吊し上げる気は毛頭御座いません。アールバート家当主にお任せ致しますよ』

『ヴァイオレットを王宮務めには出したく無い』

「お、反逆罪か国家転覆罪か」


「そ、お父様、夫様は」

『ヴァイオレット、君が賢いのは既に僕も認めているんだ。けれども、囲ったままにさせて欲しいんだ、暫くは』


「あ、ほら、私の為なんです、まだまだ表に出すにはお肉も足りませんし」


「我が娘ながら無垢が過ぎるぞメアリー、どうしてくれる」

《このまま仕立て屋になる事をお許しになっては頂けませんかね、直ぐに嫁の貰い手が付くは》

『それが、嫌なんです、僕だけの可愛いヴァイオレットで居て欲しい、他に知られ奪われたく無い』


 お嬢様が困惑してらっしゃる。

 ですよね、高位貴族として当主として、殺処分まで考えていた者と同一人物とは思えませんし。


『ヴァイオレット様、簡単に申し上げるとセバスチャン様が抱えておられるのは嫉妬、ですね。そして次期筆頭執事も、嫉妬からの愚行かと』


「えっ?彼は、男性ですよね?」

《同性を愛する者かと、全く表に出さなかったのは素晴らしかったんですが、偽装の為なのか侍女に手を出し事に関わらせたのが敗因ですね》


「あぁ、お菓子だけならバレ無かったって事ですよね?」

「いや、お前を見る目だ、アレはもう激しい嫉妬心が現れていた」


 私や旦那様は分かりましたが、セバスチャン様やメイソン、ココの家人には分からなかった。

 身内だからこそ、身近で、仲間だからこそ。


 そして妻として認めない、とする意志で統一されている、と勘違いもしていた。

 耄碌していたにしても、メイソンが操られていた、とも言えますね。


《待っていればいずれは愛想を尽かしたかも知れない、ですがご当主様がお嬢様に心を寄せていると気付いてしまった、ですから犯行に及んだのでしょう》


「筆頭執事の耄碌さも相まって、焦ったのだろう、メイソンが籠絡されては流石に敵わんだろうしな」

『本当に、すまなかった』

「いえ、私が愚かだったので」


「だが変わった、暫くは家を出なさい、ウチのタウンハウスで静養をさせろ。早急に、ココで内々に片を付けろ」

『名案ですね、私も同行します、ガンガン増やしましょうねヴァイオレット様』

《そうしたいのですが、どうでしょうか、ご当主様》


『はい、ありがとうございます、宜しくお願い致します』


 快く送り出して頂けるのは良いんですが。

 良く見て下さい、お嬢様の事を。


 あぁ、見れませんよね、殺そうと思ったと宣言してしまったのですから。




「凄い、可愛らしいお家ですね」

「辺境伯の家はこんなもんだ、そう居ないし使わんしな」

《ですが、まぁ、清掃はなされていますね》


 2階建て家に、小さなお庭付き。

 1階には応接室と台所等の水回り、そして2階には寝室が4つ、こじんまりとしたお家。


「2週に1回は清掃が入って、今回は俺が来るからと清掃させたが、まぁ早くに終わったんで戻る」

「えっ、もうお帰りに?」


「敢えて事を小さく見せる為も有る、俺が泊まったとなれば、お前達の不仲や問題が有るのかと探られ兼ねんしな」


「すみません、ご説明させてしまって」


 やっぱり私は至らない。


「いや、気を落とすなヴァイオレット、俺が新しい男を直ぐに見付けてやる」

「お父様、いえ、今までご苦労をお掛けしてしまったので、コレ以上は」


「ヴァイオレット、何事も経験、経験に勝るモノは無い。お前は得難いモノを得だのだ、自信を持て」

「でもマリア様は私の様な経験をなさらず理解に至れてらっしゃる筈ですよね、私はやはり、王族にお仕えする方の足元にも及びません。至らぬ私より、セバスチャン様はマリア様の様な賢い方と添い遂げられた方が、良いと、思います」


「離縁となれば私がそうした者も紹介してやるから心配するな、お前は仕立て屋の事だけを考えていれば良い」

「あ、刺繍を、お父様へ、お母様と対になる刺繍、なのですが、もしかして、ご迷惑に」

《この顔はお喜びになっている顔なので大丈夫ですよ》


「本当、ですか?私、また、何か」

「いや、有り難く受け取らせて貰う」

《旦那様もお疲れでしょう、移動も有りましたから》


「あぁ、そうだな、少し休憩させて貰う」

《少しお嬢様はお待ち下さい、直ぐに戻りますから》




 全く、補佐する身になって頂きたい。


「ぅう、メアリー、俺は」

《勘弁して下さい、さっさと気を静めて早急に応接室へ、私はお嬢様のメアリーなのですから》


「あぁ、すまん」


 全ては仕方無い事。

 こうして情愛が有る、とお嬢様に認めては貰えないかも知れない、そう旦那様は半ば諦めていた。


 だからこそ仕方が無い、とは思います、が。


《お嬢様、お待たせしました》

「メアリー、私、やっぱりまた余計な事を」


《いえ、アレは本当に喜んでらっしゃる顔なのです、残念ながら》


「でも、物凄い眉間の皺と、歪んだ顔が」

《セバスチャン様と違って強面とされる分類なのです、アレで破顔なのですよ》


「ごめんなさい、私、やっぱり、顔を見るのが怖くて」

《当たり前です、ただでさえ旦那様はあの顔ですし、前世では本格的にお父様に虐げられてらっしゃったんですから。無理も御座いません、仕方の無い事、ですが私を信じて下さい、アレは喜んでいる顔なのです》


「ぅうん」

《想像してみて下さい、あのジェイソンが歯を見せて笑う顔を想像出来ますか?》


「そんな顔を?」

《しませんし見た事も有りませんが、お願いしてみましょうか、きっと変な顔になる筈ですよ》


「ぅうん」

《じゃあ今度、お願いしてみましょう》


「ぅうん」

《それとも旦那様の顔を見慣れてみますか?》


「本当に破顔なの?」

《残念ながら、本当なのです》




 ヴァイオレットの課題を終えた日から、2日後。

 メアリー達の予測通りの供述書が、僕の手元に来た。


 そして先ずは元次期筆頭執事、スティーブンに会う事に。


《申し訳御座いませんでした》

『1つ、君の好意に気付けなかった。2つ目、僕が僕自身の好意に気付け無かった。そしてメイソンの老いや焦り、僕の言葉が足りなかった事も起因の1つ。君だけが悪いワケでは無い、だが圧倒的に悪いのは君だ、けれど自体が好転したのも君の悪しき行いが有ってこそ。それらを鑑み、先ずは君の意見を聞こうと思う、どうしたい』


《お傍で仕える事を最善としてきました。ですが行いを鑑み、僕はご当主様の傍に居るべきでは無い、ヴァイオレット様の傍に居るべきでは無いと、考えております》


 こうなってみると、状態は簡単に見分けが付いた筈だった。

 ヴァイオレットを僕の妻と認めていない者は、決して奥様、とは言わなかったのだから。


『ヴァイオレットを、まだ僕の妻とは認められないんだな』

《いえ、いえ、すみません、奥様と言うべきでした、最初から》


『僕やヴァイオレットの近くに居ては苦痛を感じるか』

《はい。僕の愚行を常に眼前に突き付けられ続けますし、僕の嫉妬心は、未だに燃え尽きる事が無いので》


『なら、だからこそ分かって欲しかった、僕がヴァイオレットを好いている事を』


《もっと素晴らしい女性をと、せめてそうした女性をと、僕の私利私欲です》


『父の家に戻り、もう2度と関わらないでくれ』


《はい、畏まりました》


 そして、メイソンは。




《やはり、引退させては頂けませんか》

『ヴァイオレットと僕の意向だ、そして父上からも。引退させ本当に耄碌されても困る、精々使い倒されろ、それが当家への償いに相応しい。と』


《ご信頼を頂きながら、大変、申し訳御座いませんでした》

『あぁ、分かったなら部屋に戻れ、次の筆頭執事への教育が待っている』


《はい、畏まりました》


 下には下が、そして上には上がいらっしゃる。

 私は知ってはいても、理解には到底及んではいなかった。


 あの保養所は極論とも言えますが、確かに存在する事実、愚か者の極致とも言えましょう。


 ですが決して浮世離れした遠い存在では無い。


 隠居した筈の幼馴染が、あの保養所に居たのです。

 穏やかで優しかった面影は無く、顔を真っ赤にし怒り狂っていた。


 具合が悪く療養していると聞く前から、実は不穏な噂を耳にしておりました。

 引退をし暫くして、病的なまでに耄碌し始めたと。


 以前に会いに行った時にはしっかりしており、噂は所詮噂だ、と。


 ですが入所の理由は暴力、孫娘が盗みに入ったと、あの可愛がっていた孫娘を殴り。

 そしてお坊ちゃまが介入し、医師へ、そして保養所へ。


 お坊ちゃまは知ってらっしゃった、私の幼馴染の果てを、老いの果てを。


 願わくば、どうか、愚か者になる前に天命終えさせて下さい。

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