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どうやら私は騎士爵夫人らしい。  作者: 中谷 獏天
誰が彼女を殺そうとしたのか。
13/22

13 どうやら答えが聞けるらしい。

『では、再開しますが。答えは出ましたか、次期筆頭執事』


《いえ》


『お前がヴァイオレットを害したんだな、何故なんだ』


 お坊ちゃまが指摘したと同時に、私も気付いてしまいました。

 気付いてしまった、それが1番、抱いてはいけない感想だと言うのに。


《いえ、どうして僕が》

『僕も殺すべきかどうか悩んだ、次期筆頭執事の君もそう思って当然の筈。何故なら、メイソンがそう教育したのだから』

《私の不手際で御座います、申し訳御座いません》


 ぁあ、ヴァイオレット様の御父上はご存知でらっしゃったのですね、そして侍女のメアリーがとっくの昔に探り当てていた。


 我々は見下した者に、今、見下される。


《そう考えた時期も有りましたが、僕は直接》

『間接的に何かをしたんだな、本当にこんな古典的な手法に引っ掛かるとは。本当に、お前が犯人なのだな』


《そんな、言い掛かりです》

《残念ですけど証拠が有るんです、この包みに入ったお菓子を用意させたのはアナタですよね》


《全く、何の事か》

《焼却処分なさったから、コレは偽物だ。そうお考えでしょうが、そこが間違っているのです、私がすり替えておいた物を燃やされただけなのですから》


『メアリー、中身は』

《はい、意識を酩酊させるハーブ等が入っております。単独で摂取した場合は何も起こりませんが、あ、その当時に出されたハーブティーの出涸らしはコチラです。ココで入手経路等をバラしても良いのですが、他の者に真似をされては困るかと》


『確かに、僕は愚かだったヴァイオレットへ時に殺意を抱いた、けれど何もしなかったのは笑顔が好きだったからだ。元婚約者も見せた事が無い様な屈託の無い笑顔、本当に幸せそうに笑う顔を見る事が好きだった。無意識に、無自覚に、好いている事すらも無視した。愚かなヴァイオレットを好ましいと思うべきでは無いと思っていたからこそ、なのに、だからこそどう対応するか答えを出せずにいた。だが状況は変わった、愚かさと屈託の無い笑顔が同時に失われ、僕が爵位を繋げる意志も、失われた』


《お坊ちゃま、申し訳御座いません、全ては私の》

《メイソンさんは何も間違ってはいません、僕もです、害が大きいとなれば》

《マリア樣、利が大きくなったと認めるべき時に認められない時点で、貴族としても失格かと》

『そうですね、判断する者としては不適格です。状況は日々刻刻と変わる、その事に適応出来無い時点で判断する者、裁定者としては失格ですが。どうやら私利私欲も絡んでいそうですね、次期筆頭執事』


《僕は》

「いや、待て、ココから先は無関係な使用人には下がって貰おうか」


 愚か者とは何か。

 改めて見せ付けられる事になるのは、この少し後の事でした。




『おや、どうして貴女は下がらないんですかね』


《わ、私が、ハーブティーを用意しました》

『マリー、どうしてなんだ』


 アールバート家に同時にココまで愚か者が揃うとは、ある意味不運だとしか言えない。

 が。


『成程、老齢の女性も抱けるとは忠誠心だけ、の成せる技でしょうかね』

《僕はセバスチャン様とこの家を第1に考えているだけです、邪推しないで頂きたい》

《夫が亡くなり、月の物も上がり、解放され楽になった。と仰っていたんですけど、あぁ、性欲までは無くなったとは仰って無いですもんね》

《違うんです、決して、ヴァイオレット樣にお怪我をさせるつもりは無かったのです、ただ落ち着いて頂ける様にと》

「ほう、知らなかった、か。組み合わせ次第では意識を飛ばす事になる、とは」


《はい、誓って私は、決して》

「だが落ち着く、とは何だ、どの様になると思っていたんだ」


《穏やかに、動き回らず、騒がず》

「その果ては意識を失う可能性が有る、とは本当に知らず、思い至る事が無かった、と言うんだな」


《そこまでに、至ると、その時は、思いませんでした》

「では落ち着く、の果ては意識を失う事も有る、と分かってはいたんだな」


《思い至らず、申し訳、御座いません》

『では下がらせた方が宜しいかと、後で改めて事情を記録させて頂きますので』

『下がり全てを書き記してくれ、マリー』


《はい、申し訳ご》

『下がってくれ、マリー』


《はい》


 この為にもカサノヴァ家のマリアを呼んだのだが、その事にはまだ気付かないか。

 若いのは。


「ではお前、一時的にか、永久にか」


 次期筆頭執事よ、コレ以上、白を切るとなれば当主への不義理となるんだが。

 理解してくれているだろうか。


《一時的に、です》

『どうして僕を飛び越し、そうか、そんなに信頼出来無かったか』

《いえ、決してその様な事は》

《そうですかねメイソン、当主様を飛び越して決断を下すのはアナタの伝統なのでは?》




 一瞬、何の事なのか僕は分からなかった。

 ただメイソンの顔を見た瞬間。


『お前がヴァイオレットに』

《他の者は従順で御座います、だからこそ、私が》

「そこが分からんな、当主の意を汲み先行する事は許されている、だが勝手に考え勝手に決める事は許されてはいない筈だ。何故だ、どうして暴走とも言える行為を行った」


『メイソン』


《今となっては、後悔しております。老いの焦り、体力の衰え、それらを無視し、ただお守りしようと》

《僕も、外見は勿論ですが、物珍しさや純真無垢さに惹かれたとしても。それら全てが偽りの可能性が有る、果てはコチラを操ろうとする為かも知れない、ならば切り離すべきだと》

「そこだ、明らかに勘違いしている。主の間違いは正すべき、だが間違いでは無い道でも零落する事は有る、その時にこそ主に忠実であるべき。だが所詮、お前らは己が身の可愛さから保身に走ったとしか思えんが。どう思う、カサノヴァ家のマリアよ」


『そうですね、労を惜しみ、理解の為の時間を惜しんだ。どう見ても家臣の保身、怠慢ですね』


《アナタは、当時のヴァイオレット様を見てらっしゃらないから》

『いえ、小さい頃を知ってますよ。全て、とは言えませんが、彼女の様な者を専門に扱う者の1人です。それにまだ勘違いが有りますね、愚かさや賢さを、しっかりと線引きをするのに必要な情報が足りないのかも知れません。馬車の用意をお願いしますね、メアリー』

《はい》




 私と旦那様がお嬢様へと態度を変えたのは、この場所を知ってから。


『私の仕事場です、どうぞ』


 王都の外に存在する保養所。

 王都の中は勿論、田舎でも手に余る者がココに集められている。


 治療と、研究の為に。


『近くに、こんな場所が』

『知れる者は僅かです。ですが彼らの考えは、その弊害かも知れませね、最底辺を知らぬ弊害』


 延々と中空を見つめる者、ニコニコと本を読む者、独り言を呟きながら絵を描き続ける者。

 聖なる書物の中身を暗唱し続ける者、我々に怯え隠れる者、お嬢様以上に痩せ細り縛り上げられている者。


『彼女は』

『拒食症と呼ばれる病気です、食べ物を摂取する事を拒む、生きる事を無意識に拒む病気です』


『ヴァイオレット』


「はい、メアリーに教えて貰いました。でも私は生きたいし、容貌に不満は無いので」

『時に美しさを極めようとする者もなるそうで、心を救えないと体も救えない事も有るのです。だからこそ心を大切にしなければならない、他人の愚かな娘だからと言って、たかが執事が殺す事も虐げる事も許されてはならないんですよ』


「あぁ、そんな事は私刑だ、私刑がまかり通ればどうなると思うメイソン」


《申し訳ご》

「どうなると思うか聞いているんだ、筆頭執事」


《果ては、領民、国民に混乱を招きます》

「だからこその当主、最高位の決定が必要となる。飛び越すのは構わない、方向が同じで有れば先んじる事も、だがお前達は主の考えの真反対へと向かった。教えて欲しい、執事として中立的だったか、私の娘の気持ちになり考えた事は有るのか」


《なりきれては、考えきれては、おりませんでした》

《ですよねメイソン、それに次期筆頭執事、アナタはどうですか?》

《こんなの、極端で》

『ではお伺い致しますが、先程の質問にアナタは答えられませんでしたね、アレ王族レベルなんです。語らぬ、語られぬ者の意を汲めるべきなんですよ、王族は。アナタ達はヴァイオレット様と語らいましたか?ココに居る彼らと語らいましたか?』


《いえ》

『では彼らの気持ちが分からないのも無理は無い、ですが、慮る事は可能ですよね。彼らがどう思っているか、分かりますか?』


《いえ》

『彼らの様な者との語らいも、こうなった経験も無い、けれども理解とは経験が無くても行えるべき事ですよね』


《はい、ですが》

『果ては極論になるのですよ、そして本当に果てに至ると、極論とは言えなくなる』

《少なくともお嬢様はココの事は知りませんでした、そしてマリア様とお会いした事も、覚えてらっしゃいませんね》


「すみません、お世話になったようで」

《そんなの、口裏を》

『ではどうしたら信じますか?根拠は?論拠は?アナタ方は悪しき部分しか見ようとはしなかった、もし違うと仰るなら、どう証明なさるんですかね』


《それは僕の忠誠し》


 証拠が何も無い場合、信じるか信じないかなのですが。

 やっと、分かって頂けたのか、どうか。


「おい、忠誠心が何だ?」

《僕は御主人様を》

『では本心ではヴァイオレット様を害す気は無かった、ただ主人の意志を先行しただけで、本来ならセバスチャン様はヴァイオレット様を殺す気だった、と』


 それを認めてしまうと、セバスチャン様を窮地に陥れる事になってしまうんですが。


《僕は》




 確かに僕の考えを先行はしてくれた。

 ただ、それは間違いだ、僕を正すべきだった。


『スティーブン』

《あぁ、私刑賛成派ですか。流石、新興一神教団が土地を占めていたスペイン出身の者に教育されただけは有りますね、魔女狩りそのもの》


《そんなつもりは、無いんです、無かったんです》

《ですが我々は良い部分を見ず、独断専行をし、ヴァイオレット様を害してしまった。もし我々のお坊ちゃまがこの様な扱いを受けたら、私は》


《セバスチャン様は愚かでは》

「当主の俺より愚かなら殺そうとも何をしようと良いのだな、お前らの理屈に従うなら、お前らは喜んで受け入れるべきだな」


《そんな》

「高位貴族なら良いのだろ、愚か者をどんな目に遭わせても」


《いえ》

《私も私の教育も間違っておりました、どうか》

「老人に頭を下げさせる趣味は無い、2度と俺にするな」


『申し訳御座いません、僕が』

『愚か者か賢い者か、未だに私達専門家でも決めるのは難しいんです、何故なら賢いとされる位置も愚か者とする位置も常に変わるからです。以前のヴァイオレット様は今では愚か者扱いですが、何代か前なら問題にはなってはいないんですよ。そして今でも、地方には偶にいらっしゃいますよ、そして可愛がられてもいます』


「マリア様」

『本当ですよ。当主を害する知恵も知識も無い、そうした悪意も無ければ過度の浪費を迫る事も無く、直ぐに使用人を信頼する。便利なんですよ、屋敷の仕事に関わらせないと言う事は、例え離縁しても家の情報が漏れずに済みますから。だからこそ、私にしてみればアナタ達は欲張りに見える、そして王族にしてみても同じ事。完璧な女性が居るとするなら、先ずは、国に献上すべきでは?』


「強欲で私利私欲に走り私刑まで、お前らのせいで家は潰れるな」

《決してその様な事は》

『いや事実だけを見れば妥当だ、感情とは幾らでも偽れる、それに自分でも気が付かない事も。全てを書け、そして他人が書いた物として読み返してみれば良い。何を間違ったか、どう間違っているか、お前達なら分かる筈だ』


『では、ご当主様の判断はソレとして、ヴァイオレット様はどう思いますか?』


「愚かな願いだとは思いますが、どうか彼らを牢に入れないで貰えないでしょうか、私も夫様も困ります」


『ヴァイオレット』

『では、戻りましょうか』

「あぁ、そうだな」

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