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どうやら私は騎士爵夫人らしい。  作者: 中谷 獏天
誰が彼女を殺そうとしたのか。
11/22

11 どうやら取り調べるらしい。

《お坊ちゃま、明後日にはヴァイオレット様のお父様がいらっしゃいます》


 明後日には、ヴァイオレットに課題をこなして貰う事になる。


 だからこそ、いや、コレは僕の逃げだ。

 彼女に嘘を言わせたく無い、揺らがせたく無い、揺らいだ表情が見たく無いからと。


 本館から別棟を眺めるだけで、顔を合わせないまま、今日まで過ごしてしまった。


『少しは寂しがってくれると、無理な事を考えたんだ』


 全く、特に変化は無かった。

 向こうから訪ねて来る事も、何も。


《お坊ちゃま、そんな事はありませんよ、ヴァイオレット様は確かに、寂しがってらっしゃいましたよ》

『今更気遣いは無用だ、課題次第で僕は彼女を手放さなければならないんだから、もう良いんだメイソン』


 課題の製作は学園に関わる貴族、カサノヴァ家に相談し、製作して貰った。

 高位貴族が知り理解しているべき問題、事柄を用意して貰い、口頭での回答の審査もカサノヴァ家に任せた。


《お坊ちゃま、信じぬ愚か者の私の言葉を信じて下さら》

『いや、君を信じているよ。僕が直ぐにでも爵位を捨てる心配をしているんだろう。それは無用だ、少し考えた程度で実行に移す気は無い』


 今は。

 後任さえ探し出し養子縁組をし、僕が後見人になれば、この家は回る。


 補佐をしながらヴァイオレットと暮らす、実子か養子かの差、その程度は誤差の範囲内。

 警備隊の仕事も、僕が教育係になれば良いだけ、貴族位に見合った場所へ落ち着くだけ。


《それ程までに、私は追い詰めてしまったのですね》

『いや、君は正しいよメイソン。君は正しい、流石、アールバート家の筆頭執事。コレは嫌味でも何でも無いよ、本心だ、心から尊敬しているよ』


 僕の執事では無い、メイソンはアールバート家の執事。

 アールバート家を第1に考えて当然、そして僕も、アールバート家を第1に考えて結論を出した。


 どうなろうともヴァイオレットの傍に居る、何をしても。


《お坊ちゃま》

『少し他の者と話をしたい、マリーを呼んでくれるか』


《はい、畏まりました》




 そうしてお坊ちゃまは、古くから仕えるメイドのマリーとお話をする事に。


《どうしたんですか、改まってお話だなんて》


『どう思う』

《何がです?》


『この家について、何か有れば言って貰いたいと思ったんだ』

《まぁ、肖像画はいっそ焼いてしまわれた方が良かったかと。私は嫌ですよ、ちょっと書き換えてお前だぞ、だなんて》


『あぁ、その件はすまない、本当に存在を忘れていたんだ』

《ですよねぇ、ヴァイオレット様の事前調査を始めてからはお部屋に入りませんでしたし》


『あの部屋の鍵はどうなっている?』

《以前と同じでメイソンさんが管理してますけど、別に不自由は無いので問題無いですよ》


『ヴァイオレットには入らせたか?』

《えっ、いえ、とんでもない。私だったら見たく無いですし、お見せしてませんよ、あの部屋を掃除する時は鍵を掛けてますのでご心配無く》


 申し訳御座いませんお坊ちゃま、見せたのは私で御座います。


『そうか、すまなかった、ありがとう』

《いえいえ》


『明日は早い、もう休んでくれ』

《はい、では、失礼致します》


 長年ココで努めている、半ば身内を疑うのは何よりお辛いと思います。

 ですが、元は私の。


『メイソン、スティーブンを呼んでくれ』

《はい、畏まりました》


 次期筆頭執事のスティーブンを呼んだのですが、私は閉め出されてしまう事に。

 私も、実は信用頂けていないのでしょうか。




『どう思う、スティーブン』


 身内を疑いたくは無い。

 けれどもヴァイオレットを手放さない為には。


《どの、事でしょうか》

『思い当たる節が有る事全てだ』


《肖像画は、やはり燃やすか送り返すべきだったかと》


 ヴァイオレットの事を直接訊ねるのでは無く、今回は敢えて肖像画について、と聞き出しているんだが。

 こうも自分の愚かさを見せ付けられると、逆に僕こそが、ヴァイオレットに相応しくないのかも知れないと。


 だが、なら相応しくなれば良いだけ。


『あぁ、そうだな。ヴァイオレットに見せたか?』


《いえ、掃除の際は鍵を掛ける様に言っています、別棟へ行かれてからも同じ様に指導し確認もしています》


『そうか』

《それと、既に御主人様は知ってらっしゃるとは思いますが、コチラの本を改めて読んで頂くべきかと》


 部下とも話していた、無能令嬢の本。

 しかも発禁後に改定され、ただただ無能な令嬢が離縁され修道院送りとなる、が。


『以前程は売れずに人気も無いそうだな、既に知っている、中身も覚えている』

《僕はこうした事を懸念しています、悪い方だとは思いませんが、お変わりになった事も全てが作戦かも知れないと考えています》


『そうする意味をどう考える』

《真に賢いお方なら、変わられた時点で御主人様をお支えして当然、ですが贈られたハンカチがそれでは。もう少しお心を寄せて下さる方を再度選ばれるべきかと、全くお気持ちの無い方も不適格で有ると考えています》


 関心を寄せ過ぎて政務や家の事が疎かになるのも、無関心さから家が傾くのも良く有る事。

 だからこそ心が欲しいワケでは無いんだが。


『あぁ、そうだな』

《家の事、僕ら使用人の事も考えて下さっているとは思いますが、どうか賢明な判断をして頂けますようお願い致します》


『そこまで不満か、ヴァイオレットが』

《いえ、今のヴァイオレット様に不満が有るとすれば。お体も弱い事と、御主人様にお心をお寄せにならない事です、どなた様も御主人様にお心を惹かれて当然の筈が。他の方に関心が有るのではと、そこだけが心配で御座います》


『そう疑う理由が有るのだろうな』

《侍女のメアリーが頻繫に手紙を出していますので、もしかすれば御実家を経由し、意中の方とやり取りをしているのではと。この本の改訂前に、そうした記載が有りましたので》


『体が弱っているからこそ』

《であれば本来なら御主人様を頼るべきかと、それに御実家を頼るのはこの家を蔑ろにするも同義なのは常識です、頼りないと示されては僕やメイソンさんが嫌に思っても。使用人がそう気に病んでも仕方が無いと、どうかご理解下さい、僕はこの家の方々全てが尊ばれるべきだと思っているんです》


『事情が有るんだ、理解してくれ』

《メイソンさんは理解したと言ってらっしゃしますが、僕は心配なんです、良くして下さっているからこそ心配なんです。心配故に、メイソンさんに行き過ぎた行為が有ったとしても、どうか許して差し上げて下さい》


『分かった、下がってくれ』


《はい、失礼致します》




 長くも感じたお坊ちゃまとスティーブンとの会話でしたが。

 一体、何を話してらっしゃったのか、全く私には見当も。


《メイソンさん、僕、余計な事を言ってしまったかも知れません。だって、どうしても心配で》

《私もでした、ですが、いえ、今日はもう休んで下さい》


《はい、分かりました、失礼致します》


 彼は若い。

 先代当主様が見付け迎え入れた高位貴族の三男、既に長男様が当主候補になっており、殆どウチで教育した子。


 吞み込みが早く優秀、私にとっては孫も同然なのですが。

 どうやらお坊ちゃまは、容疑者を尋問なさっているらしい。


《失礼致します》

『アンナを呼んでくれ』


《はい、畏まりました》


 そしてメイド長のアンナを呼び、私も同席する事に。


《お坊ちゃま、ココまでの配慮をして頂かなくても結構だと申し上げた筈ですが》

『女性は女性だ、配慮させてくれ』


《誤解も何も無いかと、別棟からココは見えませんし、お坊ちゃまの趣味は一貫しておいでだと皆が知っていますので》

『ヴァイオレットに肖像画を見せたか?』


《いえ、出過ぎた真似をすべきでは無いと理解しておりますので、特に私は関わってすらおりません》


『すまない、不満を聞いてやらなかった』

《いえ、お坊ちゃまを見ていれば何となくは分かりましたので、問題御座いません》


『僕は、そんなに分かり易かったか』


《まぁ、見知った者しか居ない家の中ですから、仕方が無い事かと》


『どう、思う』

《女としては有り得ないですね》


『肖像画の事か』

《はい、そこは好みの問題ですので、奥様が良いと仰るなら気にしなければ宜しいかとは思いますが。はい、有り得ないです、ですが処分しろとも提案しなかったのは過保護過ぎたとも思います。思うだけは自由ですから、私も判断に迷った事は確かです、以前の奥様は気にしないだろうとも思っていましたので放置していました》


『誤解しないで欲しいんだが、焼くか書き換えかの提案は僕からだ、ヴァイオレットは何も言わなかった』


《もし見られてしまったのだとしたら、出入りの時かと、ドアを開けた際に廊下の角から見えてしまいますから》


『あぁ、そうか、確かにな』

《そうした犯人探しも結構ですが、家の事をお考え下さい、その次に奥様の事。それが当主の役目です、どうかご理解下さい》


『あぁ、分かっている』


《コレ、お借りしても?》

『あぁ、気になるか』


《いえ、以前のを私室に置いているので、読み比べてみようかと》


『意外だな、そうした物を読むのか』

《恋愛物は大好物ですので須らく読ませて頂いておりますが、内密にお願い致します、メイド長の品位に関わりますので》


『あぁ、分かった』


《後は何か》

『いや、休んでくれ』


《はい、では》


 そして執事補佐のジェイソンを呼ぶと、再び私は部屋の外へと。

 意外でした、あのメイド長が、恋愛物がお好きでらっしゃったとは。




『失礼致します』


 寡黙な執事補佐のジェイソン。

 彼の場合、少し手段を変えなければいけないか。


『もう遅いので率直に聞くが、ヴァイオレットに肖像画を見せたか?』

『いえ』


『そうか、ではこの家に問題が有ると思うなら聞かせて欲しい』


『いえ』

『何も問題が無い、か』


『俺の家はココより下位の貴族位です、推し量れない事も多分にあると思います、なので問題と思うべき事に迷いが有るので。もう少し詳細にご質問して下さると助かります』


 ココまでしっかり話せるのか、驚いた。

 スティーブンと同じく父が預かって来た子だが、そうか。


『確かに僕の質問が悪かった。貴族位に関係無く、個人的な感想も含めて問題だと思う事、若しくは疑問に思う事を聞かせて欲しい』


『混乱をお招きする可能性も検討して頂いての事ですよね』


 地位の違いは大きい。

 無知の知を知り、配慮してくれていたのか。


『あぁ、構わない』

『肖像画は奥様を家に入れると決まった時点で焼くか元婚約者様の家に送るか、そうした相談をして下さるか、メイソンさんが提案すべきだったと思います』


『あぁ、そうだな』

『書き換えでと言われても処分すべきだったかと、それこそ事故で破損したので縁起が悪いからと、俺ならそうして貰いたいと思いました』


『そこは、すまない、確かにその通りだ』

『お好きなのは分かりますが愚直さは時に相手を傷付けるかと、俺もそう注意されてきたので。それとは違い何かお考えが有っての事なら、すみません、俺には全く分かりません』


『あぁ、そうだな、僕もだ』


『ご当主様でも愚直さが出てしまうんですか』

『好きだかこそ、らしい』


『なら頂いたハンカチは外に出さない方が良いかと、嬉しいのかも知れませんが、失敗作を見せびらかされたら俺は心が折れます』


『あぁ、すまない、配慮不足だった』


 何処までも僕は、頭に血が上ってどうかしていた。

 全く、ヴァイオレットに配慮を。


『大丈夫ですか?』

『いや、こうも自分が不器用だとは思わず、驚いている』


『それだけお好きなのは分かっていますが』

『そんなに僕から滲み出ていたか?』


『はい、遠くから眺めてらっしゃる時、口角が緩んでらっしゃいましたので』


『それは、前からの』


『はい、お変わりになる前から。相当、あのお顔がお好きなんだなと』

『はぁ、違うんだ、顔はあくまでも切っ掛けなんだ』


『好みは仕方無いかと。それに、下位貴族からしてみれば奥様でも十分だと思ってしまうので、メイソンさんやスティーブンを理解出来ませんが、それもある意味では好みだと思うので、仕方無いかと』


『君は良く見ているんだな、ジェイソン』

『何分下位貴族の出なので、父には良く観察し学べと教えられました。至らない点が御座いましたら、どうかご指導ご鞭撻のほど、宜しくお願い致します』


 軍閥貴族が都落ちし貴族位を落とした家の出だ、と聞いていたが。

 ある意味、僕よりも立派かも知れないな。


『僕も指摘するが、君からも頼みたい』


『本気で仰って頂いているなら、言わせて頂きますが』


『あぁ、こうした時間に頼んだ』

『もう少し贈り物をなさった方が宜しいかと、お変わりになった後はメアリーが全て注文してしまっているので、外部に誤魔化す事は可能ですが。家の者に示す為にも、俺がメアリーに頼みますので、御主人様から品物を渡して差し上げた方が宜しいかと』


 あぁ、僕は僕で直接渡してしまっているから。

 そうか。


『君は、恋愛事に詳しいんだな』

『姉に勉強させられております、図体がデカく声も低いし顔が怖いので、お前は知を駆使しなさいと。定期的に書物などを頂いております』


『その本はどうしているんだ?』

『読み終えたら使用人の共有場に置いております、そして月日が経っても誰も使わない場合は、売りに出しています。書物は場所を取るので、処分しろと姉に仰せつかっています』


 それでメイド長が知っていたのか、例の禁書を。


『そうか』

『奥様に関してですが、述べるべきでしょうか』


『あぁ、構わない』


『以前に少しだけしか関わっておりませんので、俺は全く分かりません』

『だろうな、助かった、下がってくれ』


『はい、失礼致します』


 ココまで率直なジェイソンが害したとは考え難いが。

 スティーブンが害するにしてもメイソンを飛び越して行動するとは思えない、理由が薄弱過ぎる、それに他の手を使う筈。


 しかも2人からの好意は無い様に見える。

 いや、スティーブンからは敬愛を得ている気はするが、それは当主への敬意。


 分からない、全く分からない。


《失礼致します、お坊ちゃま》

『あぁ、どう思うメイソン』


《今までの者が、容疑者、と言う事ですね》

『あぁ、どう思う』


《申し訳御座いませんが、全く、分かりかねます》


『あぁ、僕もだ』

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