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どうやら私は騎士爵夫人らしい。  作者: 中谷 獏天
誰が彼女を殺そうとしたのか。
10/22

10 どうやら嫉妬らしい。

「えっ?」

《そんな、急に辞めるかもって》

『それか僕が死ぬか、その場合の次の候補者を再考すべきだと思っただけだ』


 ウムトまでマジで驚いてるし。


 いや絶対に何か有ったでしょうよ上司様。

 何ですか、何が有ったんですか上司様。


《俺のせいでケンカでもしたんすか?》


 いや君は本当に勇敢だな、度胸の塊、度胸の化身だな。


『いや、だがとうとう執事にも負けた、既にお付きの侍女にも負けているのに』

《ぉお、どんな風に?》


 何で黙りますか上司様。


『コレだ』

「お、刺繍入りハンカチ」

《クソ下手っすね》


 いや下手だけど正直が過ぎるだろ。

 何の花だろ、バラかダリアか。


『籠を差し出されたんだ、練習した物も籠に入れているのを知っていて、ワザと籠の最奥から取った。片や執事のは、意味も込められ、名入りだ、紺色の犬』

「従順さアピールって、どんだけ我が強い執事なんすか」

《執事に認めて貰おうだなんて、健気っすねぇ》


『少し行き違いが有ったが、そこはもう解消したんだが』

《あぁ、自信の無さそうな方ですもんね、お嫁様》

「え、なのに練習用を?」


《量産品を選ばされたから、やけくそですか?》


『少し、頭に血が上って』

「あ、いや、そこは、好みが分からなかったとかで」

《にしても大人げねぇですよ》


『自分でもそう思う』


 刺繍入りのハンカチって、実は難しいんすよね。

 教養が無いと意味が分からない、色の意味も柄の意味も。


 だから定番が出来て、仲には敢えて定番から外して、とか。


《少しは要望を言わないと、無茶ですよ?途方も無い位に組み合わせが有るんですから》


『以前に頼んだ時は、刺繍まみれになると、言われたんだ』


 はい好き確定じゃないですか。

 基本的にはシンボルマークは3つまで、バラと百合と鳩とか定番なんですけど、バラの色を変えたり名前を何色で入れるとかもうね。


 受け取る側にしてみたら半ば暗号文なんですけど、そう言えば俺、アレから受け取ったの柄2つだったわ。


《あぁ、で、辞める事に》

「え?」


『あぁ、方向性を変える事にしたんだ。騎士団を辞めて分家落ち、そして田舎で暮らす』

「いやどんだけ惚れ、にしても度が過ぎますよ?」

《爵位が勿体無いですよ、金を払えば得られるワケでも無いんですし》


『なら金を払えば愛する人の心が得られるのか?』


 そんなムキにならないでも。


「いやぁ、ですけどぉ」

《相手がお金が好きなら、じゃあお嫁様はお金が要らない、掛からない人って事ですよね》

『あぁ、1周回って理想的過ぎる位だ』


 キリって。


《はい惚気けですね、なんだ、ビックリした》

「はぁ、見回りに行きましょう」

『いや、至って僕は真面目なんだが』


「はいはい、見回りながら聞きますから、行きましょう」

《お昼はタダ飯だぁ》


 ビックリしたなぁ、困りますよ本当。

 良いなぁ、俺も惚気たい。




「あ、どうだった?お嫁様」


 言いたいけど、上司様に奢って貰ってるし。

 あ、言って良いんだ。


《お加減が悪いだろうにベールを付けて挨拶に来てくれて、だから性病ケビンが来ても無視しろって言っておいた》

「いや正直、あぁ、それでベールを?」


《あぁ、無いとは思いますけど、もしかして似てるって》


 平民や下位貴族にありがちな失態ですけど、まさか。


『肖像画だ』


 まさかを、マジですか。


《まだ持ってたんですか、キモ》

「こら」

『いや、正直、存在を忘れてたんだ、肖像画の事を』


「あぁ」


 まぁ、大好きって雰囲気出しまくってたし。

 来たら一気に口調まで変わって、優しくなって逆に怖かった。


 なのに、アレ。

 あの自信の無さ、逆に変。


《それ、本当に偶々見ちゃっただけ、なんすかね》


『余計な事は伝えるなと、だが、誰が伝えたかは』

《探ったら少しはお怪我の犯人、分かるんじゃないですかね》

「あー、でも事故かも知れないんですよね?」


『あぁ』


「まぁ、身内を疑いたくないのは分かりますけど」

《このままだと下手をすれば有責で評判だだ下が、そこが狙いですか?》

『いや、そこは望んではいない』


「使用人もそうだとは思いますけど」

《ぶっちゃけ、何処に出しても恥ずかしい方だったんじゃ?》


 俺は男爵でケビンは準男爵で下位、だからこそお茶会が無いのも普通。


 下位はお茶会をする余裕も無いし、、そもそもお茶会は似た貴族位だけで集まる行為、で下位貴族の嫁は教養もそこまで無いのが殆ど。

 なのでお茶会とは言わないで集まる、招待状を用意するのにも金が掛るし手間も、だから品物を用意し合って婦人会と言って集まってる。


 お茶会は同じ貴族位で、だから高位貴族でも下位を招いてくれる事は有っても稀、だけど。

 上司様なら招いてくれてもおかしくないって俺らは思ってたけど、無かったんだよね、実際。


『あぁ』

「あー、偶に地方の方だと甘やかしが酷いって聞きますしね」

《でも名家でしたよね、確か》


「あ、それで、お嫁様の生家に気を遣って、成程」

《えー、そこまで酷くは見えませんでしたけどね?》


「まー、上司様の家の教育が良かったんじゃ?」

《生家が厳し過ぎとか、それこそ当主になるのが嫌で、敢えて無能を装う令嬢や令息も居るそうですしね》


「あー、本で出ましたからね、無能令嬢モノ」

《直ぐに発禁になってましたけどね、混乱を招くからって》


 無能を装った有能令嬢かと思ったのに本当に無能だった、どうしてくれるんだ、と。

 愚か者が大騒ぎして発禁に。


 まぁ、出来が良かったのでウチに5冊は置いてあるけど、そろそろ売ろうかな。


『実際に、有ると思うか?』

「いや難しいと思いますよ?俺なら1回は試しちゃいますもん、じゃないと家計を握らせるワケにはいきませんし」

《ですね、下位ならまだしも高位貴族なら、どうしてもプライドが邪魔をしそうですし。相当の理由が有って、最初から練られた作戦だったら、下手をすれば生家も関わってて見破るのは難しいだろうし。大変ですね、高位貴族って》


 騎士爵は王都の東西南北を任され、上司様は領地が無い代わりに南地区の治安を任されてる。

 そして騎士団は中央、要するに王宮で近衛。


 それ蹴ってココに居るんですよね、上司様。

 都落ちして欲しくないんだけどなぁ、良い方だし。


「あれ、何の話だったっけ?」

《誰がお嫁様を殺そうとしたか?》


 えっ。

 まさか上司様。


 いや、まさかね。


『あぁ、そうだな』

「まさかぁ、疑い過ぎですよ、だって殺したら大問題になるんですし。教育した方が楽だと思いますけどねぇ」

《実際に成功してますからね、お嫁様のご教育》


 所作も完璧だったんですし。

 分からないな、高位貴族の考えも、高位貴族の使用人の考えも。




「やっと、飽きて下さったのかしら」


 セバスチャン様がお嬢様をお尋ねにならなくなり、15日目。

 気取られぬ様に遠くから眺めては、溜息を。


 健康に問題は無いか気にしてらっしゃった際には、特に来客も無いですし大丈夫だろうと申したのですが、要らない情報を入れてくれるなと。


 ご自分の危うさを懸念してらっしゃるのは分かります、ですがもう少しだけ、私達を信じて頂きたいんですが。

 お好きであればこそ、身を引こうとしてらっしゃる。


《課題も製作して頂いてますから、お忙しいのでしょう》

「メアリー、私に期待させないで、全力で諦めさせて、お願い」


《私はセバスチャン様を認めてはいますし、お子様のお世話を楽しみにしているんですが、そんなに嫌ですか?》


「私、初夜で爆睡してしまって、それからは何も無いのよ?」

《ですが、お変わりになってからはスキンシップを頂いているではありませんか》


 今は無いですが、お会いすればもう、ベタベタと。


「あぁ、他でスッキリなさったかも知れないのよね、そうよね」


 生娘ですが知識は有るんです、そこが困る所なのです。

 手酷い失恋までなさっているのです、前世で、そしてある意味では今世でも。


 どうして馬鹿正直に死んで欲しいと思った、等と本人に言いますかね、愚直越えて馬鹿ですよ全く。


《お嬢様、分かりました。ですから今日のお勉強は外でしましょう、程よく陽の光を浴びながら、ご本を読みましょう》


「そうね、せめて課題はこなさないといけないものね、どちらの家の為にも」


 お嬢様は早々に想定していらして、寧ろ、その事を全く問題視してらっしゃらない。

 そこがメイソンにも理解出来ていれば、こうして拗れる事も無かった筈が。


《それか、柔軟です、お体が硬いと直ぐにケガをしてしまうんですから》

「お勉強しますぅ」


 寝込んでしまうと体が硬くなり、またケガをし、また寝込めば硬くなる。

 それらを防ぐ為には、苦痛を感じるギリギリの柔軟運動が必要となる。


《いえいえ、遠慮なさらないで下さい、柔軟にしましょう》

「ふぇえ」


 良い気分転換になるんですよ、柔軟。

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