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第2話

結構ギャグをといいますか、シリアス全開の作品にする予定はないので、悪しからず!

 朝、というには少し遅い時間帯。俺、デニスはフセ爺とともに森の中にいた。昨日は色々とありすぎて、ここがどんな森なのか意識していなかったが、よくよく見てみると途方も無く広いことがよくわかる。というのも、屋敷側から森に向かうと、高低差のおかげで森が一望できるのだが、地平線の彼方まで樹々が生い茂っている。


「何処にフェクティがあるのかは当てがあるんだよな、爺さん?」


「当て、というほどのものでも無いが、アレには特有のツンとするような匂いがあってな……教えていなかったか?」


「覚えていないな」


 実は朝食の時に言われていたような気がするが、俺は朝に弱いがために聞いていなかった。全く、ああまで意識が立ち上がるまでに時間がかかるとは。誤算だった。


「お主、気配に聡いじゃろう? それでわからんのか?」


「薬草といっても所詮は草だろう? 探るのはまず無理だ」


「それもそうか……しかし、お主はどうやってそこまで気配を感じとれるのじゃ? 何か心得があるのか? ああ、いや、そういうのは教えられんというのなら無理には聞かんが。門外不出の武術もないことはないしのう……お主もそのクチか?」


 なるほど、そういった場合もあるのか。だが、俺の場合は当てはまらない……筈だ。


「いや、そういった類いじゃない」


「そうか、じゃあ天才というやつかの」


「だといいがな。怪しいもんだ」


「…………」


 少々無愛想が過ぎたかもしれない。会話が途切れてしまった。だが考えてもみてほしい、記憶が曖昧で自分が何者なのかも不確かな時に、よしんば取り乱さないとしても、他人にまで気が回るだろうか?


 などと、理論武装出来るほどには自分が冷静であることを確認した俺は、より建設的(?)な意見をする。


「そういえば爺さん、川に竜の死骸からの毒がどうのこうのと言っていたが、原因の死骸は確認したのか?」


「いや、おそらく上流の方にあるのじゃろう。もし近くで死んでいたなら、毒が強くて即死じゃろうな。もっとも、川の変色加減で気がつくとは思うがの」


「それで放置していて大丈夫なのか?」


「人里に近いなら可及的速やかに取り除くべきじゃが、ここはそう多くは住んでいないし、件の川も森の比較的奥を流れているから、あまり問題はない。それにスカベンジャー達が食らって今頃は骨だけじゃろうよ」


「そういう奴もいるのか……まあ、当たり前といえば当たり前か。竜に襲われたせいで、森の生物即ち竜のようなイメージがあったんだが、他にも危険な生物はいるのか?」


「むしろここらでは竜の方が稀有じゃ。じゃがな、危険な獣は存外多いぞ。特に多いのはゲネムじゃ」


「ゲネム? 聞いたことはあるな。でもどんなだったかはイマイチ覚えていないな」


「奴らは巨大な狼の仲間じゃな、狼の中でも祖に近い種じゃ。アレは群れで動くからな、出会ったら可能な限り逃げた方が良いな」


「わかった。覚えておくよ」


 そんなことを話しながら森を歩いていると、何処からか清涼感のある心地よい香りがしてきた。おそらく、これがフェクティだろう。


 俺だけで無くフセ爺も気が付いたのだろう、


「む、これは近いのう。よし、さっさと摘んでしまおうかの」


 だがしかし、そこには先客がいたようだ。レンジャーのような格好をした男女二人組が、獣の群れに囲まれている。


「どうする? 加勢するのか、爺さん?」


「少し様子を見てみるかのう……と、アレはゲネムじゃな」


 そう言って爺さんは唾をつけた指をかざして風向きを確かめる。


「デニス、彼らの背後に回るぞ」


「なんでだ? どんな意味が?」


「あやつらはの、風上の陽動と風下の本隊とに別れて獲物を狩るのじゃ」


 ということはつまり、彼らの背後が危険ということか。しかし、彼らも馬鹿ではないようだ。二人で互いの背を庇いあっている。彼らもゲネムの習性を知っているということか。


 そんなことを確認しつつ、俺と爺さんはゲネムの本隊の背後にさらに回り込む。後続のゲネムがいないことは気配を感じないことからして、まず大丈夫だろう。問題は数だ。陽動に5匹、本隊が7匹。いかに悟られずに叩くか、俺は素直に質問する。と、そもそも俺は武器を短剣しか持っていない。やるのは爺さんだ。


「どのタイミングで行くんだ?」


「奴らが獲物に意識を最も集中する瞬間に、群れを突っ切って、先頭を叩く。迅速果断にな。ああ、お主は来なくて良いぞ、どこかに隠れておれ」


「わかった。健闘を」


「当たり前じゃ、誰に口をきいておる」


 確かに、竜のような巨大な捕食者を、俺という囮があったとはいえ、単独で仕留めるのだ。そう問題はないだろう。


「ではの」


 会話を終えると、フセ爺は音もなく滑るように木々の間をくぐり抜け、ゲネム達の殺気が強まったと俺が感じるのと同時に、紅く煌めく戦鎚で先頭のゲネムを無慈悲に打ちのめした。


 突然の意識外からの攻撃に怯んだゲネム達。その隙をフセ爺が逃すはずもなく、近場の2匹を無造作ともいえる動きで屠る。


 半分が地のシミになった群れの仲間を見て、残ったゲネム達は、しかし、狩りを諦める気はないようだ。


 一方で、例の2人組はというと、こちらもこちらでゲネム達を次々と屠っていた。大柄な女と比較的小柄な男の2人。(いや、女性が大きいだけで、男性が小さい訳ではないか)大女は身の丈ほどの大剣で3匹をまとめて()()()()、男の方も、瞬く間に残った2匹の眼を射抜く。一瞬で5匹をまとめて葬り去るその戦いぶりは明らかに戦い慣れている。まさに手練れというにふさわしいものだった。


 その頃には爺さんも6匹目を屠ったところだった。最後の1匹はというと、もう完全に戦意を喪失しており、直ぐにでも逃げたそうにしているが、ちょうど爺さんと2人組、そして俺を頂点とした三角形の包囲網に囲まれた位置にいるせいで迂闊に動けないようだ。


 だがそこは流石に生存に長けた野生の獣だけあって、おそらくはこの中で最も突破が容易である俺の方向に突っ込んできた。


 命の危機に晒されたせいで、限界に近い力を発揮したのだろう。最後のゲネムはフセ爺を引き離す勢いで駆けてくる。


 あるいは、奴が俺に殺気など向けず、ただ逃げに徹していれば運命は違っただろう。だが、現実として奴は俺を殺す気で牙を剥いた。


 殺気に応じて俺の中で無意識のうちに《命火(テグニス)》が滾る。まるで火が入ったかのように体が熱を帯び、全身が戦うための準備を整えていく。しかしそれは幾ばくか遅かった。俺が短剣を抜くのと同時に奴は跳躍し、俺の喉笛をめがけて飛びかかってきた。


「いかん! 避けるんじゃ!」


「危ない!」


「クッ……!」


 2人組のうちの男が、この展開を予想していたのだろう、すでにゲネムを狙って矢を放っていた。その矢は急いで放ったせいで少し軌道がそれ、ゲネムの尻に刺さった。それは仕留めるには至らなかったが、俺が体をひねって避ける猶予を与えてくれた。


 牙が俺の肩を掠め、その勢いで共に地に倒れこむ。


「無事かッ!?」


 そう言って走ってきた爺さんに俺はゲネムの下から手を振って応える。それでも、安心はできないのだろう、急いでゲネムを蹴り飛ばすと、俺のことを片手で引き上げた。


 後に続いてきた2人組のうち女の方が口を開く。


「大丈夫かい? 一体どうなってるんだよ」


「なんのことはないさ。奴の首に短剣を突き立てたんだ。後は勝手に奴の自重で貫かれて……って訳だ」


 俺の説明に対し、なるほどと1つ頷くと、


「子供のくせにやるじゃないか。狩猟の修行かい?」


「いや、そういうわけじゃない」


 俺は後の説明を任せると暗に視線を通じて爺さんにコンタクトをとる。


「うむ。まぁまずは怪我の手当てをするかの。話はそれからじゃ。ほれ、怪我を見せてみい」


 傷を負ったのは俺だけなので、少しバツの悪さを感じつつも、上着を脱いで肩を出す。


 傷はそこまで深いものではない。爺さんに借りた狩猟着の厚い皮の肩当てが大分威力を減衰させてくれていたらしい。


「このくらいなら唾でもつけておけば治るが、傷が化膿するのと後が怖いからのう、消毒するぞい」


「ああ、お願いするよ」


 そして、女は手当てが終わったのを見計らって、再度質問をしてきた。


「終わったみたいだね。それと、自己紹介がまだだったね。私はヘリエス、こっちの無愛想な男はイシナってんだ。そんで早速の質問で悪いんだけど、あんた達は何しにこの森に?」


「わし達はフェクティを探しておっての、その最中にゲネム共に囲まれたお前さんがたと遭遇したのじゃ」


「……そうか、それはすまなかったな」


 別に謝られることではないが、イシナの謝罪するときの顔は全くの無表情だ。ここまで気難しそうだと、さぞ生き辛いことだろう。


 人のことは言えないが、無愛想はやはりとっつきにくいからな。まあ、ヘリエスはよく喋りそうだから、いいバランスといったところか。


 閑話休題。こちらとしても少しは彼らの目的を聞いておきたい。


「あんたらは何を?」


「……こっちも似たようなものだ。加えて、ゲネムの討伐も頼まれていたからな。結果的に手伝ってくれた訳だから、いくつかフェクティを分けてやる」


「おお!それは助かるぞ。感謝するぞい」


「なに、お互い様ってことさね。ボウズも大した怪我じゃなくてよかったよ。あ、そうだ、2人とも名前を教えておくれよ」


「ワシはフセじゃ。セギス家にお仕えしておる」


「あのセギス家に!? 待って……セギス家に仕えるフセといえば……!」


「昔の話じゃよ。今ではただのジジイじゃ」


「またまた〜謙遜しちゃって〜。あのレイド卿の右腕と謳われたあなたがこんなところにいるなんて」


 やはりこの爺さんは只者ではなかったようだな。ただ、セギス家やらレイド卿やら、知らないことばかりだが。


「で?お兄ちゃんは?」


「デニスだ、よろしく。今は爺さんのいる屋敷に居候している」


「そうなんだ、よろしくね。あ、そうそう、これがフェクティよ。これで足りるかしら?」


「む、十分じゃ。感謝するぞい、ありがとう」


「……いいってことよ。それよりもだ。その薬草が必要な人がそちらにもいるんだろう?……早く届けた方がいいだろう」


「へぇ、イシナは無愛想なんじゃなくて、少し暗いだけだと見た」


「あら、よくわかってるじゃない。気が合いそうね、デニス坊」


「……お前たち、俺の話を聞いていたか?」


「そうじゃ、イシナ殿のいう通りじゃ。とりあえずワシらは屋敷まで帰ることにするわい。イシナ殿、ヘリエス殿、道中ご無事でな」


 かくして、当初の予定とは違うものの、フェクティを手に入れることができたのだった。


 *


 屋敷にて、俺は念のためということで、昨日の医師、トムに傷を治してもらっていた。


「これで大丈夫でしょう。無理はなさらぬようにな」


「どうもありがとう。助かったよ、トム先生」


 俺の礼に無言でうなずき返すと、トムはフェクティの煮汁をろ過して薬を作る作業に戻る。


「その量で、大丈夫か?」


「チノ1人だったら十分間に合う。しかし、話は聞いたが、ゲネムに襲われるとは災難だったな」


「襲われたといっても、全部爺さん達が返り討ちにしたしな。怪我をしたのも俺だけだ」


 全く、あの状況で攻撃を躱せなかったのは、俺が完全に油断していたからに他ならない。このことは爺さんにも帰りの道中で説教された。


「医師である私が言うことではないだろうが、戦場では自分の身は自分で守らねば、いくら猛者達が守っていても最悪死ぬぞ」


「ああ、先生の言う通りだよ。ぐうの音もでない」


「解ればいい。前にも言ったが、死んでしまったらお手上げだからな」


 そう言いながらトムはろ過した煮汁を再度煮沸し、それを冷ました後にそれを注射器の中に入れる。


 煮汁は透き通った薄緑色の溶液で、濃い緑色のフェクティそのものと比べると、大分薄い。


 これで本当に効果があるのだろうかと軽く訝しんでいると、それに気が付いたのだろう、


「大丈夫だ。フェクティも新鮮だったからな、よく効くはずだ」


 *


 トムと共にチノの部屋に行くと、フセ爺とレリアがチノが寝ているベッドを挟むように座っていた。チノ本人はというと、まだ眠ったままだ。


「昨日の薬のおかげかしら、少し顔色がいいと思わない?」


 トムはレリアに頷き返し、同意を示す。


「これが本命の注射だ。……効いてくれよ」


 祈るように目を細め、トムはチノの腕に注射をする。


「後数時間もすれば目を醒ますだろう。意識が回復した後は、下痢が続くからな。今のうちに沸かした水と、食べられるかはわからないが薄めのスープを用意しておいた方がいいだろう。フセ、厨房に指示をしてきてくれないか」


「お安い御用じゃ。ではお嬢様、すぐに戻りますので」


「うん、いってらっしゃい」


 そういうレリアは明らかに疲れた顔をしている。10代になってまだそんなに経っていない年頃では、いやそうでなくとも、昨日のことは堪えるだろう。それに加えて、フセ爺によればこのチノという女性はレリアにとって大切な人とのこと。大変なストレスを感じていることは想像に難くない。


 そんなことを考えていると、件のレリア嬢と目が合った。


「そういえば、デニスにキチンとお礼を言っていなかったわね。昨日は助けてくれて、そしてフェクティを探してきてくれてありがとう」


「なに、そういう流れだっただけだ。ま、礼は貰っておく」


「素直じゃないのね」


 俺はそれに対して、軽く眉を吊り上げて肩を竦めた。そのまま何気なく目を逸らすと、チノが微かに動いたのが見えた。それを受けて、俺は慌てて声を上げる。


「おい、今動いたぞ。レリア嬢ちゃん、側に行って手でも握ってやれ」


 レリアは俺が言うのを聞き終わるや否や跳び上がると、その両の掌でチノの片手をしっかりと握りしめる。


「チノ……! しっかり!」


 その一声がチノの意識を覚醒へと引き揚げたのだろう。


「ゲホッ……、お嬢様?」


 か細く、疲弊しきった声だったが、確かに生を感じるものだった。特にレリアには得難いものだったのだろう。一呼吸の間の後、レリアはチノの胸に飛び込んで、歓喜の泣き声を上げる。


「よかった……死んじゃうかと思ったよぅ。本当によかったぁ」


「心配をおかけしましたね、お嬢様」


 喘ぐようなか細い声だったが、しかしそれは死にかけとも違う、快復への確かな予感を感じさせるものだった。


「ああ、ひとまずは峠を越えたな。どれ、脈を測るからちょっと腕を貸してくれるか?」


 トムがチノの脈を測っている間もレリアは離れようとしない。この光景に、俺は何故か、懐かしさを覚えた。


 不思議な感慨に俺がふけっていると、ちょうどフセ爺が水とスープを運んできたところだった。


「おお!やっと目を覚ましたか!! これはめでたい。近いうちに快気祝いをせねばな。それに、これでお嬢様の無茶無謀も落ち着くというもの」


 上体を起こしたチノに気づき、表情を緩めるフセ爺。


「そ、そんなことより、早く水をちょうだい!」


 チノに事細かに事情が知られてしまうのを恐れていることが一目瞭然なレリアは、半ばふんだくるように水の入ったコップを盆から取ると、チノに押し付けるようにそれを渡した。


 チノはそれをうまく受け取ると、横目でレリアを軽く睨め付けて、


「お嬢様、今度は何をなさったのですか? 話せないようなことをしたのですか?」


 つい先ほどまで意識がなかった人間とは思えないような剣幕だ。


 流石にレリアのことを不憫に思ったのだろう、フセ爺が助け船を出した。


「まぁまぁ、今は体を休めないとじゃぞ。そういったことは追い追いでいいじゃろう。な、トム?」


「そうだな、後3日は絶対安静、派手に動くことは厳禁だ。だが、チノならば動きかねん。レリアお嬢様、見張りを頼みます」


 なんだ、似た者同士、いや、レリアはチノの影響であのような性格になった可能性があるな。などと本気で考えていた俺に向かってレリアは指を指すと、


「うん! あ、そうだ、デニスは?」


 別に隠れていたつもりはないが、端で目立たぬようにしていた俺に全体の注意が向く。


 それでようやくチノは俺の存在に気がついたらしい。


「あら、新入りさんかしら? よろしくね」


 新入りといえば新入りだが、おそらく彼女が考えている意味ではない。が、話がややこしい、もっと言えば説明が面倒なので、視線でフセ爺を指してみせる。


「む? ワシが説明するのか?」


「そうだな、俺が事実をそのまま言えば嬢ちゃんに悪いんじゃないか?」


 ほくそ笑みながら、俺は暗に嬢ちゃんが何かを()()()()()ことを示唆する。


 それを聞いてチノはその優しげな目を鋭くしながらレリアを視線で射抜くが、それを見てフセ爺が慌てて説明する。


「か、彼は森でたまたま偶然に出会っての。お嬢様が、その、……竜に襲われたんじゃが、庇ってくれたんじゃよ」


 あらら、と、(元を正せば俺が話を振ったのだが) これには少し嘆息した。何故なら、チノの顔が()()していたからだ。それが怒りで真っ赤ならばまだ可愛げがあったかもしれないが、その真逆、今にも卒倒しかねないほど真っ青だった。


 バタッ。


 訂正しよう、卒倒した。


「ちょ、ちょっとチノ?!」


「言わんこっちゃない!おい、フセ!お前のせいだからな!」


「待つんじゃトム、まさかこうなるとは……」


「——う〜ん」


「お、おお、意識を取り戻したか。全く、ヒヤヒヤさせてくれる」


 場は一時騒然となったが、一応収拾したようだ。


「ヒヤヒヤしたのはこちらですっ!! いや、ヒヤヒヤどころじゃないわ、ゾクゾクよっ!!! フセ爺が付いていながら、一体どういうことなのっ?!」


 していなかったか。


 フセ爺やレリアからしてみれば、こちらの方がよほど怖いのではないかというほど縮こまっている。


「いや、しかしのう「しかしもかかしもありませんっ!」


 反撃は許されないようだ。レリアに至っては、いつのまにか俺の背後に隠れている。だが当然チノにはバレており、


「あなたもですよ、お嬢様!! こちらへお直りなさいっ!!」


 俺にはレリアを庇いだてする理由も義理もないので、(本心を言えばチノの怒りの対象になりたくなかった) すぐさまレリアをチノの前まで押し出す。そして、トムと一緒にそそくさと部屋を出て行った。


「本当に内臓がやられて意識を失っていた人なのか? あれが?」


「いや、私にもにわかには信じられんよ。やはり人の身体は神秘的だよ」


 その後、チノの怒りの声は暫く続いた。我々はどうやら、()を目覚めさせてしまったらしい。






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