イジワル騎士の秘めた告白〜幼馴染がこんなにロマンチストなんて聞いてません!
第1回アイリス異世界ファンタジー大賞、編集部特別賞を受賞させていただきました…!
本当に本当にありがとうございます!!
まさか受賞できるなんて夢にも思わず、受賞連絡を半月近くも見逃すという大失態を犯しておりましたが(オイ)、無事こうして発表していただけて何よりです。
あまりにも嬉しくて、生意気にも受賞記念SSを2作用意させていただきました!
本日に1作、もう一つは明日に公開予定です。
ぜひ、本編と併せてお楽しみいただると嬉しいです。
ある晴れた日の午後。
あんなに会えない時期があったのが嘘のように、今日もランスロットはレティーシャの元へと訪れていた。
先日、とうとう第二王子アーサーの近衛隊へと配属になった彼は、時間を見つけては少しの間だけでもとレティーシャの元へとやってくる。
そんなに毎日やってきて、話すことはあるんだろうかと思うけれど…それでも、大切にしてくれているのがわかるから、悪い気はしなかったのだった。
「……なあ」
「んー…なあに?」
「それ、何してんの?」
侍女のマリアが淹れてくれたお茶を飲みながら、ランスロットが背中越しに声をかけてくる。
しかし、手元にあるものへと意識を向けていたレティーシャは、振り向くことすらしない。
「ちょっと、手紙の整理をしようかなって」
「手紙?誰からの?」
「んー…いろんな人から?」
もう半年ほど前に起こった婚約騒動から、レティーシャの人間関係は大きく変わった。
コーンウォール家に睨まれたくないからという理由で離れていった友人たちの中でも、その後の対応は千差万別だ。
正直に理由を言って心からの謝罪をしてくれた者もいれば、何事もなかったかのようにへらへらと笑いながら擦り寄ってきた者もいた。
そういった態度や家柄などを考慮しつつ、今後どのように付き合いをしていくかという検討をしていたのだ。
そんなことに頭をフル回転させていたレティーシャは、だから、背後に忍び寄る気配に気づくことができないでいた。
「……おーい、レティ?」
「んー…だから何……て、ひゃあっ!」
背後から唐突に抱きしめられて、喉から変な声が漏れる。
突然のことに心臓がバクバクと鳴っていて、一気に意識が背中から聞こえる声に持って行かれてしまった。
ふわりと鼻を掠める彼の香りに、じわじわと顔が赤くなっていくのがわかる。
ランスロットへの気持ちを自覚してからも、幼馴染と認識していた時期が長かったからか、なかなかこういった触れ合いに慣れることができない。
それを分かっているからこそ、揶揄うようにランスロットはレティーシャの耳元へと、囁くように話しかけてきた。
「……それって、俺といるよりも大事なこと?」
「だ、大事って…そりゃ、今後の社交のことだから…!」
「だからさあ…それ、俺よりも大事?」
「……っ!」
言いながら、わざと音を立てて耳殻にキスをしてくるものだから、持っていた手紙をバラバラと落としてしまう。
両手が空いたのを良いことに、ランスロットがくるりとレティーシャの身体を回転させて抱き込んでしまったから、もう抗うことはできなかった。
観念したように身体の力を抜いたレティーシャをひょいっと抱き上げて、そのままソファーに腰掛ける。
ここ数ヶ月で、ランスロットの膝の上が定位置となってしまったからか、もうレティーシャには反抗する気も起きなかった。
「お前の場所はここなの。俺が来てるときは、ここ以外禁止な」
「〜〜っ、だから私だって色々やることが…」
「良いだろ、別に……俺が寂しいんだよ、文句あるか」
そんな風に言われてしまえば、レティーシャはもう何も言えなくなってしまう。
正式に婚約が認められてから、ランスロットは目に見えて甘く接するようになってきたけれど、特にこのような拗ねた表情に、レティーシャは滅法弱い。
普段、周囲には絶対に見せないような表情だからだろうか。
こんなランスロットは自分以外誰も知らないのだと思うと、むずむずとくすぐったい気持ちが沸き起こってきて、無性にぎゅうぎゅうと抱きしめたくなるような気分になってしまうのだ。
無論、そんなことをしたら絶対に彼からの百倍返しが待っているのがわかるから、実際にやったことはないのだけれど。
だから、代わりに頭をぽんぽん、と軽く撫でてやると、ランスロットは何かを堪えるようにぐりぐりと額を擦り付けてきた。
しばらくやって気が済んだのか、大きくため息をついてレティーシャを抱え直す。
「……で?手紙の整理って、今更?」
「うーん…ソフィア様関連の件で、ちょっと友人関係を見直そうかなーって…」
「あー……まあ、令嬢の中でも色々あるっていうしな。じゃあ、あっちの箱は?」
そう言ってランスロットが指差したのは、机の上にちょこんと置かれた小さなレターボックスだ。
まさか指摘されると思っていなかったレティーシャが答えあぐねている間に、それまで部屋の隅に控えていたマリアが、さらりと答えを口にしてしまう。
「あちらは、ランスロット様にいただいた手紙が入っております」
「ちょ、マリア…!」
「は?俺の?」
意外そうに目を丸くしたランスロットが、膝の上のレティーシャをそっと下ろしてレターボックスのほうに向かう。
そのまま箱ごと持ってソファーに戻ってくると、中身を出して一つずつ中身を検め始めた。
なんとなく居た堪れなくなって、視線が彷徨うのをごまかすように目の前のお茶を口にする。
マリアが淹れてくれるお茶はいつも香り豊かなはずなのに、今に限って何も感じなかった。
「なんか意外。お前、こういうのちゃんと残してんのな」
「……何よ、悪い?」
「いや、全然。すげー嬉しい。ありがとな」
面映そうに顔を赤らめたランスロットがあまりにも可愛くて、レティーシャもうまく表情が作れない。
ちょっとでも気を緩めたら、自分こそみっともない顔になってしまう気がして、ぎゅっと奥歯で頬を噛みながらなんとか絵見崩れてしまうのを防いだ。
視線を合わせることすら恥ずかしくて、そっぽを向きながら口早に言葉を紡ぐ。
「そ…そういえば、騎士団に入ってからのランスの手紙、ちょっと雰囲気変わったわよね。気を遣ってくれてたんだと思ってたけど、毎回遠征先の花が添えられてて…遠征で大変だったでしょうに、無理してそんなことまでしなくて良かったのよ?」
遠征先から送られてくる贈り物には、必ずランスロットからの短いメッセージカードが添えられていた。
メッセージカードそのものには、簡潔な一言が添えられているのみ。
しかし、そこには必ず、一輪の押し花が入っていたのだ。
『これから遠征に行ってくる』というメッセージに、紫のライラック。
『俺がいない間に怪我すんなよ』というメッセージに、赤いブーゲンビリア。
『美味い菓子があったから、半分こ』というメッセージに、黄色いスイセン。
『腹出して寝るなよ、風邪引くぞ』というメッセージに、ピンクのグラジオラス。
『もうすぐ帰る』というメッセージに、白いリナリア。
そっけない一言だったけれど、押し花にできるようなキレイな花を探している姿を想像するとおかしくて、似合わないと思いつつも嬉しかった。
だからこそなんとなく捨てられなくて、今でもその押し花はメッセージカードと共に大切に保管している。
それを見つけられたのが恥ずかしくて、思わず早口で捲し立ててしまったけれど、ちらりと窺うようにランスロットの方を見上げると、目を丸くしてこちらを見下ろす彼とばっちり目が合ってしまった。
そのまま何かを探るようにじっと目の中を覗き込んでくるランスロットから、目が離せなくなってしまう。
「……な、何?」
「………もしかして、気づいてないのか?」
「え…何が?」
唐突な質問の意味がわからなくて首を傾げると、それまでじっとこちらを見つめていたランスロットが不意に視線を外した。
そしてガシガシと髪をかきむしると、そのまま乱雑にメッセージカードをレターボックスに放り込む。
そのままもう一度ぎゅうぎゅうとレティーシャを腕に閉じ込め、動かなくなってしまった。
「ちょっ……!」
「…そうだよな……お前にそういう情緒を求めた俺が悪かった……」
「?ちょっとそれどういう…」
「や、もういい。そのまま一生気づかなくて良い。ていうかむしろもう燃やせ」
「は?そんなことするわけないでしょ!」
「つーか……今更俺が恥ずかしいわ……」
意味のわからないことをぶつぶつと呟くランスロットに、首を傾げるしかできない。
そのまま彼が帰宅するまでずっと微妙な空気感が漂っていたからか、夜になってもそのやりとりが頭から離れることはなかった。
「……ねえマリア、ランスは何をあんなにがっかりしてたんだと思う?」
夕食も終わり、湯浴みを終えて寝支度を整えてもらっている中。
ふと思い至って、レティーシャはマリアにお昼の出来事を聞いてみることにした。
レティーシャが5歳の頃から侍女として仕えてくれているマリアは、当然ランスロットのこともずっと間近で見てきた。
あまり口数は多くはないが、レティーシャのお転婆にも根気よく付き合ってくれる優しい侍女である。
だからこそ、ランスロットのことも気軽に相談できるのではないかと思った…のだが。
「……失礼ですが、お嬢様。本当に気づいておられないのですか?」
マリアもランスロットとほぼ同じ表情でこちらを見てくるものだから、なんだか居た堪れない気持ちになってしまう。
何を意味しているのかが本当にわからないから、なんだか自分だけ仲間はずれにされているようで面白くない。
「ちょっと待って…マリアはなんだかわかってるってこと?」
「当然です。というか、お嬢様が気づいておられなかったことの方が驚きです」
「だって、本当に意味がわからないんだもの。そもそも、何を気づいていないのかもわかってないわ」
「……………」
無言でこちらを見つめてくるマリアの視線を敢えて無視して、両手を合わせて拝み倒してみる。
すると、小さくため息を吐いたマリアが、先ほどランスロットによって乱雑に仕舞われてしまったレターボックスの中身を丁寧に取り出して、一つずつメッセージカードと押し花を丁寧に並べてくれた。
「……ランスロット様が本当に贈りたかったのは、こちらの押し花です。メッセージカードの内容は、いわばダミーのようなものですね」
「ダミー?どうして?」
「騎士団から出される手紙は、全て検閲の対象になりますから。騎士団内では、恋人や婚約者宛への手紙の内容を知られたくないからということで、よく使われるのだそうです。…とはいえ、あまりにも常套手段なので、検閲する側も花言葉の意味は熟知しているそうですが…ランスロット様は、そのことをご存じなかったのでしょう」
苦笑いをしながらそう語るマリアの言葉を聞きながら、レティーシャは彼女が言わんとすることにようやく思い至る。
居ても立ってもいられなくて、寝巻きのまま足早に図書室へと向かった。
小さいながらもあらゆるジャンルの書籍が詰まった子爵家の図書室の植物図鑑には、確か花言葉の記載もあったはずだ。
急いでいたため灯りも持ってきておらず、月明かりの中で必死に目当ての書籍を探していると、マリアがランプとメッセージカードと押し花を持って図書室まで追いついてきてくれた。
先ほどと同じように机の上にカードと押し花を並べてくれている間に、植物図鑑を見つけ出して机に戻ってくる。
「最初に贈っていただいた花は、紫のライラックです」
言われて、図鑑の中からライラックを探す。
そこに小さく記載されていた花言葉は———『初恋』だ。
思いもしなかった隠されたメッセージに、大きく鼓動が跳ね上がる。
きゅっと唇を噛み締めて、急くような気持ちで図鑑を捲る。
ただ、遠征先のお土産の一つだとしか思っていなかった押し花たちは、なによりも雄弁に、ランスロットの気持ちを表していた。
一つ一つの意味を知るたびに、胸がいっぱいになってしまう。
その気持ちが溢れたかのように、気づけば目から涙が溢れていた。
こんなにたくさんの想いを受け取っていたのに、遠征から帰ってきた彼に、自分はなんということを言ってしまったのだろうか。
口にしてしまったことはもう取り消すことはできないけれど、彼が贈ってくれた想いの一欠片でも返したい。
きゅっと袖口で目元を拭くと、ぱらぱらと植物図鑑を捲って目当ての花を探し、マリアのほうに向き直った。
「……マリア、お願いがあるんだけど」
「なんでしょうか、お嬢様」
「これから刺繍をしたいの。白いハンカチと、裁縫箱を用意して」
「…かしこまりました。お部屋に戻られましたら、すぐに準備いたします」
力強く頷いてくれたマリアに、レティーシャもにっこりと笑み返す。
そのまま踵を返して部屋に戻るレティーシャの後ろで、こっそりとマリアも頬を紅潮させて笑みを浮かべていた。
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そして、翌日の午後。
ほぼ徹夜をしてしまったレティーシャはそのまま気絶するように眠ってしまい、ランチの時間が終わる頃になってようやくマリアに起こされた。
正直まだ頭はぼんやりしていたけれど、この後の予定を考えればこれくらいに起きなければ間に合わない。
からっぽの胃に一切れのサンドイッチと紅茶を流し込むと、ランスロットの実家であるオーウェン侯爵家に出向くため、身支度を始めた。
眠っている間に、朝一番でランスロットの元に使いは出しているので、すれ違いになることはない。
徹夜で仕上げたハンカチにリボンをかけ、忘れ物がないことを確認してから馬車に乗り込む。
婚約する前から、ちょくちょく遊びに行っていた家ではあるものの、婚約してからは気恥ずかしさから、なんとなくこちらから行くことは避けていた。
しかし、今のこの気持ちを伝えるのに、向こうから家に来てもらうのを待っているのは何だか違うと思ったのだ。
どう切り出そうかと頭の中でぐるぐる悩んでいると、馬車の外からこんこん、と軽くノックされる。
いつの間にか目的の場所に到着していることに気づき、慌てて馬車から降りると、そこには見慣れたオーウェン家の門が聳え立っていた。
いつ来ても慣れないな、と思いつつ、その門をくぐると、玄関でランスロットの母親であるオリヴィアが満面の笑顔で待ってくれていた。
「レティちゃん!久しぶり」
「お久しぶりです、お義母様」
「ふふ、やっとその呼び方に慣れてくれて嬉しいわ。もう家族みたいなものなんだから、いつまでも『オリヴィア様』なんて他人行儀な呼び方しないでね」
機嫌良くにこにこと笑っているオリヴィアに、レティーシャは苦笑いで返す。
オーウェン家は女児に恵まれず、オリヴィアは幼い頃からずっとオリヴィアに目をかけてもらっていた。
ようやくランスロットがレティーシャに想いを伝えたことで、「本当に娘になってくれる!」と一番喜んでくれたのが、このオリヴィアだったのだ。
レティーシャとしては、よく耳にする嫁姑問題がなさそうであることにほっとしつつ、本来なら過分な扱いである可愛がられ方に戸惑いが残るのも事実。
しかし、最近ではようやく「まあいいか」と思えるようになってきていた。
「ごめんなさい、こんなところで立ち話なんて無粋よね。さあ入って。あの子が帰ってくるまで、中でお茶にしましょう」
「はい、ありがとうございます」
「もうそろそろ帰ってくると思うから、ゆっくりしていってちょうだい。レティちゃんが来てくれるなんて、滅多にないんだから」
「あはは…普段は、ランスがうちに来てくれますからね」
「そうなのよ!あの子ったら、いつもうちに呼びなさいって言ってるのに、全然呼んでくれないんだもの。レティちゃんを独り占めしたいんでしょうけど、私だって娘と話がしたいのに!」
ぷりぷりと怒ってみせながらお茶を嗜む姿は、ランスロットに非常に良く似た美人だ。
切長の瞳はランスロットと同じくスカイブルーで、艶やかなブロンドの髪によく映える。
公の場ではただ立っているだけで威圧感を持たせるオリヴィアだが、実は家族と友人だけに見せる少女のような振る舞いが、彼女の一番の魅力だった。
今も、お茶請けに出された手土産のお菓子を頬張り、嬉しそうに相好を崩している。
その場にいる誰もが幸せになりそうなその笑顔にほっこりしていると、突然応接間の扉が大きく開かれた。
「母上!レティを横取りするのはやめてください!」
「あら、ランス。家に帰って最初に言うのがそれなの?」
「っ……、ただいま戻りました。レティを返してください」
「ふふ、せっかちねえ。せっかく楽しくお喋りしてたのに。ね、レティちゃん?」
「えっ、あ、はい!」
言いつつ、さりげなくレティーシャに腕を絡めるオリヴィアの様子に、ぴきっとランスロットの額に青筋が浮かぶ。
板挟み状態で冷や汗をかくレティーシャを横目に、ランスロットは軽くため息をついて、無理やりオリヴィアからレティーシャを引き離した。
「あんっ、もうランスったら!私だってレティちゃんと話したいのに!」
「レティが用があるのは俺ですから。ここまでレティの相手をしてくださって、ありがとうございました」
あくまでレティーシャを離す気のないランスロットにオリヴィアは唇を尖らせ、レティーシャに向き直ってにっこりと笑った。
「レティちゃん、今度はお茶会に招待するから、二人でゆっくり話しましょうね!」
「は、はいっ!是非!」
そう言って去っていくオリヴィアの背中が扉の向こうに消えると、何だかどっと疲れが湧いた。
全然悪い人ではないし、女性としてもかなり尊敬しているが、やはり婚約者の母親と一対一で話をするというのは存外期を遣うものらしい。
知らず肩に力が入っていたのか、ふう、と軽く息を吐くと、ランスロットが抱いていた肩をゆったりとさすってくれた。
「帰るのが遅くなって悪い。疲れただろ?」
「ううん、大丈夫よ。お義母様はとっても良くしてくれる方よ。ランスも、そんなに怒らないで」
そう言ってランスロットに視線をやると、心配そうな顔で覗き込んでくる。
走ってきてくれたからか、単純に訓練終わりだったからなのかはわからないが、少し髪が乱れていて、それが逆に色気を醸し出していた。
普段から見慣れている格好なのに、突然帰ってくるものだから心の準備ができていなくて、緊張感がいや増してしまう。
乾いて張り付いた喉を潤すように生唾を飲み込んで、きゅっと唇を引き締めると口を開いた。
「あっ…あのね、ランス。今日は、これを渡したくて…」
そう言って、小さく震える手で差し出したのは、昨日徹夜で刺繍をした白いハンカチだ。
植物図鑑を隅から隅まで見て、これまで贈ってくれた花たちに応えるならば、これしかないと思った。
ランスロットは、しばらく無言で差し出されたハンカチに視線を落としていたが、やがてゆっくりとした動作でそれを受け取り、呆然とした様子で呟く。
「これは……リナリア?」
ハンカチに刺したのは、リナリアの花。
白い花びらが緑の葉に映えて、我ながら結構良い出来になったと思っていた。
しかし、ランスロットの反応が喜んでくれているのかどうかわからなくて、途端に不安になってしまう。
(もしかして…リナリアの花言葉、知らない?)
ようやくその可能性に思い至ってあたふたとしていると、突然長い腕が目の前から伸びてきて、あっという間に視界が真っ暗になってしまった。
もうすっかり慣れてしまった息苦しさとコロンの香りに、ランスロットに抱き込まれたのだと理解する。
力を緩めてほしくて、軽く腕をぽんぽん、と叩いたけれど、苦しくないように抱き直されただけだった。
「ちょっとランス、苦し……」
「あー…だめだ。レティが可愛すぎて辛い……」
そのまま顎をくいっと持ち上げられ、キスの雨が降ってくる。
軽く啄むようなそれを顔中に散らされて、レティーシャはもう目を開けることすらできない。
「ちょっ……んっ、ランス……っ」
「んー…?」
そのまま唇が首筋まで降りてきて、くすぐったさと羞恥できゅっと身体に力がこもる。
もう完全になすがままになってしまったレティーシャの、体の力が抜け切ったところで、ようやく満足したかのようにランスロットが唇を離してくれた。
そうして、機嫌の良さを隠しきれない瞳が、真っ赤になってしまったレティーシャの顔を覗き込む。
「……ありがとな、レティ。俺も、お前に愛されて、すげー幸せ」
そう言って、本当に幸せそうに笑うから。
レティーシャはもう文句の一つも言えず、その胸に顔を擦り寄せたのだった。
最後まで読了いただき、ありがとうございます!
相変わらずあのテンションのままいちゃついているお二人、楽しんでいただけましたでしょうか?
明日も同じくらいの糖度でお届けする予定ですので、砂糖を吐くご用意をお願いします笑
ちなみに…仕事の忙しさにかまけて、完全に更新が途絶えてしまっております長編作品についても、仕事が落ち着き次第更新再開させていただきます。
こちらもぜひ、覗いてみてください!
なお、楽しんでいただけたという方は、ぜひ↓の☆をぽちっとしていただけると今後の励みになります。
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今後も頑張りますので、よろしくお願いします^^