かいだんラジオ
思い切って夏のホラー2022に書こうと思い書きました。
怖さ少なめの初作品です。温かい目で見てください。
仕事からの帰り道。いつも同じ時間の電車で同じ席に座り、揺られながら最寄り駅である終点までスマホでラジオを聞き、ネット小説を読む。
これが私の仕事帰りのルーティーンだ。私はここ何年もこのルーティーンを崩したことはない。聞きながら読むことは難しいが慣れれば一度に2つのことをしているため時間の節約になる。
いつもと同じ時間、同じ声のアナウンスがあと二駅で終点であることを知らせる。
「あと二駅か」
歩きスマホは危険だから、私は駅に着けばラジオも小説もやめる。
さてあと少し、集中しようか。そのとき耳に聞き覚えの無い声が聞こえてきた。
「どうも、かいだんラジオの時間です」
かいだんラジオ? 聞き慣れない番組名だ。いつもならニュースの時間だが、新しい番組が始まったのか?
それとももっと別の局の人気番組か? 何局かで同時放送かもしれない。それなら期待できそうだが…
「それでは今日の話にいってみましょう」
それにしてもこのパーソナリティは私と声が似ている。まあ、私は感情を込めて喋るのが苦手で朗読しかできないのだが、このMCは感情を込めて喋るのがうまいだろう。一人でパーソナリティをするようなプロだろうし。
「帰り道、家に向けて階段を登っている。コン、コンと足音だけが響く。一段、一段と登っていく。しかしいつまで経っても、何段登っても終わりが来ない」
ん? かいだんって怪談のことか。しかしこのMCの声の平坦だな… そのせいもあって怖さが欠片も感じらない。人選ミスじゃないのか?
「まだまだ登り続ける。一段、二段、三段と数え始めても、気づくと数えた段数を忘れてしまう」
なんだこれ。普通数えた階段の段数なんて忘れるわけ無い。私なら百だって千だって数えられる。怪談なんだからリアリティが無いと怖くないぞ?
「そのうち数えるのをやめる。何回数え直しても忘れてしまうから。そして走り出す」
おい。なんで急に走り出した。全く情景が思い浮かばないんだが。目を瞑って聞いてみるか。それならもう少し想像しやすいかもしれない。
「走り続けても、走り続けても、登りきれない。そのうち走るのもやめる」
…これは絶対に駄作だ。もっとまともな話は無いのか? これならそこらへんの人の方がもっと怖い話が作れるだろう。
「疲れ果てながらも歩いていると、そのうち足音がもう一人分あることに気づく」
どうせそのまま振り返って見てはいけないものを見てしまうんだろう。テンプレすぎる。
「気になる、もうひとりの人が。しかし、見てはいけない気がする」
よしよし。どうにかそのまま見ないで登り続けるんだ。そうしないと生き残れないぞ? どうせ振り向くだろうが。
「見ないで登り続ける。けれども、どうしても気になる」
あれ? もう振り返ると思ったんだが、ここで溜めるのか… 振り返ると何がいるんだろうか?
「それでも我慢して振り返らないでいると、だんだんと足音が近づいてくる」
死神か、怪物か、もう一人の自分の線もあるな。怖くない怪談だったが、ここまで来ると最後が気になってくる。
「そして、ついに堪えきれなくなって振り返ると……………」
振り返ると?
「………………………………」
おい!! 溜めが長い! さっさと言わないか!
しかし一向に続きが流れない。まさかと思って目を開けてみると、スマホの画面が真っ暗になっていた。
おそらく電池が切れたのだろう。
「おいおい… そこで切れないでくれ…」
悪態をついても意味は無い。私の耳に聞こえるのは怪談の終わりではなく、終点を告げる電車のアナウンスだ。こうして私は悶々としたまま、帰路につくのだった。
駅から出るために階段を登る。登っているとあっという間に疲れ、頭も少し痛くなってくる。
静かな空間にコン、コンと私の足音だけが響く。
一段、一段と上に登っていく。しかしいつまで経っても、何段登っても終わりが来ない。普段ならもう登りきっているのに。なんでこんなに長いのかという疑問。それにどこかデジャブを感じる。ま
まだまだ登り続ける。登った段数を数えてみようと思う。一段、二段、三段… あれ? 今は何段目なんだ?
もう一度、一段、二段、三段… ん? 次、何段目だ? いや、もう一度数え直そう。一段、二段、三段… まただ。また気がつくと数えた段数を忘れてしまう。一体どうなってるんだ?
もういい。数えるだけ無駄だと言うことが分かった。何回数えても忘れてしまうから。
何か今日の私は疲れているのかもしれない。もう急いで帰って休もう。走ればこの階段も一気に登りきれるはずだ。先程から感じる違和感は気にしない。たとえこの状況を知っていたとしても、どうにかなるわけでははいのだから。
私は勢いよく階段を登りだす、走り出す。だが走り続けても、走り続けても、登りきれない。
そのうち疲れ果ててしまった。はぁ、はぁ、私は全力で駆け上がった。少なくとも何十段、もしかしたら二百段くらい登ったんじゃないのだろうか? なのにどうしてまだ階段が続いているんだ? 明らかに何かがおかしい。
疲れ果てながらも、少しづつ登っていく。そうしていると、足音が増えている。誰かが後ろにいる。
気になる。誰が後ろにいるのか。この終わらない階段のことを話し合いたい。しかし、どうしても見てはいけない人がする。
見ないで登り続ける。それでもどうしても気になる。それでも我慢して登り続けていると、だんだんと足音が近づいてくる。誰が後ろにいるのか気になる。どうしても気になる。
そうして堪えきれなくなった私が後ろを向くと…………
暗転。真っ黒に染まっていく視界と意識の中、聞き覚えのある声が聞こえた。
「次はもっとリアルティのある怪談を話せるはずだ、期待してるぞ、私」
目を開くと、目の前にはマイクがあった。それを見た瞬間、何をすればいいのか瞬時に分かった。
私はマイクの前の椅子に座り、喋りだす。台本は頭の中にあるから大丈夫だ。
「どうも、かいだんラジオの時間です」
どうでしたか?
話が伝わりにくい気がしますが、私的には満足です。
一回書いてみて改めてなろう作家の皆様の凄さを実感しました。
もしこの話を読んで怖いと思ってくれたなら、下の星を一つでもつけてくれると嬉しいですし、感想に書いてくれるともっと嬉しいです。
それではまたいつか!




