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異世界園児紀行  作者: 文月
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第五話


「死因交通事故だったわ」


 あっけらかんとした様子ではるかは語っていた。


「いや、そこそんなにあっさり片付けて良い事案なんですか⁉︎ 人間3人死んじゃってるんですよ‼︎」


 思いの外事の重大さが甚大なものであったと発覚すると、つぐむは立ち上がらずには居られなかった。

 そんなつぐむを見ても汗ひとつ流さず顔色ひとつ変えずにはるかは、昨日の夕食でも思い出すように過去を懐かしんでいた。


「しっかし異世界転生のラノベ立ち読みしてた俺らが本当に異世界転生を経験するハメになるとはなぁ。人生は小説よりも奇なりとはまさにこの事だな。いやあ合縁奇縁縁は消えん」


「あの、勝手に私も立ち読み犯に巻き込まないでいただけますか。それと合縁奇縁は意味が違いますし、ていうかそんなにあっさりと受け止めないでくださいよ‼︎」


 立ち上がった後、また立ちくらみがするようにがくっとつぐむは膝から崩れ落ちる。

 齢5歳の彼女にとって、漫然とした自身の〝死〟という現実を受け止めるというのは余りにも酷な出来事だった。

 既に4歳の人間が享受しているという点には目を瞑るとしても。


「なんだよなんだよ。そんなにバカみてぇに落ち込む必要もねぇだろ? アタシらこうして今ピンピンしてんじゃん。五体不満足のダルマ状態の死体に転生した訳でもなし、ガーゴイルに食い散らかされた後の上半身に生まれ変わったって訳でもなく、鎧や剣に転生させられた訳でもねぇんだからよ」


「想定してる人生全部ウルトラスーパーハードモードじゃないですか。神様だって匙を投げますよそんな人生。なんならまだ死んでた方がマシだったまであるじゃないですか」


「だからアタシらはラッキーじゃん? ションベンもクソも垂れる事ができる、親から貰った手足も自由に動かせて、着心地の悪ぃ園児服まで何から何まで前のまんまなんだからよ」


「酷い例えもあったもんですね……。はるかちゃんはそう思えても、私にはとてもそんな風に割り切る事ができないんですよ! もうお母さんにもお父さんにも、先生にも園のお友達にも会えないし、お家に帰る事だって出来ないんですよ? そりゃあ身体は前とおんなじですけど……」


 つぐむの堪えていた涙が残酷な真実を受けて再び溢れ出しそうになる。

 夢かもしれない。

 今はこんな状態でも、いつかは自分の暖かい家に帰れるかもしれない。

 そう思っていたつぐむにとって、唐突なる『現世との今生の別れ』の宣告はトラウマ級の悲壮感を生み出す悲劇そのものだった。


 自分が一体全体何をしたというのだ。

 全ては不注意な余所見運転を行った人間の所為なのだが、今更それをいくら責めようが意味はないし、もう決して届く事はない。

 やり場のない怒りと悲しみで溢れてしまっても、無理はないだろう。


「なるほど。そういう物の見方もありますね」


「なんでそんな嫌なオタクみたいな口調なんですか……」


「いや。貴女の申される意見も尤もですよね。あと、貴女の『はるかちゃんにはそう思えても、私は違う』という部分が拝聴していて非常に素晴らしいと思いました。若くしてご自分をしっかりと持っておられて、他者や世間に惑わされる事なく、自分の芯が備わっている事は昨今の優柔不断な若者が多い社会でもたいへん褒められるべき案件だと思いますよ」


「園児がどんだけ冷静かつ鋭角に分析施してんですか。あんたは新卒就活支援の専属アドバイザーの女性事務員かなにかですか」


 泣くのもバカらしくなってはるかの渾身のボケに渾身のツッコミで応じた。

 はるかはにかっと笑って

「ほら。泣き止んだ。だからもうわんわん泣くのやめようぜ。アタシ、つぐみの笑ってる顔が好きなんだからさ」


「は、はるかちゃん……。ひぐっ、名前さえ間違えなければ良いセリフだったのに……」


「ごめんな。アタシいいセリフを台無しにする選手権の4年連続ベスト8の実力者なんだ」


「そ、そんなメチャクチャな選手権なんてありませんし、生まれてから乳幼児の段階から参加してるんですか……あとベスト8止まりなのに実力者とか自分から謙虚なのか不遜なのかよくわからないこと言ってんじゃないですよ……。というかそんな最低な選手権に他にも上がいることに驚きですよ」


 はるかの優しさを受け止めながら、泣き笑いの混在する表情を浮かべてつぐむは感謝していた。

 はるかにはめちゃくちゃだが、時たまこういうさりげなく人を支えるために進んで道化を演じているような側面が存在する。

 自分の方が泣きたいこともあるというのに、泣いている子供に合わせて何かをしてあげられる精神力の持ち主であるはるかは、だからこそアウトローの道にいながら、仲間である子供を、人を惹きつける魔性の魅力があるのかもしれない。


 突然――。

 その感動を引き裂くように空気が激しく音を立てて揺れた。

 それははるかやつぐむの背後から、時間が経過するにつれ次第に大きくなっていった。


 恐る恐る二人は音のする方向に目を向けた。


「グオオオ‼︎」


 そこには全長100メートルは有に越えている、家数軒に匹敵するほどの大きさの巨人が立っていた。

 あの大きな音はこの巨人の足音だったのだ。

 地面には足跡が巨人の軌跡を記録するように大地に壮大な大穴を開けていた。


「なんだ、ただのギガンテスかよ……おどかしやがって。地殻変動でも起こったのかとおもったぜ」


「いやいやいやいやいや‼︎ ただのギガンテスかじゃなくて‼」︎ 


「えっ。何。もしかしてビッグフットだった? わーっ。ごめんごめん。完全にあたしが頓珍漢な勘違いしてたわ。ふふっすまそにわか乙でした失礼すますた」


「そう言う場合でも笑ってる場合でも無くって‼︎ 逃げないと死にますって! ていうか冷静過ぎますって! どう考えてもやばいでしょこの状況!」


「いやいや。地殻変動からの火山噴火で天変地異を迎えることに比較したら、正直こんなの災害のさの字にも当てはまらねぇべ」


「毎度想定してる事態が人智を超えている‼︎ んな事言ってたら大抵の現象は(かす)むでしょーが‼︎ 早く逃げますよ!」


 巨人は鈍重そうな見た目とは裏腹に、意外にも機敏な動きを見せていた。

 逃げ惑う子供達を蟻のように踏み潰そうと上げた足は、勢いよく大地を揺らしながら突き抜けて、地面に埋まらせていた。

 大トカゲの次は巨人から逃げるべく、つぐむは単身奔走していた。

 対してはるかは完全に岩場で傍観を決め込んでおり、動き回るから目立つつぐむとは対照的に追われず石のように固まっていた。


「ひ、ひえええ〜やっぱこんなのあり得ないですよ〜!」


「足だー! 足狙えつぐむ! レフェリー今見てないぞ!」


「レフェリーなんてどこにもいませんよ‼︎」


 ヒールレスラーの観客のような怒号を上げたはるかは、ようやくして巨人にその存在を気取られた。

 しかしはるかは振り返ってきた巨人に怯む事なく中指を立てて挑発を続けた。


「何やってるんですか! 死にますって‼︎ 早く逃げてください!」


「馬鹿野郎! ここで尻尾まいて逃げたら男が(すた)らぁ!」


「はるかちゃんは男じゃないですし‼︎」


「背中の傷は剣士の恥だって言うしな! それにどこまで戦れるか自分を試したい!」


「いや! ものすごくカッコいいこと言ってますけど試す前に死んじゃいますから‼︎ やばいですって‼︎」


 つぐむの再三の警告も全て寝耳に水といったはるかは、目を閉じて耳を澄ませた。

 巨人は再び大きな足を上げてはるかを踏み潰そうと勢いよく降ろし始めた。


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またレビュー・感想も、率直なご意見をいつでも大歓迎しております。「面白かった」、「つまらない」等気軽にどうぞ。


それでは次回も引き続きご愛読いただけたら幸いです。




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