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異世界園児紀行  作者: 文月
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第39話

 冒険者キャラバン隊が到着したのは、透き通るような青色が美しい岩場の洞窟だった。


 兵士たちの案内はここまでとなり、彼らは洞窟に進んだ冒険者たちを一通り見送ると、来た道を帰って行った。


「このダンジョンは……俺に攻略されたがっているっドヤ」


「素敵ぃ〜♪ 是非私も攻略してぇ〜」


「ルシアったら下品よ! 真面目なダンジョンなんだから真面目に攻略しなさいよーきゃっきゃっ」


「また一つ、俺の栄光が世界に刻まれてしまうのか……やれやれ。全く。困ったものだぜHAHAHA」


 相変わらずの勇者パーティーが冒険者たちの先導に(勝手に)立って進んでいた。

 たどり着いてから我慢をやめたももは、何度も何度も勇者たちの背に向けて唾を(おびただ)しい回数吐き付けていた。


「なんだよ。何もやばい事なんて無いじゃねぇか。あの痴呆ボケじじいにも困ったもんだな全く。この程度の事でタスケテーするなんてよ。あんな無能追い出して勇者である俺を王にすえりゃいいのに」


「あらだめよ〜勇者サマ〜。勇者サマは世界の王だもん〜。あんなちっぽけな王国で終わって良い器じゃありませんわ〜」


「まっ、それもそうだながははは‼︎」


「…………発言の一部始終を録音でもして王国に証拠品として献上したいですね……」


 彼の大分後ろを歩くことにしたつぐむがぼそっと小言を呟いた。

 記憶を無くす前のはるかが霞む程の失言、暴言、不遜の数々に一同はあまり良い心持ちではなかった。


「あー? なんか言ったか貧民街の(ストリート・)浮浪児(チルドレン)ども」


「いえいえ何も。早く死んで欲しいなんてこれっぽっちも思ってませんからね勇者死ねなんて思って無いですよー」


 とうとう仏の顔が剥がれかけた彼女の発言にも、勇者は「そうか!」と高らかにバカ笑いをあげていた。


 不躾(ぶしつけ)極まりない彼らの暴挙を見ても、はるかは町娘のように大人しくこじんまりとしていた。


「いつものはるかちゃんなら正拳突きかましてたんでしょうかね……」


「つぐむは、もうしゃべらない。もう……笑わない泣かない……怒らない……わしらはどうしたらいい? この痛みはどうしたらいい? 指先がチリチリする。口の中はカラカラじゃ。目の奥が熱いんじゃ!」


「いや別に死別した訳じゃないですけど! 笑いますし泣きますよ多分! 喉乾いたならお水飲んでください!」


 お淑やかに佇むはるかを抱くように両手でかかえ、あかりが涙まじりに言った。

 単にダンジョン内に咲いていた花が、彼女の鼻粘膜を刺激する要因だったというだけなのだが。

 流るる鼻水をじゅるじゅると鳴らしながら、嗚咽に混じったか細い声をあげていた。


「何を言っているのだ? おまえに感情があるとでもいうのか?」


 ももはそんな彼女に向けて冷淡に言い放った。


「あたりまえじゃ! わしがなんだというんじゃ!」

 あかりは激昂し、立ち上がってももを見た。


「クックックッ……悲しむふりはやめろ。怒りにふるえる演技も必要ない。何故ならあかり、お前は……」


「FFごっこはもう良いですから! それ以上やったら怒られるだけじゃ済まなくなりますから! ももちゃん宙に浮くのやめて! 片翼の堕天使にならないで!」


「厨二浮く……?」


「重度な厨二病患者はクラスに馴染めず浮くのう」


「浮くってそんな物理的に⁉︎」


 あかりの鼻腔ムズムズゾーンを抜けても、洞窟は未だに一層の入り口にすら達していなかった。


 何が起きてもいいように馬鹿勇者たちを先頭に、彼らを見失わぬよう追い続けていた。

 進むにつれ次第に暗くなっていき、やって来た道が分からなくなってしまった。

 それに合わせて周囲の風景も幻想的なものに変わり、道々にあるルナタイトの鉱石群が青や紫色に輝いていた。


「やだ〜ナターシャこわい〜」


「心配性だなぁナターシャは。安心しろ。何があっても俺がついてるドヤッ」


「勇者サマ素敵ぃいんっあぁんっ」


「この石が先に頭を貫こうか、砕け散るのが早かろうか」

 手に持った鉱石をぶつけるべく、ももは勇者たちに照準を定めていた。


「待ってください! まだやばいですって!」


「こ……これ以上……は……殺したくなっちゃうカナ……♡」


「いっ、怒りがゆきすぎてももちゃんがおかしくなってる……! もう限界寸前かもしれません」


 そんな感情が向けられているとはつゆ知らず、勇者パーティーはとうとう洞窟の第一層に到達した。


「ほーここが入り口って訳だな」



 〜月鉱の洞穴 第一層〜


 そこかしこで淡い光を放つ岩岩が、螺旋階段の道標となっていた。

 人造によるものではなく、この洞窟が年月を経て偶然進化していった姿であった。

 階段はひたすら薄暗い底の方に向かって続いていた。


「よーし。愚かなるお前らついてこい。いいな? 間違っても俺より先に行って目立とうとかするんじゃねーぞ。みすみす死人を出したくねぇからなっドヤッ。ついでにいうと死体避けて進むのも面倒なんだわドヤ」


「はいはいどうぞお先に行ってください」


「……(ピー)して(ピー)●●●(自主規制)……」


「ももちゃんがついに怨嗟の呪詛を‼︎」


 呆れも怒りも十分といった様子で、他の同業者たちは勇者へ道を譲った。


「ぷ……くくく見ろよあいつらのあの冴えないツラ……。俺たちが凄すぎて悔しくて声も出せないでいやがるぜ」


「とーぜんっですわ。なんといってもアタクシたちは王立ギルドから認められた超A級のパーティーですもの。近い将来S級……いえSS級だって目じゃ無いですわ。そんな偉大なる勇者サマと一緒に旅をできるだけでも名誉な事ですのよ。並の人間ならありがたさに目が潰れてしまってもおかしくないですわ」


「そうかそうか。あれは俺たちが眩しすぎて直視できないでいるジェスチャーだったのか。だとしたらすまんすまんっ。爪を隠しきれない能ある鷹なものでっははは!」


 洞窟内に再び勇者一行の笑い声が鳴り響いた。


「……貴様の目玉をくり抜いて二度と光を拝めなくしてやろうか」


 恨みつらみもここまで募るとある種の怪物を生み出すらしく、ももは元の原型がわからなくなるほど漆黒に染まりきっていた。


 つぐむもこれ以上は我慢を強いるつもりも無いらしく、次に何か勇者が戯言をつぶやき、ももが殺戮の天使と化しても止めまいと決意していた。


 そんな彼らではあったが、階段を降りていくうちに静かにはなり、一応の探索らしい探索は行っていた。

 1段、2段――繰り返してもう50段目に差し掛かる頃合いであっただろうか、途中まで無言を貫いていた勇者の顔に苛立ちが浮かび上がってきた。


「おいおいどうなってんだよ⁉︎ 歩いても歩いてもちっとも底の方に着かねーじゃねーか! まさかあのジジイ騙しやがったな⁉︎」


「おかしいですわ……。ここに来る途中に何か怪しいものはなかったんですが……」


 メンバー内で(こんなでもまだ)頭脳派を担当していたナターシャは、杖を片手に首を傾げていた。


「さてはお前ら――。俺たちの足を引っ張るためになんか変なことしたんだろ」


 勇者の怒りの矛先は、彼らの後ろをつけてきたつぐむたち他の冒険者であった。

 眉間に皺を寄せ、思い通りにならない苛立ちを全てぶつけてきた。


「いえ。私たち、本当に何もしていません……。ですが、もし私たちに非があるとお考えになっているのなら謝ります……ごめんなさい……ですからお怒りを鎮めてください……!」


 どす黒い闇の炎に燃えている一行の前に乗り出したのは、記憶を無くしたはるかだった。

 今や生ける無防備な町娘と化していた彼女は、瞳から大粒の涙を流して無実を必死に訴えていた。


 それを見て面食らった勇者は、ぎくりとなって後退する。

 まさか泣き出すなどとは思っていなかったようである。


「おい――あんたら」


 泣きじゃくるはるかの背後から、同業者たる老けた戦士が現れた。


「こんな子供に何かできる訳ないだろう。第一、自分たちまで巻き込んでどうする。あんたらがどれだけ〝偉い〟かは知らないが、もうすこし状況を冷静に判断できるほど〝賢く〟なったらどうだ」


「ええいうるさいうるさい! 黙れ黙れ黙れ! 俺は勇者だ。誰が何と言おうと勇者なんだ! 俺の言う事は絶対で、お前らクズどもの言うことは全て間違いだ! ここまで指咥えて見てるだけだったお前らに、いくつものダンジョンをクリアしてきた俺たちに意見する資格は無ーい‼︎ 大体何なんだおっさん。……そうか分かったぞ。お前らグルなんだな? そうやって何もできないガキを盾に俺を悪者にしようって魂胆なんだろうがそうはいかねぇぜ。今から俺がその腐った小根を叩き直して――」


「ゆ、勇者サマ! あ、あれをご覧ください!」


「なんだナターシャ。人が説教してる時だってのにぎゃあぎゃあとでかい声を…………⁉︎」


 傍若の勇者が口を開けて立ち尽くしていたのは、天井から現れ出た使徒によるものだった。


「あ、あれは……⁉︎」


「ダークスパイダー……! 気をつけろ! 毒性の糸を吐き出す厄介なモンスターだ!」


 老齢の戦士は子供たちを守るように前に飛び出し、毒蜘蛛についての知識をメンバーに与えたのち、鋼の剣を握り、戦闘態勢に入った。


 蜘蛛の6つに割れた赤い瞳は、腰を抜かした勇者に向けてぎらりと光った。

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