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異世界園児紀行  作者: 文月
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第13話

 謎の少女との出会いも、邂逅数秒にして早くも終わりを迎える事となった。

 頭を丸ごと咥えられた悲劇の少女――白咲あかりはそのまま熊に連れ去られて行った。


「待ちやがれ! その娘を離せ!」


「はるかちゃん……!」


 自分以外の誰かのために率先して動けるなんて…!


「ドラゴンにクマの肉なんて、今夜はご馳走だぜ‼︎」


「自分の為にしか動いてなかったーっ‼︎」


「あと、人間の女の子ってどんな味がするんだろうな⁉︎」


「幼児が食人主義(カニバリズム)に手を出すとか、字面だけでも深夜アニメでも完全にアウトですから‼︎ たとえ世の中が世紀末に堕ちてもそれだけは阻止しますよ全力で!」


 走る熊を追いかけながら一行は森の奥地へと向かっていった。


「大体さーあいつもう半分食われてるんだぜ? 巴ってるんだぜ? だったら少しくらいアタシらの血肉に変えちまってもよくないか? 尊い犠牲の元に成り立ってるんじゃねぇか? この世界」


「苗字の方でその現象呼ぶ人初めて見ましたよ……。そっちに踏み入れたら二度と人間には戻れなくなるのでやめてください!」


 なぜ追われているのか分からない熊は、必死で餌を持ち逃げしようと果敢に走っていたが、やがてその動きを止める事となった。

 木々をターザンジャンプの要領でするりするりとくぐり抜けてこれたはるかが、一足先熊の眼前まで飛び出したのだ。

 力押しで障害物をかき分け、速度が減少していった巨体の熊と、リズミカル且つスピーディーに飛び越えていけた小柄なはるかとの差が、両者の距離を縮めた要因となったのだ。


 渾身の力を右拳に込めて、はるかは立ち止まった熊の心臓部目掛けて鉄拳を貫いた。


 熊は獲物を放し、風穴の開いた胸を押さえて背面の木々に体当たりしていった。


「ごっつぁんです」


 拳を手のひらに当てて、一礼の所作を取った。

 遅れて現れたももはその場を眺めて残念そうにナタを片付けた。


「殺り(そこ)のうた……」


「へへっ悪いなもも。これでドラゴンと熊でお互い1対1のタイだな」


「次の獲物が勝負を分けるか……!」


「……くだらない事言ってないで、ももちゃん来てください。この頭食われちゃった子にさっきの回復魔法を――てぎゃあああ‼︎」


「なんだよそんなソウルなジェムが砕け散った時みたいな大声上げのわああああああっ‼︎」


 ももを除いて一様に皆が同じリアクションを取ったのは、目の前で首もなく動き出す(しかばね)幼女のせいだった。


「案ずるな。ワシは不死身じゃ」


 声も出せないはずの彼女がそう宣言した通り、無くなったはずの首を埋めるようにして肉のような繊維がもこもこと膨らんでいった。


「うわああああああっ‼︎ グロいグロいグロいグロい――! なんつうおぞましいモノ見せてるんですか! これ以上は未就学児の教育と精神衛生上よろしくないのでカットさせていただきます!」


「いや、既に蛇ぶち殺してるし手遅れだろ。その取ってつけたような注釈」


 ラスボスの変身か――はたまた化け物の再生シーンか、それらに勝るとも劣らない中々にグロテスク極まりない復活を遂げて、白咲あかりは元の姿に戻った。


「ふぅー。いやぁ油断してもうた。すまんすまん。『グロウベア』の巣穴突っついておったのをすっかり失念しておったわ! なっはっははは!」


 再生に際して垂れ流していた黄緑色の液体を撒き散らして、彼女は高らかに笑っていた。

 気色の悪い光景を目の当たりにしたつぐむたちはちっとも笑う気になれず、むしろ顔から表情という表情がすっかり消え失せていた。


「もののけか――貴様」


 侍のような構えでナタを取り出したももが、不気味な彼女の背後に回る。


「待て待て! 誤解じゃ誤解! わしは不死身じゃが、ヌシらと同じ人間じゃ! ほれ――覚えておらぬか? ワシじゃよワシ」


「興味ないね」


「なんじゃその金髪ソルジャーみたいな立ち振る舞いは! ヌシらは覚えてなくともワシはしっかりこってりくっきり覚えておるぞ!」


 つぐむに(たしな)められ、ももは後ろに下がっていった。

 不死身の幼女に彼女はゆっくりと恐る恐る近づいた。


「ということは――生前、同じ世界のどこかでお会いしている……という事ですよね? ……それにその園児服も……」


「うむ。イカにもフライにも覚えておるとも。皆月光太郎に、ヌシは榎木秀次じゃな⁉︎ それでもってあそこで武士(もののふ)のように佇んでおるのは神城桃三郎じゃろ?」


「自信満々で切り出した割にカスりもしてないじゃないですか‼︎ いや、多少大目に見てカスっていたとするにしてもなんで全員男性名なんですか! 微妙に外してるし! 私は榎本つぐむです。こちらは皆代はるかちゃん。あそこでお侍さんみたいにしてるのは神崎ももちゃん。ももちゃん危ないからそれしまってください」


「あー! そっちか〜。ワンチャンそっちじゃったか〜! 惜しいのう〜。いやわしも二択までは詰めたんじゃがのぅ〜!」


「……絶対嘘ですね。二択まで詰め寄って結果がそのザマならとんだ選択ミスです。ええと、同じ伊勢海幼稚園なんですよね?」


 うむ! と彼女は元気よく髪を飛ばす勢いで頭を振る。

 つぐむがいまひとつその答えに得心がいかなかったのは、まず第一に見覚えがまるでないということ。

 さしもの超のつく優良園児で園の看板として園児たちの手綱を引いてきた彼女といえど、全ての園児の名前・容姿を正確に把握している訳ではなかった。

 しかしそれでも大抵の園児は一目見れば覚えたし、なんとなくではあるが、写真と照らし合わせれば「あぁこんなやついたな」程度までは思い出せるくらい園全体に目を通していたのだ。


 彼女の包囲網を逃れられる園児などせいぜい転園してきて間もない園児か、将来転園してくるだろう子供しかいなかった。


 彼女に取って見覚えのない園児が、見覚えのある園の制服を着ている――そして自分たちを知っていると抜かす存在など、首を傾げて(いぶか)しむしかなかった。


 それに彼女が園に在籍していた頃、『白咲あかり』などという園児の名前は見たことも聞いたこともなかった。

 少なくとも彼女の記憶には無い。


「そりゃそうじゃて。苗字はこの世界に来てわしが付けたものじゃからな」


「………………いきなり信用ガン落としするような発言しないでくださいよ。それじゃあ本来の苗字は何なんですか?」


「知らん」


「ええええええーっ⁉︎」


「それが此処に来てからというものの、昔のことはほとんど覚えていなんだ。頭でもぶつけたのかと思うたが、そういう訳でもないらしいのう。というわけで今わしがなんとなく覚えておるのは死の直前の記憶が少々、くらいじゃ」


 胡散臭い人物がより胡散臭くなった瞬間であった。

 ますますもって警戒心を高めるように、つぐむはももやはるかを抱えようとした。


「これこれそう急くでない。ヌシらもきっと覚えておるはずじゃよ。ほれ――ヌシたちが居た『こんびに』があるじゃろ?」


「コンビニ……ですか?」


 その単語を聞くとつぐむは顔をしかめた。

 直接的な恨みこそないものの、そこで亡くなった彼女らにとってロクな思い出があるはずもなかった。


 はるかもあかりの話を聞いていたので、必死で記憶を雑巾のように搾り取って当時の記憶を思い出していた。




   ◇ ◇ ◇



 あれは気持ち悪いほど太陽が照り返し――(以下略)、はるかとももはコンビニで立ち読みに(ふけ)っていた。

 そこへ辿り着き――叱り飛ばしていたつぐむの会話も間も無く、恐怖の余所見運転走行者が突撃してきたのだ。


「そこじゃよほれ。何か思い出さんか?」


「何かって言われてもな……うーん。ももっち何か気が付いたことあったか?」


「そういえば……」


 ももは立ち読みをしながらも、店の外を本越しに横目で眺めていた。

 そこには白い犬を連れて歩いていた一人の年老いた男性がいた。

 震える腰をぷるぷると揺らし、はしゃぐ犬に振り回されながら散歩をしていた。


 やがて訪れる悲劇に巻き込まれる事に――気が付くはずもなく。


「ま、まさかそのお爺さんが……⁉︎」


「そうじゃ」


『えええええええええーっ‼︎』


 はるかとつぐむは声を合わせて驚愕の絶叫を上げた。

 老齢の爺が自分と同じ年齢の幼児に転生しているのだ。

 自分たちは同じ姿を保って転生したというのに。

 これが驚かずにはいられなかった。


「嘘じゃ」


「え、ええええええ…………」


「やいてめぇ適当な事抜かしてっと、もう一度その首巴るぞ‼︎」


 はるかは勢いよくあかりの胸ぐらに掴みかかった。


「わーこれこれ待たんか! まっこと近頃の若者は冗談が通じんのぅ」


「冗談で済む事と済まねえ事が世の中にはあるんだぜ、昔頃のじじい。いやババア」


「……それは冗談まみれのはるかちゃんが責めていい案件ではないでしょう。それと近頃の対義語は昔頃じゃないですよ。それで、あかりちゃん…‥で良いんですかね?」


「うむ。そう書いてあるしの!」


 ご機嫌で胸のワッペンを指差して言った。

 そこには確かに平仮名で「あかり」と記されていた。

 白咲は彼女がたった今つけた物だとして、あかりというのは本人の名前だろう。


 彼女が生前追い剥ぎか盗賊でもやらかしてスモッグを奪ったりしていない限り、現時点で記憶が曖昧なあかりが本人である唯一の証明となるだろう。


「そういえばわし……病院に居たような気もするのぅ」


「もう何が真実なのかわかりませんね……」


「まぁまぁ聞け若人よ。何故じゃかわしの脳裏に焼き付いておるのは医者の手袋と手術台のライトなのじゃ。ほれ、何か繋がっているように思えんかの?」


「死ぬ前にホスピタル実録闘病記録(ドキュメンタリー)番組か、病院ドラマでも見ていたんじゃねぇのか?」


 度重なる不審な発言に、さしものはるかも呆れと困惑に満ちていた。


「うーん……そう言われると自信が無いがのぅ」


「とにかくだ。耄碌(もうろく)老人の与太話に付き合っていられるほどアタシら暇じゃねーんだよ。これから森の捜索に出回らなきゃならねーんだからな」


「いや別にその必要は無いんですけども……」


「その件なんじゃがのぅ。ならばこそわしがヌシらの力になれるのではないのかの?」


 ドヤ顔で腰に手を当て、あかりは3人の前に立った。


「どういうこった」


「ヌシら、ワシと組まんか?」


 ゾンビで老人な園児からの、思いもよらぬ提案だった。

【オッス!わしあかりじゃ。続きが気になる!と思うた皆、わし個人への応援よろしゅうたのむ!】


うむ、文句なく面白いぞ!   →★★★★★


まぁ、面白いぞ!       →★★★★☆


面白いとは思うぞ!      →★★★☆☆


なんじゃこの作品は!○じゃ! →★★☆☆☆〜★☆☆☆☆


あかりちゃん可愛いのう!   →★★★★★


「後書きの私的利用はご遠慮ください! 次回もお楽しみによろしくお願いします!」







NEXT EPISODE >>> 『わしと契約してパーティーメンバーにしてくれ!』

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