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プロローグ 幸せの為の讃歌



「ねえ、皆でかくれんぼしよう」


 放課後の教室。

 私は残っていた女子三人に提案する。

 かくれんぼなんて小学五年生にもなると滅多にしないけど、今日は特別な日だ。

 

「「賛成ー!」」


 仲が良い友人である二人が笑顔で応える。

 手に赤いマジックペンを持った友人達の顔は気合と期待に満ちていた。私も笑顔を浮かべてノートを手に持つ。


 私は教室の隅に一人で居る子に近づく。


栄子(えいこ)も一緒に遊ぼうよ」

 引っ込み思案の栄子は、誘わないと私達の輪に入らない。

 栄子は不安そうな表情で私を見上げた。私は「大丈夫だよ」と笑い、栄子の手を引っ張って立たせる。


「栄子、さんかするって」


 私と友人二人は嬉しくて笑う。栄子はモジモジと下を向いた。

 

 ランドセルを持って、四人で教室を出る。私は栄子と手を繋ぐ。栄子の手は緊張で汗ばんでいたが、気にせず廊下を進んだ。

 

 私の通っている小学校は校舎が二つある。

 一年生と二年生は本校舎、三年生から六年生は新校舎で過ごす。


 普段過ごしている五年生が使う新校舎の三階から渡り廊下を通り、二年生が使う本校舎の三階へ移動する。


 廊下の隅の奥まった場所に隠れた黒い鉄の扉があった。

 銀色の冷たいドアノブを回せば、重たく軋む音を立てて扉が開く。

 

 上の階に続く階段がある事に、栄子は驚く。


 本校舎は三階建てだと多くの生徒は思っている。本当は四階建てである事を私も先週初めて知った。 


 四階まで上がると薄暗い廊下が続き、使われていない空き教室が並んでいた。

 私は端にあった教室に入る。四階の教室は全て鍵がかかっておらず、自由に出入り出来る。


 空気が籠った教室の独特の匂いが鼻を掠める。

 私は教室の後ろにあるスチール製のキャビネットの扉を開ける。

 無機質なキャビネットの中は、かくれんぼには最適な場所だ。


 私は後ろを振り返り、栄子に向かって笑みを浮かべる。


「栄子。ここに入って。絶対に出ちゃダメだからね」


 暗いキャビネットの中を見た栄子は怯えた顔になる。


 私は繋いでいた手を引っ張り、キャビネットの中へ栄子の体を叩きつける。他の二人と協力して、キャビネットからはみ出した栄子の手足を中へ押し込めていく。


 突然の事に、栄子は取り乱しながらも必死で抵抗する。

 栄子に爪で引っ掻かれた腕に痛みを感じたが、友人が栄子の顔を殴って大人しくさせた。

 キャビネットの扉を急いで閉め、鍵穴に差さっていた鍵を回して施錠する。

 

「開けて! 開けて!! やだ!!」

 栄子はキャビネットの扉を何度も叩く。栄子の悲鳴が面白くて、私はニンマリと笑った。


「じゃあ、皆で幸せになるおまじない『さんか』をしよう」

 私は持ってきた黒いノートを広げる。


 白い紙の上には、魔法陣みたいな絵やカタカナと漢字で書かれた文章が並んでいた。


 私達は協力して、おまじないの準備をする。赤いマジックペンでキャビネットの扉に魔法陣を描く。

 ランドセルの中からノートを取り出し、破ったページに栄子の姓名を書く。

 キャビネットの扉に付いていたマグネットを使い、栄子の名前を書いた紙を貼り付けた。


 三人で手を繋ぎ、私達は口を開く。


『サンカ、サンカ。我等ノ不幸ヲ閉ジ込メテ、我等ニ幸ノミヲ残セ。サンカ、サンカ。柱ニシタ者ノ、幸モ我等ニ与エタマエ。サンカ、サンカ。全テノ不幸ヲ閉ジ込メヨ』


 少ししか練習していないのに、綺麗に声を揃えて歌えた。

 歌い終えた時、栄子の声が聞こえなくなった。

 キャビネットの扉に貼り付けた紙の文字がじわりと滲み、白い紙に黒いシミが広がっていく。栄子の名前が黒いシミに侵食され、紙が真っ黒に染まった。


 おまじないが成功した証拠に、私達は歓喜する。


「これで私達は、ずっと幸せなんだね」


 三人で顔を見合わせ、微笑み合う。

 晴れ晴れとした思いで、私達は教室を出ようとする。


 カリカリカリカリ。


 何かを引っ掻くような微かな音が耳の中に響く。

 私達は気にせずに階段を降りて、黒い扉を通って三階に出る。

 振り返ると黒い扉は消えており、無機質な白い壁があるだけだった。


 これから起こる楽しい事への興味で、黒い扉を思い出す事は無かった。




プロローグと第1話は同日投稿します。

投稿時間はバラバラになりますが、2/19(土)まで毎日1話ずつ投稿します。短期連載作品ですが、最後まで読んで頂けると嬉しいです!

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