涙のワケ
窓に当たる雨の音を聞きながら、ベッドの中で何度も寝返りを打つ。
「眠れない…」
今日、仕事でしてしまったミスの事が頭から離れない。
…というより、その時に言われた先輩の台詞の方がキツかったかな。
「…ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。」
「自分から謝る頭はあるのね。でもこの時間、無駄だから早くミスしないで仕事出来るようになって下さい。」
「はい。すみませんでした。……失礼します。」
そんな言い方する事ないじゃんっ!
私だって好きでミスしてるんじゃないのにさ!!
ゔぅ…悔しい。
何とか涙が溢れないように堪えるので必死だった。
いや、私が悪いよ?…わかってる。
「でもさ、もうちょっとあるでしょうに!言い方がさ!あぁっ!もうっ!!」
ガンッ!
持っていたビールの缶を飲み干してテーブルに叩きつけるように置いた。
こういう時のお酒は良くないってわかってる。
わかってるけどさぁ!飲まなきゃやってられないでしょう?…はぁ。
変な飲み方をしたせいか頭がガンガンする。
酔っ払って寝てしまおうと思ったけど、どんなに飲んでも意識が無くなるなんて事はなかった。
全く眠れる気配がないまま、日付が変わる頃になってパラパラと降り出した雨の音が気になって、さらに目が冴えてしまった。
今日が休みで良かった。
正直、何でもない顔して出勤する元気はなかったはずだから。
派遣社員として今の会社に入り、もうすぐ半年になる。
自分では仕事が出来ない方だなんて思っていなかった。
でもそれはやっぱり驕っていたんだと思う。
「いつでも、誰が相手でも、敬って教えて頂く気持ちを忘れたら駄目よ。」
私が就職を機に家を出る前の日に母から言われた言葉だ。
…今になって物凄く身に染みている。
言葉の重みが違う。
そりゃそうだ。
父が幼い頃に病気で亡くなってから、母は私を女手ひとつで立派に育ててくれた。
長いこと外で働いているからこそ、私への忠告と激励を込めて伝えてくれた言葉なんだと思う。
外で働き、お金を稼ぐという事がどれだけ大変か。
それはやはり自分でやってみないと分からない。
毎日クタクタになりながらも、愚痴も弱音もこぼさず働いていた母を本当に心から誇りに思う。
そんな母の背中を思い出して、ジワッと涙が浮かんだ。
「お母さん、しんどいわ。…なかなか上手くいかないね。」
ボソッと呟いたその時、スマホが光った。
「え?こんな時間に誰?」
時間は深夜の1時過ぎ。
こんな時間に連絡が来ることなんて滅多にないので、ドキドキしながら画面を見た。
『もう寝てたかな?何となくアンタが泣いてる気がしてメールしてみたわ。ま、そんな訳ないか。
しっかり寝てご飯食べて、明日もボチボチ頑張りなさい。
…それじゃ、おやすみ。』
「なんで……凄いタイミング。」
私はメールを読みながら涙が止まらなかった。
母のパワーって凄いわ。不思議。
なんで私が落ち込んでるって分かったんだろ…?
さっきまでの悲しい、悔しい涙とは違って、今流しているこの涙はとても温かい。
はぁ。母は偉大だわ。
クスッと笑ってメールの返事を書く。
『起きてたよ。泣いてる訳ないじゃん!私は大丈夫だよ。お母さんの子なんだから当たり前でしょ?お母さんも無理しないでボチボチね。今度の休みに顔見せに帰るから。それじゃ、おやすみ。』
グスグスと鼻を啜りながらメールを送信した。
…お母さん、ありがとう。
私、もうちょい頑張ってみるわ。