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第8章《火力集中と縦深防御》 

 この章では攻勢にせよ防衛にせよ、近代戦争においてもっとも基本的かつ堅実である、とある概念について論述する。

 近代戦争においては展開した兵力というのは総じて《火力投射手段》であることに疑いはない。主任務がそうでなくとも、なにがしかの銃火器で武装していることは間違いないからだ。

 戦史において、弓矢や弩で武装した兵士や、砲が登場した時、この優力な《火力投射手段》をもっとも的確に運用した者は《騎士道を捨てた》と揶揄されたが、勝利を手にすることに成功した。


 そうして、総力戦の時代になり、人類は塹壕の泥と機関銃陣地と鉄条網を前にして、砲火力ともう一つの概念に遭遇する。

 これが即ち、《十字砲火》である。近代戦争におけるもっとも基本的な概念にして、防衛陣地や攻勢を考えるにあたって頭に入れておくべきものだ。

 《十字砲火》とは、原語にして《Crossfire》といい、相互支援を念頭においた武器の配置とその運用のことを言う。


 この概念は第一次世界大戦において猛威を振るい、塹壕や鉄条網とあわさって《防衛絶対優位》の時代を築き上げた。

 基本的にこの《十字砲火》は、ポイントBの機関銃陣地へ敵攻勢が来れば、ポイントBに隣接するポイントA、ポイントCから火力支援を受けつつこれを撃退するという、至極簡単な運用のことを言う。

 が、ここで述べる《火力集中》とは、その運用を意味しない。


 ここで述べる《十字砲火》とは、展開した《火力投射手段》による《複数方面からの火力集中》のことを指す。

 単なる火力集中であれば榴弾砲やカノン砲、あるいはロケット砲などでも持ち出せばよいが、この概念においてこれらの遠距離砲撃手段は意味をなさない。

 この概念においてもっとも重要なのは、《敵側に思考する時間を与えず、また時間を与えるとしても間髪入れずに''複数方面からの火力集中》''行い、損害の加速度的増加を危惧させること》にある。


 例をあげるとするならば、敵方が我が戦線中央への突破をもくろむという状況に置いて、我が方がすべき戦力展開は、以下のとおりになる。


 


1.戦略予備を用いて戦線中央における遅滞戦闘を行い、迎撃戦力の配置までの時間を稼ぐ。


2.現有戦力において有力な打撃力を持つ兵力を、迅速に敵戦力の左右へ展開させる。


3.増援、ならびに配置した左右の兵力によって、両側面より攻撃し、敵方へ圧力を加え続ける。

 

 

 これにより、敵方の戦闘面は正面・右側面・左側面の三正面となり、判断を鈍らせる要因となりえる。

 また我が方の兵力によって側面の優位が取られているため、継続的進出に成功しても、兵站線の確保が困難であると危惧させる。

 しかしながら、こうした兵力展開において重要なのは、《展開が完了することが可能か》という一点にある。


 たとえ、戦線中央が食い破られたとしても、左右の戦力が展開し敵へ圧力をかけられるのならば、戦線中央の兵力はなんとしても時間を稼がねばならない。

 最悪なのは兵力が展開し終えていない状態で戦線中央が食い破られ、敵援軍の到来により左右へ分散した兵力が逆に多方面からの圧力を受け敗退することである。

 戦闘正面、つまりは攻撃すべき方向は、可能な限り一正面に抑えるべきであり、これは戦略においても戦術においてもなんら変わりない。


 また、戦線の防御は複数のラインによって構成されることを述べる。

 まず第一の線は、《警戒線》である。これは敵の襲撃を察知するためのものであり、突破されることを前提として置くべきである。

 そして第二の線は、第一防衛陣地である。これらは分割された、隣接する陣地からそれぞれが相互支援が可能な《防衛線》である。


 最後の線である第三の線は、戦略予備、あるいは攻勢を受け止める《金床》である。

 そしてその《金床》の後ろには、これらの部隊を支える《兵站線》を置く。

 これによって遂行される防衛は、一般的に《縦深防御》と呼ばれているものと同様である。


 陣内に攻め込んで補給線の伸びた敵軍を、左右の戦力によって両翼包囲する機動をとる。

 この戦術は、防御が強固でない前線=《警戒線》は容易に突破することができるため、敵方は防御が弱体であると思い込みやすい。

 しかし、多段的に構築された防衛側のラインにより、前進すればするほど抵抗を受ける。


 敵方が前進するにつれ敵方の戦力は削れ、側面からの攻撃への耐性は加速度的に減少していく。

 そのような状態にまで弱体化した敵方勢力は、包囲殲滅の危機から脱するために攻勢を中止せざるを得ない。

 この防御方針は、攻撃による防衛という点で《攻勢防御》であり、立ち止まって静観するだけではなく、主導的に攻撃することも求める。

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