第6章《防衛と攻勢防御》
読者諸兄は前章を読み終えた後、では防衛とは必ずしも不利なのか、という疑問が持ち上がったであろう。
もしくは攻勢三倍の法則というものがあるではないか、防衛が不利とはなにごとか、と憤ったかもしれない。
この章において、その防衛について解説する。
防衛とは攻勢を受けている地点、あるいは地域を出来るだけ長く踏みとどまること、あるいは攻勢を防ぎきってそれを頓挫させることである。
前章において攻勢における利点について言及したが、防衛においても利点は存在し、これらは攻勢の側にはない勝利という宝を得るための鍵である。
防衛側の利点は、攻勢側の兵力展開によってその企画するところを読み取ることが容易である、という点にある。
たとえば、敵攻勢の主目的が陣地の奪取と占領にある場合、敵は我が陣地の兵力を破砕し、陣地を奪取し逆襲に備えねばならない。
であれば、我々はその意図を挫く為に陣地へ兵力を投入し、敵攻勢兵力を孤立させ、火力によってこれを混乱させる、ということが行える。
現地兵力による防衛が困難であっても、敵の企画を挫く為に間髪入れぬ逆襲を企画することもまた可能なのである。
さて、防衛には厳格に二つの防衛が存在する。
受動的なものと、適時攻勢を行う主体的なものの二つである。
受動的な防衛は、一般的に【防衛】という言葉そのものを意味していると誤解される。
敵の主体的攻勢を防御する、というのは、たしかに防衛ではあるが、これは受動的防衛に区分される。
受動的防衛の利点はあるにはあるが、しかしその利点は戦いの主導権を相手に受け渡しているという点ですべてがふいになる。
戦いにおいて主導権を相手に委ねるということは、攻勢の利点を相手にすべて委ねるということであって、強いられた場合を除いてするべきではない。
対して、適時攻勢を行う主体的な防衛は【攻勢防御】であり、これは大いに成功を収めることが可能である。
これは敵の攻勢集団へ攻撃をしかけ、戦力を消耗させその機動を鈍化させ、地点・地域への攻勢そのものを頓挫させるものだ。
【攻勢防御】は敵方が想定した主戦場よりも手前で戦闘を開始させ、想定した主戦場へ到達したときの状態を著しく損なうよう仕向けるものだ。
至極簡単に言ってしまえば、殴ろうと拳を振りかぶった相手にまず一撃殴ることこそが【攻勢防御】の第一である。
攻撃は最大の防御、という言葉があるように、攻撃によって戦場の主導権を適時奪い取ることによって、敵の攻勢計画を破綻させるのである。
敵の計画した戦場で戦わせず、敵の意図した戦い方をさせず、我が方の計画した戦場で戦い、我が方の意図した戦いによって戦場の主導権を発揮するのが正しい。