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第1章《戦略及び基本原則》

第1章《戦略及び基本原則》



 まずはじめに、いくつかの基本的事柄をここで挙げたい。

 これはアントワーヌ=アンリ・ジョミニ(1779年3月6日-1869年3月24日)の『戦争概論(Summary of the Art of War)』の『戦略(Strategy)』に述べられている。

 ジョミニは下記を【戦略の諸件】として上げている。


“1.戦地(戦域)の選定と、その許す各種の組合せについての検討


 2.これらの組合せにおける決勝の要点と、そして最も有利な作戦方向の決定


 3.固定基地および作戦地帯の選択と設定


 4.攻、防何れを問わず、目標の選定


 5.戦略正面、防衛線および作戦(攻勢)正面


 6.目標または戦略正面に至る作戦線(兵站線)の選定


 7.与えられた作戦については、起り得るべきあらゆる事態に対応する為に必要な最良の戦略線(退却線)および様々な機動


 8.不時に備えた作戦基地と戦略予備


 9.機動として見なされる軍の行軍


 10.補給処の位置と行軍の関係


 11.戦略上の手段、軍の避難場所、および作戦進捗への障碍としての要塞、攻囲の実行とこれが防止


 12.設堡野営地、橋頭堡、その他


 13.牽制行動の実施と、これがために必要な大規模支隊“

 (中公文庫(佐藤徳太郎訳)の65頁より引用)



 では、この13項にも及ぶ項目それぞれが、どのようなことを指しているのかを下記で解説する。


 1.では戦場の選定、そしてその戦場に投入可能な兵力の検討を意味している。

 これは非常に重要なことであり、兵力による機動(maneuver)には限界があり、即座にそこへ投入できる兵力などは、用意せねば存在しない。

 そのため戦場を選定し、その戦場にどれほどの兵力を展開することが可能かを、検討するのである。


 2.では、1.で検討された組合せを用いて、どのように勝利することができるか、そしてどうすれば我が方が有利な展開に持ち込めるかの検討と決定である。

 現有戦力と随時投入可能な兵力をもってして、実際にどのようなことが可能か、どのようなことが不得手かを、指揮官は把握し、検討しなければならない。

 兵力というのは兵科においてまったく異なる特性を持っているため、編成によって可能なことと不得手なことがあるのは、まったくもって当然なのである。

 

 3.においては拠点となる固定基地と、作戦を実施する地帯の選択と選定を行う。

 これは物資集積地点などの後方拠点をどの位置に置くか、そして作戦実施に適した地帯はどこかを検討している。

 これらの検討は兵站―――補給のみならず、援軍の使用する経路などにも影響を及ぼすため熟慮するべきである。


 4.攻防どちらでも【目標】を選定する。

 言わずと知れたことではあるが、これがもっとも失念され易い。

 どのような状況にあっても指揮官は【目標】を持つべきであり、手持ちの兵力を意味もなく遊兵と化すはもっとも愚策である。


 5.全方面で攻勢に出ることは特殊な事例を除き不可能であるため、作戦正面と防衛線を結び戦略正面とする。

 作戦正面は作戦を実施する戦域の前線を表し、これはほとんどの場合、攻勢正面であることが多い。

 一方で防衛線は敵方の後方への浸透を阻害するように、防衛に適した要衝を事前に確保することが重要である。


 6.目標が決定され、作戦正面も決定されれば、それを実施するための【作戦線】を検討する。

 これらは【兵站線】のことを意味しており、【補給ならびに援軍行軍経路】のことを意味している。

 十分な補給と援軍のない部隊は、穴の空いたタイヤのようなもので、次第に圧力を失って外圧の前に屈する運命にある。


 7.は起り得る事態に対応する為に必要な【退却線】と、そこに兵力を【戦略再配備】する場合の機動についてである。

 攻勢が破砕された場合や防衛線が一部食い破られた場合、指揮官は手持ちの戦力を持って敵の追撃・逆襲を防いで被害を食い止める必要に迫られる。

 この際、数的優位はないにしても、地理的優位を確保する為に、事前に【退却線】を決定しておくことが重要である。


 8.においては、なにかしらの失敗、失陥があった場合に展開可能な戦略予備について。

 これらは必ずしも最初から【戦略予備】であったわけでもなく、たとえば後方防衛用に展開していた兵力などは戦況如何によっては【戦略予備】となりえる。

 展開している兵力はすべて戦闘に投入することを前提に展開せねばならず、いざという時は【戦略再配備】によって【戦略予備】を生み出すことも必要とされる。


 9.~13.にかけては、述べられている通りであるため割愛する。



 またジョミニは戦争には基本原則が存在することを記している。

 これは『戦争の基本原理(the fundamental principle of war)』に述べられている。



“1.軍の主力を、戦争舞台の決勝点に、または可能な限り敵の後方連絡線に向け、自己自身と妥協することなく、戦略的移動により、継続的に投入すること


 2.わが兵力の大部を以って、敵の個々部隊と交戦するよう機動(maneuver)をおこなうこと


 3.戦場においては、部隊主力を決勝点か、または打倒することの最重要な敵線の一部に向け投入すること


 4.これら主力は、単に決勝点に向け投入されるだけでなく、しかるべき時機に十分な戦力で戦えるように措置しておくこと”

 (中公文庫(佐藤徳太郎訳)の66頁より引用)



 これらはなんら矛盾なく、的確に戦場における戦力の運用を表している。

 1と2では、勝つためのポイントに兵力を大部に、継続的に投入し、敵の個と交戦することを推奨している。

 3と4においては、投入するポイント、打倒することが重要とされる敵線の一部へ、十分な戦力で戦えるよう措置された兵力を投入することが上げられている。


 かいつまめば、


・戦術的勝利点に数的優位を持って戦力を投入し、この数的優位を維持すること。


・部隊主力は戦術的勝利点、あるいは破砕することが妥当と思われる一部に向け投入すること。


・また、そうした部隊は十分に戦闘できるように十分に補給を受けた状態で投入すること。



 そしてジョミニはこれらの原則を上げた後に、こう述べている。



 “集団戦力を勝利点に投げよというは易いが、問題はそれがどこであるかということである”

 (中公文庫(佐藤徳太郎訳)の67頁より引用)



 これは序文において前述した、【戦場の霧】が存在するために、【どこに兵力を投入すればいいか判断できない】という状態があるということである。

 こうした状態にある場合、主として考えられるのは【偵察の不足】である。


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